取り残されるのはヒロインだけ
彼女視点
お母さんが決めた、許嫁ーーーー。
あれこれ想像していたけど、まさか知っている人がその遺言の相手だったなんて……。
「入学式でねえちゃんいないから心配してたよ!だから風邪ひいただけで明日はいけるっつっといた!!なあなあ、許嫁ならうちに呼んでもいいよね!?もう俺小櫻さんのことにいさんって呼んじゃおうかな!?ねーーちゃん、聞いてる!?」
聞いてます。
聞いてますけど、ついていけてません。
幼馴染の、ゆうちゃんが、私の許嫁だったですって……?
ええーーーーーーー!!!!???
そりゃあ、初恋の人ではあったよ?
それなりに知ってるし、ついこの間だって顔合わせて挨拶したけど、許嫁だったなんて知らないし、そんな話聞いてないーーー!!
やがて、夕飯になって機嫌よくかえってきたコウと、うちのハルが騒ぎながら宇井野野球部の話をし始める。
私は、未だパニックの状態で頭が半分以上留守。インタフォン押されても、居留守してるレベル。
とりあえず一年ながら、コウがほぼ正捕手になれそうだということだけは聞いてた。
「しかし、なんだって小櫻ほどの打者がうちに……地元じゃスーパースターだろうになぁ。まあそのうち部活で聞いてみっか」
「それがさー、コウにい!!小櫻さん、ねえちゃんの許嫁だったんだって!!ねえちゃんのために宇井野選んだんだってさ!!!」
ちょっと断りもなしに暴露!?
……な、なんていうのだろう、兄コウとしてーー。
そりゃあ野球うまいひとじゃないと認めないと思ったけど。
あのボーイズチームの4番なんてこれ以上ないほど強いけど、ど、どうなの……?
過去の蹴散らし方からして、ゆうちゃんにも文句が……。
「雪華の、許嫁だぁ?!!まさか……小櫻が!?……そうか。まあ、確かに野球じゃ一級品だが、許嫁として似つかわしいかは今後は俺が順次査定しつつ、打者としては利用をして……」
ああ、腹黒い捕手のとしてのコウと、兄コウが葛藤してよくわからないことを言い出したーー!
つまりは、選手としては歓迎だけど、それとこれとは別だってこと、なのかな……。
コウを説得できる相手なんか存在するのだろうか。
まあ、私も混乱してていいのか悪いのかもわからないのだけど。
ただ!皆理解が早すぎないーー?
私、ついていけてません、脳が。
「小櫻さんにねーちゃんの携帯教えといたぜ!!なんたって末来のにいさんだしさ!!」
「利用しつつ、腹を探り、何故許嫁になったのかどうかを調べながらチームメイトとしてはうまく活用して部を盛り上げつつ兄として雪華にふさわしいかはまた違うアプローチで……」
それぞれニヤリとするコウとハル。
安達家の春まで盛り上がって、私はひとり取り残される。
え。だって。
ゆうちゃんは、私のこと何を思って了承して学校まで決めて……。
って!!!スカウト蹴ってまで、私のために学校決めちゃったってそれはもう完全本気っていうか、私の巻き添えだよね!?
コウどころか、強豪・有名な各校の期待の打者が、私のせいで弱小チームに……!?
嘘でしょーーーーー!!!?
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次回は彼視点です。脳筋がんばってくれ。
外堀から埋められつつ、取り残されるヒロイン、頑張って。マジ頑張って。
コウは腹黒い計算の男なので野球が絡むと、なかなかえげつない理論に走ります。