序章 アイランドは甘くない
目の前のスロットマシーンから神々しい讃美歌のようなBGMがホール中に鳴り響く。
液晶に映し出される「JACKPOT」の文字。
ギャラリーは沸き立ち、歓声が上がる。
通算1億を超えるメダルが放出される。
そのメダルの所有権を持った男はポツリとつぶやく。
「どうしてこうなった……」
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7月7日 午前9:30 秋葉原
「だあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
1つの紙を凝視しながら叫び声を上げる男が一人。
漆原真司は25歳のフリーターであり、今日はイベントの為にバイトは休んでいた。
そのイベントとは、パチスロの実践であり、7が連続するこの日に都内でも有数の優良店の抽選に並んでいたのだ。
1番早く引けば良い番号が引けるだろうという己が信じるジンクスに頼り、最初に抽選を受けたのだが、その結果は良くなかった。
600人中582番である。
その番号を見た瞬間、真司は冒頭の叫び声を上げたのだった。
隣に並び今日はどうするか予定を立てていた戦友は合掌し、真司に90度の礼を向けるのであった。
その日の真司は酷いものであった。
昼近くまでスロットが空くのを待ち、やっと空いた席に座ると1100以上のハマり、やっと当たったと思えば犬。
というような過酷な状況に、軍資金はただ無残に消えていくのであった。
何とか残していた理性の元、台を叩きたい衝動を我慢し、余った2枚のメダルをポケットに突っ込んだ。
他の台が空いていないか確認しても良かったのだが、戦友は既に5000枚以上の回収の元食事に行こうと誘ってくれたため、素直に引くことにしたのだ。
「お前、今日は散々だったな!安いとこだけど焼肉おごってやるから元気出せって」
「本当だよ……。なんでよりにもよってこの日に大敗しなきゃならんのだ……」
「まぁ運が悪かったわな。でもよりにもよってあの台に座るなんてな。この店が何が強いのか知ってるだろ?」
「そりゃもちろん。でもよ、空いてて短時間で爆発する可能性があるのはあの台以外しらねぇよ」
「そりゃそうだけどさ。どうせなら新台とか試してみてもよかったんじゃないか?」
「今日こそは万枚出したかったんだよ……」
「まぁドンマイ。今日は飲もうぜ」
「おうよ……」
そんな会話をしつつ電車で自宅に向かう二人は、自宅の最寄り駅近くにあるいきつけの安さが売りの焼肉屋に向かった。
そこから真司の勢いは止まらなかった。
歴史的大敗に託けてたらふく肉を食い、たらふく酒を飲んだ。焼肉屋を出た後も2軒ハシゴし、日付が変わる頃には道路の脇で寝転がっていた。
既に戦友は帰宅し、もうこのまま寝てしまったほうが気持ちがいいと思い始めたときだった。
「……の……者に……?無……」
遠くから囁きに近い声が聞こえる気がした。
真司はその声が心地よく感じてしまい、そのまま野ざらしで眠ってしまった。
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