弟が公式にフラグを回収
彼女の視点
まさか、入学式に熱を出して寝込むなんて……。
いきなり出遅れた感、いっぱいです。
しかも、コウ母が病院付き添ってくれてご飯当番も治るまでなしにしてくれて、コウのお弁当も作れなかったし。
出鼻くじかれて、私は風邪を引いた自分を呪った。
約束、まったく守れてない。
コウが、クラスのほうは私は中野くんと同じクラスだと教えてくれた。
中野くんは中学1年のとき同じクラスだった。
同じ父子家庭で、参観日なんかは親の出席が両方父親で父母の中では目立ちまくり。
そんな苦労なんかを共有しているためか、話す機会は多かったし、中野くんもシニア野球をやっててコウのことは知っている風だった。
2,3年はコウと同じクラスで、中野くんとは廊下でたまに会話する程度だったけど、まったく知らない人だらけじゃないみたいで安心した。
しかも、中野くんは春休み中、コウと野球部のグラウンド整備に一緒にいってたし、また会話することも増えるかな。
同じ中学の女子友達の何人かも、同じクラスにいるとメールをもらって、初日に遅れたものの、知り合いや友達いるだけマシかも。
とっくに効果を失った冷えピタを剥がして、起き上がる。
咳も止まったし、うん、たいしたことない。
「ねーーちゃん、平気?」
「……あれ、ハルはやい」
「だって、中3なんてクラス持ち上がりだし、配布物もらってセッキョー聞いて、進路話うんぬんで終わりで授業ねーもん」
冷蔵庫の残っている食品チェックしていると、ハルは玄関あがりながら菓子パンをかじっている。
「委員会は?3年でしょ、引き継ぎはするまでは副委員長だったはずなのに。いいの?」
「ねーちゃん寝込んでるからって今日はパスしてもらった」
なんやかんやいいつつ、安達家の春ちゃんよりガサツな子だけど、いい子なんだよね。
作れそうなもの、明日のお弁当なんかの献立を考えて、リストを書き出した。
「そしたら、これの買出し頼んでいい?」
「そーだろと思った。コドモなんだからさ、俺ら、もっと大人に頼ったっていいじゃん。おばさんもおじさんも嫌じゃないってわかってるくせに」
「でもーー実の親じゃないし……」
「コウにいのことは兄妹だと思ってるくせして、コウにいの親は自分の親じゃないってムジュンじゃないの?」
そうかもしれないけど……。
もう高校生なんだから、しっかりしないとって思わないといけない。
ハルのように、うまく甘えられない。多分長女気質の悪い癖なんだろうと自覚はしてる。
それにコウとは確かに兄弟感覚だけど、コウの両親になんでも甘えていい年齢じゃないと思う。
「思ったより元気そうだし、看病いらなそーだし、買出ししてきたら、コウにいのとこ覗きにいってもいい?」
「え、高校のグラウンド!?」
確かに、弱小の野球部で、捕手にはコウが、内野に中野くんが入ったとしても、ピッチャーや他の守備も足りていなければ部活動にならない。
でも今日は新歓で、あちこち部の勧誘なんかもしてるだろうし、一個下のハルがまぎれて覗きにいっても、大丈夫……かな?
私もコウがバクチで入った宇井野で、先輩が卒業して部員メンバー足りなかったりしたらどうしようか心配だったし。
「うん、私の代わりに見てきて」
「よーーーし、じゃあダッシュでいってくる!!」
ハルもなんだかんだいって、コウを兄にとして慕ってるし、野球の面でも先輩としてたてている。
一時期コウに憧れて捕手の練習もしたけど、なまじ高い目標が傍にいるだけに「コレはキツイ」とまた内野に戻ってしまったらしい。
ボーイズの時はショートやセカンドでレギュラー落ちたり入ったりしつつ、打順もよく変わっていたけど6番打者が一番多かったからゆうちゃんの活躍をネクストそばで見てきたし、内野同士で守備を守ってきただけに、今は「小櫻さんを追え」という感じで、内野のホープを目指している。
ゆうちゃんが抜けたことで、さすがの強豪も多少ごたついたらしいが、まだまだ強さは顕在。
ハルもレギュラー確定のようだ。
買い物を、文字通り素早く済ませていったん帰ったハルはすぐさま本当に宇井野高校めがけて出かけていった。
……大丈夫かな……背があるとはいえ勧誘に引っかかってモメないだろうか。
自分用のおかゆと、明日の朝ごはんの下準備とダブルハルのお弁当(とはいっても二人して給食があるので、プラスアルファの食料)と、私とコウの分。
今日の夕飯はコウ母が全部やるっていってくれたし、そこを無理してまで作ってもっていくのもさすがに可愛げがないと思って、諦める。
今日は、これが終わったら早めに薬飲んで寝よう。
明日まで休んだら、もう転校生並に目だってしまう。
コウが肉肉ばっかり言うので、多めにいれつつ野菜のバランスも考えたお弁当を作っているとあっというまに時間がたった。
……遅すぎる……。
ハルは迷いでもしたのかな……それともやっぱり部活勧誘うっかりつかまったとか。
部外者なのバレてたらどうしよう……。
さすがにエプロンをよじってそわそわしだしたら、ようやく自転車の音がして興奮したハルの声がした。
なんだか、外から大声で私のことを呼んでいる。
……なにごと?
「ねえちゃん!!!すっげえ!!!!」
「どうしたの」
玄関で靴を脱ごうとして、バランス崩したまま、大興奮してるハルは、すげえすげえと連呼している。
よくわからないけどいいことがあったみたいだ。
「落ち着いてよ、どうしたの?」
「小櫻さんがいたんだよ!!!宇井野!!」
「え、ほんと!!??」
コウが、強豪にスカウトされんだろうなー。とか、学費免除とかまで言われてた、あのゆうちゃんが、弱小の宇井野に?
まさか野球やめるとは思えない。
有名なボーイズの元4番が。
なんでまた。
「コウにいが、なんかピッチャー希望の人と投げてるのキャッチングしてるの見てたら、小櫻さんいて!!」
「へ?」
「こっそり見てたんだけど、小櫻さんがいるからテンションあがっちゃって、つい外から話し掛けちゃったら」
「ええーー!部外者なのになにやって……!」
「そしたら小櫻さんびっくりして、俺のこと見て!」
それは、そうだろうね……。
このあいだまでボーイズの仲間だった後輩が、何故か高校のグラウンド覗いてるんだもんね……。
おっかけかと思われてもしょうがないのかも。
「ねえちゃんはどうしたのかって、言うんだよ。ねえちゃんが宇井野にしたから小櫻さんも宇井野にしたんだって!!例のコウにいが見る前に破いちゃった許嫁、小櫻さんだってさ!!!」
ーーえ?
……いま、何か意味がわからない言葉が。
ゆうちゃんが……なに?え?
……ええ?
「だからさーー!!お母さんが仲良しだったのって、俺がリトルのときから一緒だった小櫻さんのお母さんのことだったんだよ!!」
ハルが汚れたスニーカーを蹴りながら脱ぐのを、いつもはしかっているが、今はそれどころじゃない。
勢いでたたらを踏みながら、我が弟ハルは事実茫然の私を揺さぶった。
「許嫁が!小櫻さん!!!!あのひと、強豪スカウト蹴ってまでねえちゃんの婚約果たすために宇井野きたんだよ!!すっげ、コウにいがいて小櫻さんいて、あとはピッチャーそこそこのやついたら、けっこう強くね!?俺も来年宇井野にしよっかなー!!ていうか、小櫻さんが将来兄さんになら最高じゃん!!」
ゆうちゃんが、例の遺言の許嫁!?
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まあ、前回でほぼほぼバレてるお相手が判明。
しばしばごちゃごちゃしますが、このラブコメの裏テーマにはいつ入れるのだー!!
書いてるほうがじれったいー