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ザ・キューテスト・ガール  作者: リュウ
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足が一歩前に出るたびに小学校の同級生の名前をひとつずづ忘れていくような気がする。クラブでふざけた踊りを何時間も踊り続けて、体はもうガタガタに揺れている。どれくらいかかったかわからないが、東京の真ん中を一周するようなフルマラソンを走っている気分だった。ハンバーガー屋のガラスのドアの前に着いてユイを地面に降ろしたとき、彼女はゴールした選手が電光掲示板のタイムカウントアップが止まる瞬間を見つめるようにオレの目を見て言った。

「時々夢と現実がわからなくならない?今日みたいに頭が回っちゃてるときは特にそうよ。」

「これは夢だから安心していいよ、君はこれからタダでハンバーガーを食べれる。」

「そうだと思った。」

黒人の店員からヤングバーガーみたいな名前のハンバーガーを2つとペプシコーラを2つ受け取って、道路側のカウンター席に二人で並んで座った。ハンバーガーの包み紙をほどいて、一口目をぐっと食べた瞬間、世界中の人間に菓子折りを持って回って「ありがとう」と言ってもいい気分になった。頭の中が拡張と収縮を繰り替えし、自我と他我が分裂と合体を繰り返し、隣の女の息遣いが遥か遠くにかすかなクラクションのように聞こえ、同時に耳元で恋愛をささやかれるような背反性が脳みそのプリミティブな部分を劇的に支配した。ユイは黙ってハンバーガを食べ続けた。オレもだ。最後の一口まで、一言も喋らなかった。満腹感は太古の昔まだエラ呼吸をしていた先祖との共通点を教えてくれる。その一つがオレたちに本能的な冷静をそっと与えていった。そして、包み紙を丁寧に折りたたんで、道路の雪を細目で数えなが話を始めた。

「大事なことを、いつも忘れてしまうのよ。というより、その日大事に思ったことは、明日には大事じゃなくなってるのよね。今私はあの雪の上に寝っ転がって、残りのペプシコーラをぐっと飲んで、眠りたいわ。でも、この一瞬を過ぎたら永遠にそう思うときは来ないの、明日にはきっといつも通りの大事なことが、変わらず大事であることを確認する作業が始まるわ。それは朝目覚ましを止めることから始まるのよ、きっと、、、」

「子供のころ、デパートのおもちゃ売り場でそういう気持ちになったころがあるな。」

「同じよ。いつもそういうものは叶わないわ。大事なことはいつも、叶わないまま、忘れてしまうのよ。素直でピュアな気持ちは、忘れられるために生まれてるのよ。でも今日のハンバーガーは、奇跡ね。」

オレは満腹という身体の満足感が続いているうちは、涙がでることはないだろうと思った。しかし、それが単純に消えてしまうとき、自分の中には脳みそと内臓の共通機能と、ハンバーガーとコーラ以外に何も詰まってないことに気づく予感がした。実際にはもうそんなことはわかりきっていて、1+1みたいに簡単にわかる一つの演算みたいなものだった。それでも、このあと涙が出るかもしれないと思った。黒人の店員がフロントドアを思い切り開けて外に出て、茶色いフィルターのタバコを吸い始めた。そのタバコの煙は、冬が街を占めるこの国の郊外の空気を滑らかに巻き取りながら、真上に向かって登って消えた。ユイはタバコが欲しいといったが、オレのポケットにはガスのないライターがあるだけだった。いつだって、同じだ。同じ場面は何度も訪れるが、結末は同じ。オレの人生はフィルムだ、それも、最低のB級かもしれない。

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