1章:現代戦争−高校編2−
校舎を出て、校門とは反対側の部室棟の方へ向かう実。
手前側のサッカー部の部室を通り過ぎ、さらにいくつかの部室を素通りし、奥へと歩いていく。
(普段は近寄らねえようにしてたのに)理は嫌そうな顔をしていた。
「実、どこ行くんだよ、俺があんまりこの場所好きじゃないの知ってるだろ。」
「別にいいだろ今日くらい。着いてからのお楽しみだって。」
そのまま、どんどんと突き進んでいく実。
相変わらず部室棟は芳香剤の香りと汗の臭いが入り混じった独特のにおいがした。
一番奥の部室まで辿り着いた時、そこで実は止まった。
『ハンドボール部』部室の扉にはそう書いてあった。
「ハンドボール部に用事っていったいなんだよ、俺は入るの嫌だぞ。」
「まあいいから入ろうぜ!」
ハンド部の部室のドアを開け、まるで自分の部室であるかの様に入っていく実。
そこには一人がイスに座り、学年も性別もばらばらの4人の生徒たちが並んでいた。
「とりあえず並ぶぞ、理」
「なんの列なんだよこれ。」
「実はな、あそこのイスに座っている人、佐藤先輩っていって、ハンド部の3年生なんだけど、あの人の占いがめちゃくちゃ当たるらしいんだ。ハンド部が去年全国行けたのもあの人の占いのおかげだっていうし。先輩の卒業前に一度占ってもらおうと思ってさ。」
「なるほどな、それで一人では来づらくで俺を誘ったわけか。それにしても実が占いとか信じるなんて珍しいな。」
「佐藤先輩の占いは結構実績あるんだよ。サッカー部の先輩も占ってもらってベンチからレギュラーに昇格したってこともあってさ。まあ物は試しってやつだな。」
実と話しているうちに、徐々に列は進み、理と実の前にはあと一人となっていた。
「あなたは人に勝つことで強くなれるタイプみたいね、自分と同格か格上の好敵手はいる? もしいるならその人に勝つことで大きく力を伸ばせそうよ。いないのなら誰かに勝ちたいと強く望みなさい、そして勝ちなさい。」
「佐藤先輩、ありがとうございます。僕、もう少し野球頑張ってみます。」
佐藤先輩は野球部の2年生と思われる人に占いというかアドバイスのようなことをしていた。
アドバイスを受けた野球部の2年生はどこか吹っ切れたような顔をしてハンド部の部室から立ち去っていった。
「次の方どうぞ、あら1年生かしら?」
「はい、1年D組 寺坂 実って言います。今日はよろしくお願いします!」
「よろしくね。じゃあまず、手を出して。右でも左でも好きな方で大丈夫よ。」
実は佐藤先輩に言われたとおりに右手を前に差し出した。
佐藤先輩は誠の右手を優しく包み込むように両手で握った。
「寺坂君は人に応援されたししたら力を発揮できるタイプね。なるだけ味方を多くつけていると強く慣れるみたい。今までもそんな経験なかった?」
「そうですねー、確かにサッカー部の試合の時も応援がいっぱい来てるときはいつも以上に力を出せた気がしますが、それだけですか?」
佐藤先輩に物怖じせずに聞き返す実。
「私が言えるのはここまでよ。この話をどう捉え、どう活かすかはあなた次第よ。」
「分かりました。ありがとうございます。」
実は少し釈然としない様な顔をしていたが、おとなしく引き下がった。
「次の方どうぞ。あなたは寺坂君のお友達? とりあえず手を出してもらっていいかしら。」
「僕はさっきの寺坂と同じクラスですが、付き添いで来ただけなので占いは大丈夫です。」
「まあ、そんなこと言わず、信じるも信じないもあなた次第だし、ちょっとだけ見せて」
理はしぶしぶ左手を差し出した。
「あなた、面白いわ。あなた名前は?」
「僕は加藤 理です。」
「理君ね。あなたは本当に面白い力を持っているわ。あなたは誰かに勝つことでも強い力を得ることができるし、誰かに応援されたりすることでも力を発揮するわ。ただその力を誰かのために使わないと十分な力を発揮できないようになってる。」
「佐藤先輩、ご助言ありがとうございます。心に留めておきますね。」
「理君、あなたの力は自分で思っているよりも強大なものよ。正しきことに使ってね。」
(そんなこと言われても、運動だって、勉強だってちゅうの中だぞ)
理は佐藤先輩の言葉を疑いながらも、どこか自分の力をもう一度信じてみたいという気持ちが芽生えるのを感じていた。