0章:この世の始まり
異世界でも転生でもないですし、初めて長編に挑戦しようかと思います。
お目汚しかも知れませんが、読んで頂けますと幸いです。
人間が生まれてもいない遥か昔、この世は天国と地獄と呼ばれる2つの世界で出来ていた。
天国は神が代表を務め、天使達の住まう場所。
地獄は閻魔が支配する悪魔が闊歩する場所。
天使と悪魔の見た目は現代の人間に近く、羽や天使の輪、角などは生えていなかった。天使も悪魔も知能があり、天国と地獄をそれぞれ繁栄させてきた。発生した時期も同じである事からそれぞれの世界の発展具合も似ていた。しかし天使と悪魔は徹底的に違うことが1つだけ。天使は多様性を重んじ、どんな者であれ受け入れるという考えであるのに対し、悪魔は力を求め、弱い者は強い者に従うべきであるという考えであった。
両者はお互い天国と地獄から出る事はなく、独自の世界を生きていた。3つめの世界である楽園が現れるまでは……
楽園は突如大きな爆発と共に天国と地獄の間に発生した。発生した当初はただ砂の地面が無限に広がっている砂漠であった。しかし、ある時水が生まれ、生命が生まれ、気づいた時には水と植物に溢れていた。生き物は知能の低い動物だけ。動物は最低限の木の実と水で生きていくことが可能であった。そのため動物達が食べ物に困る事もなく、争いもない平和で豊かな世界であった。
天国では重大な問題が発生していた。天使の数が増えすぎてしまったのだ。全ての者を受け入れ、繁殖していった結果、全世界で飢饉となっていた。誰から奪う事もなく、平等に分配されるもので飢えを凌いでいた。神は思う、このまま全員でゆっくりと滅んでいくのだと。しかし神は代表であって支配者ではない。あくまで周りの意見をまとめ、それを発するだけなのだ。皆が望むものを形にするだけ、滅びるのを望んでいるわけではないが、平等に生きていくことが至高であり、それで滅んでも仕方のないことであった。
地獄では対照的に悪魔の数は100年ほど変化していなかった。弱者は淘汰され、強者のみが生き残る。そうして絶対強者である閻魔が生まれ、閻魔に従うことで生態系は保たれ、争いはあるが地獄は安定していると言えた。しかし閻魔は退屈していた。自分が支配者として君臨してから50年、自分を脅かす存在はなく、意のままに従う手下達。いっそこのまま地獄を滅ぼそうかと考えていた。
2つの世界がそんな中、地球とよばれる楽園は突如として現れ、決して交わる事のなかった天国と地獄を繋ぐこととなる。
神は願う、豊かな世界が齎され、天使が滅びぬ道を。
閻魔は願う、自分が死ぬまで楽しめる舞台が現れることを。
そんな時2人の目の前に楽園への道が拓かれた。
神は思う、これで天使達は幸せになると。
閻魔は思う、新たな楽しみができたと。
神の前に現れた道は今で言う南極であり、閻魔の現れた道の先は北極であった。世界の悪戯か優しさか地球の真反対に繋がってたことはほんの少しだけ争いを先延ばしにした。
天使達は南から、悪魔達は北から、それぞれ繁栄していく。
そして楽園の動物達は様々な進化を遂げる。
天使が現れた南側の動物達は天使に触れる事により、小さなもの、大きなもの、目立つもの、隠れるものと多種多様になっていった。そして総じて草食であり、天使や他の動物に危害を加える事はなかった。
悪魔が現れた北側の動物達は悪魔に支配される事により、より力が強いものが生き残る事となる。
性格は獰猛で支配していた悪魔を襲うだけでなく同種属で争い、共喰いを始める動物まで現れる事となった。
天使達は順調に数を増やし、勢力は赤道付近まで広がっていた。
悪魔達は数こそ増えないものの、動物達を従える事で力を蓄え、領土を赤道付近まで広げていた。
天使と悪魔の初めての邂逅が迫ってきていた。
神はふと考える。この先もこの世界は広がっているのか。もしこの世界には終わりがあり、全世界に天使と動物達が繁栄したとしたら、また天国と同じ破滅の道ではないのか。
閻魔は考える。この先に進んで、楽しい事は待っているのか。この世界に来た当初は動物達は閻魔を楽しませるような進化をし、閻魔の支配に抗う動物も現れた。そしてそいつらを戦いにてねじ伏せた。進化していくにつれ力を増し、楽しめる戦いに興奮冷めやらぬ毎日であった。しかしそれ以上進化はなく、自分を滅ぼすほどの動物が現れる事はなかった。従順になっていく動物達につまらなさを感じ、これ以上進んでも何も変わらないのではないか。
そんな全く違う考えを持った2人は、群から離れ、少し先を進む事になる。そしてこの広い地球で2人が出会ったのは奇跡だったろう。
自分と似たような顔立ちであるが、自分の全く知らない者である事は2人の頭を一瞬停止させた。
「誰だてめぇは」
「どちら様ですの、あなた」
言葉が通じたのはさらに奇跡だっただろう、そしてその事はさらに2人を驚かせる。
「俺は閻魔、テメェ何者だ?」
「私は神と呼ばれております。天使達の代表ですわ」
「よく分からねえが、潰す!」
「あらあら、物騒な。争いはいけませんよ、手を取り合いましょう。」
今まで争うどころか敵対心を向けられることのなかった神であったが、敵対心を向けられる事により防衛本能と言う名の闘争心が目覚める事となる。一方的になると思われた閻魔と神の闘いは半日かけても両者倒れず、引き分けとなった。
一騎討ちの後お互いに自陣に戻ると、仲間達は互いに何かを悟ったように戦いに備えていた。閻魔と神の思惑も分からず……
そうして最初の天魔大戦は始まった。
第一次天魔大戦は、数で勝る天使軍と個で勝る悪魔軍の戦いとなった。当初は個で勝る悪魔軍が優勢であったが、天使軍が集団で連携する事により息を吹き返し、両者一歩も譲らず、楽園の半分を砂漠に戻す事となった。そして天使軍、悪魔軍ともに大戦前の3分の1まで数を減らしたところで、休戦協定が結ばれ、元の南と北の最果てへと戻る事となる。
そして、天使と悪魔が去った赤道付近において、新たな動物、人間が誕生する。
第二次天魔大戦は人間が繁栄していた赤道付近で行われる事となるが、人間側に大きな被害が出たことから人間が天使と悪魔の仲裁をすることにより終結することになる。
その後悪魔達と手を取り、自らの領土を荒らされた恨みを晴らすかのように人間達が天使達に攻撃を始める。後に言う天人大戦である。天使達は本能から悪魔を見分ける事は可能であったが、人間は見分けられず、内部から崩壊させられていく。
その後、人間は改めて力を蓄え、悪魔達へ攻撃を行うこととなる。その時、人間達は悪魔以上に知恵が回り、武器の使用を始める。生身の悪魔は武器には勝つことが出来ず、敗北することとなる。この戦いは大戦とは呼ばれず、悪魔狩りと呼ばれている。
その後、現代では天使や悪魔は空想上の産物として描かれる。まるで何者かが真実を隠すように。