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5.見た目は王子様な婚約者様と、家族認識のわたし

「なんで俺たち婚約してたんだっけ」


「それは実家の都合のあれこれと、政治的なカードうんぬん。ほらこれ終わったなら次そっち教えて」


「おー。こっち終わったからそっちよこして。俺たちなんかニコイチの感覚強すぎて、もうお前なんて恋愛対象として見らんねえわ」


「別段それでも、わたしたちの結婚には困らないと思うけれど。愛人こさえるとしたら、わたしに跡継ぎが生まれてからにしてね。跡継ぎできる前に愛人が妊娠したら、それだけでうちの誰かがあなたの、大事な所ちょっきんしちゃうだろうから」


「おっかねえな!?」


わたしは学園のカフェテラスで、向かい合って課題をこなしている婚約者様を眺めた。

眉目秀麗な婚約者様は、平々凡々な顔立ちのわたしとは大違いの、自慢の見た目をしている。ついでに言ってしまえば、舞踏会とかで連れて歩くと気分がよくなる、顔と体形と言ってもいいだろう。

わたしからすれば、中身はいまだ餓鬼大将で、男女の性差など無視して、婚約者のわたしを連れて歩く、空気の読めない男だけれども。


「あなたがきちんと諸事情を、確認してから遊べばいいのよ。あなたのお父様が、愛人こさえすぎて、痴情のもつれでお母様に叩かれて、すごい顔で土下座していたあれは忘れられないわ」


「あれは俺も結構ひいた。うちの親父どの色ボケだからな」


「息子に言われるなんて、世も末ね」


「だろー」



げらげらと下品に笑う婚約者様だけれども、この顔はとても上品な物だから何をしても、気品があふれてしまう物なのよね。

本当に顔面偏差値が高い、って得だわ。

商談の一つや二つだって、この顔一つで揺り動かしてしまえるんだから。


「そうだ、聞いたわよ。あなたこの前、女の子連れて夜の街に繰り出したんだって」


「おー」


「やめなさいよ、いろんな意味で。女の子泣いちゃったって聞いたわよ」


「あれはあいつが悪いんだよ」


ふくれっ面をする婚約者様にも、言い分があるのだろう。

まあ大体、子供っぽい言い分なのだろうけれども。

それを半分予測してみて、取りあえず主張を聞いてみる姿勢をとる。

そうせざるを得ないのは、わたしが世間的に長年の婚約者だから。

彼の父親は、浮気は男の甲斐性とか言い出しかねない、一昔前の上流階級の考え方のお人だし、母親は彼の素行を見放している部分があるから、彼を放置しているし。

たしなめたり、主張を聞いたりして、周りとの軋轢を減らすのはわたしの役割なのだ。

それを苦労だと思った事はないし、この婚約者様は精神年齢がやや低いから、しょうがないのだ。

そして大体、彼の主張は歳よりも子供っぽい、直球の物が多い。


「俺と夜に遊びに行きたいっていうから」


「場所とかの指定はなかったの?」


「聞いたよ! 俺前、お前に言われてたからちゃんと聞いたんだよ。行きたいところある? ってさあ! でもそしたら、いつもの俺が楽しんでいる場所がいいっていうから、そんならあっちこっち連れまわしてもいいかな、って思って連れまわしてたら、顔色悪くなってきて。具合悪いみたいだから、その辺の店の奴に金握らせて、あいつの家の召使呼ばせたら、なんかすっげえ泣き出してさ」


「……」


わたしは頭を抱えたくなった。

この顔面詐欺野郎……と言いたくなる部分がある。

そうよね……この、お伽噺の白馬の王子様のような、見た目だけなら品行方正な、さわやかで快活で、女の子のあこがれになりそうな男が、夜に遊びに行くとしたら、女の子が憧れるロマンチックな場所がメインだと幻想を抱くかもしれない。

例えば星を見に行くために、街のはずれの丘とか。

夜の植物園とか。美術館とか。後は夜の舞踏会とか。後はロマンチックと言えば……夜にだけ咲く花を公開している、この都市自慢の庭園とか。お芝居とか。演奏会とか。

この見た目によく似あう場所を、想像するだろう。


「なんだよ、お前さっきからすごい顔してるけどさ」


「あなたの顔面と中身のそぐわなさに、頭を抱えているのよ」


「俺の顔は俺の生まれた時から決まってて、俺の性格と関係ないだろ」


ぶーたれている婚約者様だけれども、わたしはとりあえず、その女の子の心情を代弁してあげなければならない。

それが優しさだ。

この男は、そういう自分の顔と行動の落差を、良く分かっていない部分があるから。


「あなたの見た目は王子様だって、知ってる?」


「よく言われるよな。舞踏会とかでさ。王子様より王子様って」


「そうよね、取りあえずそれはわかっているのよね」


じゃあなんでその影響力を理解できないのか。

一瞬とても悩むけれども、これだもの。無理だわね……と同情する。

根っからの餓鬼大将で。暴れん坊で、曲がった事が大嫌いで。

王子様というよりは、悪餓鬼が大きくなった性格。

それだから、あまり自分の見た目のあれこれと、自分の行動のギャップを考えないだろう。

まあ公式的な世界では、家の顔を潰さないようにきっちりするから、そちらばかり見ていれば王子様の認識を変えられない、かもしれない……


「じゃあ、その見た目で、やれ下町の酒場だの、ちょっとエロティックなダンスをするダンスホールとか、怪しい空気満載の変な市場とか、ごろつきみたいな乱暴な男の人たちが集まる格闘場とか入り浸るの、あれだとか思わないかしら」


「あれってどれだよ。俺は犯罪だってやってねえし、家の迷惑になる羽目の外し方はした事ないし、限度知ってるのお前だって知ってんだろ」


「わたしが知っていてもね? その相手は思ってなかったんじゃないかしらね」


「そんなの、相手のげんそーだろ。俺はちゃんと最初に、相手に合わせる姿勢を見せただろ、誠意だって見せただろ、なのになんでげんそーと違うからって泣かれなきゃなんねえの。げんそー見たかったら近付かなきゃいいだろ。もしくは俺に合わせないで、自分に合わせようとすりゃ、俺だって夢見させたまんまだっただろーがよ」


主張はもっともだ。この婚約者様はきちんと、相手の行きたいところやその他を聞いたに違いない。


「俺、お前に色々教えてもらったから、ちゃんと女の子の事聞くようになったのに。全然意味ないじゃん、俺がやりたい事とか、行きたい所とか、一緒に行くって言って泣かれちまったら」


「……女の子を泣かせて後味が悪いっていう感覚は、あるようで何よりだわ」


「だってお前、お前が泣かせるのはいけないって。女の子はすぐ泣くし。泣いて周りの同情買って、女の子が悪くても俺の事悪党にするから、泣かせる方が手間だって教えたんだろ」


「わたしそんな風に教えた……?」


「いろいろながーい説明あったと思ったけど、まとめて短くしたらそうだと俺が思った!」


にいっと、王子様の顔で悪ガキの笑顔を浮かべる婚約者様だ。

わたしは注文していた、ソーダフロートがやってきたのでそれをストローですう。

ぱちぱちとした炭酸が口の中ではじけて、少し疲れが癒される。


「あー、俺も、一口くれよー」


「あなたアイスカフェオレ頼んだのに」


「お前の見てたらうまそうなんだもん。なー。一口一口」


「はいはい。そっちも味見したいわ、一口ちょうだい」


「おー」


二つのグラスは入れ替わり、どっちも一口で返される。


「ここのソーダ、うまいのな、次からそうしよ」


「ここはミルクの割合が多めのようね、あなたもっと苦い方が好きでしょ」


言いながら二人で、課題を終わらせていく。

どっちも相手の苦手な物が得意だから、意見交換は簡単だし、教えあいができて都合がいい。


「やっぱ、お前家族だよなー」


課題が終わったあたりで伸びをして、婚約者様がしみじみとした声を上げていた。





わたしと婚約者様は、五歳のあたりで出会った。たしか同じ年の王女殿下の、妹君が誕生したお披露目パーティで呼ばれたのだ。

どちらも家がかなりの名家という事もあって、大事なお披露目パーティに五歳で登城するのを許されたのだったと思う。

詳しい話はお父様か、お母様、もしくは執事頭に聞けばわかるだろう。

そこでわたしも彼も、赤ちゃんだった王女殿下の顔を早々に見飽き、大人たちが社交だのなんだので行き交う間、貴族の子供たちだけで集められたのだ。

貴族の子供と言っても、登城が許されるくらいの上位貴族の子供しかいないから、未来の縮図だったのだろうけれど。

その中でもひときわ目立ち、王子殿下と並んで貴族少女たちを集めていた彼と、勝手にお茶を飲んでお菓子をつまんでいたわたしは出会った。

彼はまだその頃、外面を良い方にしておく特訓をしていなかったし、女の子の心理を説明してくれる協力者、がいなかったからとても……雑だった。

彼は父親がかまってくれないから、家に出入りしている護衛の傭兵の乱暴な調子や、豪快磊落な女性騎士の言動に大きく影響されていた。

そのため、あっという間に女の子を泣かせてしまい、きょとんとしていた。

あの頃から見た目詐欺だったけれど、彼は悪気もなければ他意もなかったのだ。

しかし泣かせてしまったのは事実で、女の子たちは彼が泣けば優しくしてくれると思ったらしかった。

だが、彼は泣いている女の子の相手がいたたまれなくなったらしく、困ったように立ち尽くすばかりだった。

まさに未知の生き物だったのだろう。

後で聞けば、彼の周りの女の人は皆少しは年上で、容赦もなければ口は彼の三倍は回る人ばかりだったのだから。

彼なりに、いつも通りに交友を持とうとして、失敗してしまったのだ。

わたしは、今にして思えばとても説教臭いのだけれど、泣かせている彼に近付き、お姉さんぶって言ったのだ。


「そう言う時は、ごめんなさいときちんというのよ」


「悪い事、してねえもん」


「たしかに、あなたは悪い事を言っていないかもしれないわ。でも周りの女の子たちは、あなたの言葉にびっくりして泣いちゃったのよ。だから、びっくりさせてごめんね、っていうの。できるでしょう?」


彼はわたしを見て、困った顔になった後、泣いている女の子にそう言ったのだ。

女の子は、謝られたから毒気を抜かれたのか、ぽかんと泣き止んだ。

泣き止んだら満足した彼は、わたしにむかって喋りかけてきて、それから犬が懐いたみたいに、わたしの脇の椅子に座って、目をきらきらとさせて話しかけ始めた。

口調が雑だわ、と思いながらもわたしもわたしで、面白い事を話す彼が楽しくて、そこで周り放置でしゃべり続けて。


「俺がいけない事とか、言ったら教えてくれんだろ?」


と無邪気に、女の子に言っちゃいけない事は女の子に聞くのが一番いいみたいだろ、なんて続けている彼が、かわいくて。


「あなたが聞いた時は教えてあげるわ」


と実にえらそうに答えたのだ。

まずそこから、女の子という生き物の感覚を教えるところから始まり……まさかわたしは、女の子という生き物と、まともに接触するのが初めてというあたりでびっくりした……いつまでも二人で喋っており。

パーティが終わって帰る時に、会いに行くと言った彼に、いつでもどうぞと言ってしまったわけだ。

まさかわたしは、そこから毎日に等しく彼が遊びに来て、女の子の事を聞いたり、するとは思わず。

やりたい事できなくて楽しくないの、と聞いた時に、んだったらお前も一緒に遊ぼうぜ、と謎の返しをされて了承してしまい。

男の子や、雑な傭兵たちに混ざって遊ぶなんていう令嬢らしくない事をするようになった。

そして彼があんまりにも頻繁に来るから、両親は家同士のつながりができた、これを機に婚約をと色めき立って向こうに打診し、向こうもいつ打診しようかという状態だったのであっという間にわたしと、彼の婚約が決まったのだ。

婚約が決まってからもわたしたちは、何も変わらず、遊んで。

彼が夜の悪い遊びを覚えた時も、わたしは同伴した。……実は、街で彼の相方の小柄な茶髪の男の子とはわたしの事なのだ……それで、貴族的な限度を教えたり、たしなめたりとフォローし。もはや手のかかる弟扱いだったのだけれども、どちらも恋愛的な方面で相手を診なかったがゆえに、関係は崩壊する事なく。

貴族の子供が強制的に入学する、学園都市に入学してからも、家族なのか婚約者なのかそれとも悪友なのか、分からない距離感で付き合っているのだ。

わたしは見た目が平々凡々で、彼と並ぶと添え物にしかならない。

彼の周りには、きれいでいい匂いがして可愛らしい女の子も多く集まる。

ちょっとしたラブロマンスが起きるかもしれないと、年頃の女らしくドロドロ恋愛関係を眺める期待があったが。

彼は大きくなっても、餓鬼大将の精神が変わらなかったから、見た目と中身の落差がひどすぎるのか何なのか、女の子とラブロマンスは起きたためしがない。

その匂いはあっても、匂いで終わってしまう。

彼の友人たちの間では、彼がいつ女の子とファーストキスをするかで、賭け事が起きているらしい。

彼はそういう事情も、ぺろっと口にする、口の軽さも魅力なのだ、男の子友達にとっては。

そして、わたしも彼もあと一年で卒業を迎えた年。

わたしたちと同じ年の王女殿下の妹君……末姫殿下が入学なされた。

ふわふわの金髪に青い瞳の可憐な、お姫様である。

そして彼女はなんと、学園の入学歓迎パーティで外面をよくしていた、婚約者様に一目ぼれをしてしまったらしい。

王子様の外見と、かすかに漂う野性的な空気、それから男の子としての快活さや豪快さ、それでいて女性を優先する貴族らしさ。

色々な魅力的な物が、学園に来てすっかり定着した婚約者様に夢中になってしまったようで。

授業がなければ押しかけて、放課後になれば押しかけて、手作りのお弁当やお菓子を手渡し、と猛烈なアタックを始めてしまったのだ。

末姫として甘やかされていたからかもしれないし、彼が身分的に王家とつながっても問題ない血筋というのも、止められない要因だっただろう。

上級生の多くは、わたしと彼がニコイチで活動している事を知っているから、最初はにやにやしていたけれど、彼が末姫様を優先するようになってからは、だんだんわたしに同情的になってきた。

わたしはといえば、気にならない。

弟が巣立つみたいでさみしいけれど、うかつに忠告するとそれだけで、不敬罪だの後輩いじめだのになってしまうからだ。

まあ、彼がわたしよりも末姫様を選ぶかもしれない、と実家には連絡してあるし、向こうの実家にも連絡が渡っているらしい。

お前の好きなように、という連絡が来ているから放置している。

彼は末姫様と一緒に、まさに王子様のように遊びに行ったりしているらしい。

わたしと夜中に歩き回る、エロティックなダンスホールやら、不良ばかりの格闘場やら、怪しい物満載の市場やらにはしばらく、出向いていない。

わたしはと言えば、こっそり男装してそっちに顔を出して、彼がいない事をさみしがる人達と喋ったり交友を重ねている。

わたしもすっかり、彼に染められてしまった物だ。

と思っていたある日の事だ。

彼が末姫様と外泊した、という噂が流れてきたのだ。

流石に大問題の内容なので、わたしはおそらくデマだろうと判断した。

ファーストキスすらまだの童貞野郎が、いきなり外泊なんてできやしないだろう。彼は恋愛方面ではチキンで、さらに婚約者がいるからそこまで恋愛に執着しなかったのだから。

と思って放置していたら、なんか末姫様の方が色々言いだしているらしい。

二人は運命なのだとか。

はあ、勝手におっしゃっててください……なのだが。

家のメンツのために、どう動くかと悩んでいたある日。

卒業まであと半月のその日、彼が真夜中にわたしの家の窓から、侵入してきた。


「……ひさしぶり」


ぶーたれた声。不機嫌丸出しの、末姫様に見せた事のないだろう表情。

彼が色々溜まると、こうなるという声と顔で現れた彼に、わたしはまずミルクを用意した。蜂蜜と生姜をきかせた甘いこれは、彼の好物だ。


「末姫様とはどうかしら」


「つまんねー。女の子って、あんなローテーションで飽きねえの? 俺飽きた」


外出内容を言っているらしい。


「……あと、疲れた」


言って彼はわたしにもたれかかる。男の体になってしまったな、と昔を思い出して感慨にふけっていたのだけれど。


「俺が俺じゃねえんだよ。末姫様が欲しい俺は、俺じゃなくて幻影の中の誰かさんなんだ」


しんどそうな声で言う婚約者様が、続けた。

わたしを抱きかかえる腕は力が強くなっている。

簡単には振り解けないだろう。


「末姫様は、自分の頭の中の幻影の俺と、結婚したいんだとよ。おかげで変な噂流されるし。事実無根だっての。俺がお前いるのに、無断外泊するかよ」


「事実は?」


「その日俺は、悪友たちの悪友たちの部屋で飲み明かしてた。何人も証言できるぜ」


寮監にも怒られたから間違いねえよ、という彼だが、たぶん噂は面白い方に流れたのだろう。

末姫様とのスキャンダルの方が世間的には、面白いのだ。


「……もーやだ。お前と夜中に出歩きたい。市場とか、酒場とか、お前男の格好させて、ダンスホールで踊りあかしたりしたい」


ぐずぐずと言う彼の頭を撫でてやり、わたしは言う。


「でも末姫様はどうするの?」


「しらねーよ。俺は昼に行きたいっていう所を案内しただけ。基本的な知識は俺だってあるけどよ、くっそつまんねえの」


ぐり、とわたしに頭をこすりつけて、婚約者様が言う。


「俺は、お前に教えてもらいながら、植物園とか庭園とか美術館とか博物館とか、行くのが楽しいの。お前に教えてもらいながら、教えてるお前の顔見ながら歩き回るのが好きなの」


そんでよ、と続く声。


「やっぱ、家族になるならお前がいいの。ほかの女の子と家族になるとか、すげえ胃の中がむかむかすんだわ。お前がほかの男に処女奉げるとか思うと、そいつぶっ殺して、お前汚したくなるんだわ」


「……あなた……」


「だからさあ、俺もう、女の子に何言われてもどーでもいいわ。お前だけ理解してくれてればいいわ。泣かれてもお前じゃなかったらもう、気にしねえわ」


愛の告白としては及第点を上げられない事を喋る彼だが、彼の眼はまっすぐだった。


「なあ、俺ほんとに、お前選んでいい? お前の一生縛り付けていい? 愛人とかもたぶん、もてねえ」


言ってくる彼にわたしは。


「普通、愛人持たないのが基本だからね?」


と的確なツッコミをした。ツッコミをしながら、いつの間にやら空気がアダルティに変わり。

状況に流されてしまって、わたしは彼と二人そろってファーストキスを終わらせた。




彼はそれからもう、末姫様を突っぱね続け、暇な時間はわたしにべったりとなった。

末姫様は色々言ったし、泣いたりしたし、周りを味方に付けようともしたけれど、周りの上級生たちは皆そろって、わたしと彼が日常に戻っただけだという認識で。

争いにもならなくて。

最終的に末姫様が、信奉者にわたしを害させようとしたあたりで婚約者様がぷっつんとしてしまい、末姫様は打ちひしがれたし、トラウマを植え付けられたらしい。

中身は知らないが、婚約者様をぶちぎれさせると、地獄が現れると知っているわたしからすれば想定内だ。

そしてわたしたちは、卒業と同時に結婚する。

……卒業を祝う花吹雪の中、彼がどっかから持ってきたレースのカーテンをわたしに被せて、じゃれあう声で新郎新婦の誓いを始めて。

わたしも卒業ハイでそれに乗ってしまい。

衆目の前で、疑似結婚式をしてキスをしてしまい、学園都市の伝説になってしまったのはご愛敬である。

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