彼の名は
彼の視点
小さい頃から、見ている女の子がいた。
運動以外俺には取り柄なんかないし、ベンキョーもできない。
だから初恋なのかどうか分からないけど、「特別」がそうだとしたら、あれは俺の初恋なのかも。
学校とかは、全然ちがくて野球のときしか会えない「特別」な子。
その子には弟がいて、お母さんと一緒にその弟の応援をしていたのをすっげー覚えている。
その弟は俺の後輩で、思ったよりは長い付き合いになったと思う。
俺の母さんと女の子のお母さんは仲良しだったらしくて、ある日学校から帰ると、お母さんは「お見舞い」に行くんだって言った。
悠もいく?と聞かれて、俺はあんま意味わかってなかったけど、ついていった。
行った病院では、細くなって、顔色の悪い、あの女の子のお母さんが寝かされていた。
詳しいことは覚えてねー。
ただ、なんだか凄く怖い気がして俺は泣きたくなった。
女の子のお母さんが怖いとかじゃなくって、なんていうか、病室の空気が怖かった。
今なら、末期の空気を悟ったんじゃねーんかな、って分かるけど、意味もなく涙が流れそうになるくらい、直感としてこのひとにはもう時間がないんだってわかっちゃったんだ。
母さんと、あの子のお母さんは、色々とおしゃべりをして、お見舞いって言ってたけど、あれはほとんどたぶん、最後のお別れだった。
だから、あの子のお母さんが、「ハルは気が強くて、あれでめげない子だからいいけど、雪華のことだけが気がかりで……気持ちが優しくて不器用で、私がいなくなったことにとらわれて恋愛や結婚ができなくなったりしそうで怖いのが不安だわ」
たぶん、そう言ってた。
俺のお母さんは相槌打ってたけど、返事しようがなかったんだろうな。
だから、俺がケッコンして心配させないようにするって、あの子のお母さんに約束したんだ。
凄く嬉しそうに、よろしくね、あなたなら安心だわ、って俺の手を握った手はあまりにもほそかった。
だから、俺の母さんは、心残りがなくなるようにせめて、って婚約約束をして、もし亡くなったら高校生になった彼女にその言葉が届くように、手配して。
それで安心したのか、数日しないうちに、あの子のお母さんは亡くなった。
お葬式は、怖かった。
そんで、俺もじいちゃんやばあちゃん、母さん父さん、兄貴たち、誰かが死んだらこうやってお葬式して、残されるんだって、すっげぇすっげぇ怖くて。
怖くて、でも俺より、俺に託された雪華という彼女のが当然辛いわけで、俺は、一生守ってやるって約束した。
それからしばらく、雪華もその弟も見かけなくて俺は心配だった。
そのあと、知らないおじさんかおばさんなんかと一緒に、応援にくるあの子と、その弟のハルが帰ってきた。
ハルは雪華のお母さんが言ってたとおり、けっこう強いやつだと思う。
「もうお父さんとねえちゃんしかいないから、俺がしっかりしなきゃいけないんだ」って、強気のバッティングは変わらない。
反対に、雪華は遠めで見ても、更に細くなって色も白くて。
このままだとあのお母さんみたいになっちゃうかもって、俺は不安で時間をぬっては話しかけにいった。
あとで、お葬式きた人間があの子に接するのって、ムシンケーだったかなって反省したけど、嬉しそうにしてくれて。
「負けんなよ」って、俺の言葉に、なにに対して負けるかとか、聞き返したりしなかった。
俺がーーーーーーーー俺が守ろう。
あの幼い日の約束を、俺は守る。
見送ることが怖いのは、俺も一緒だ。
中学で、じいちゃんが倒れて俺だけ留守番で、真夜中まで家族中に忘れられて。
家の中ってこんなに静かで暗くて怖いのかと、辛い思いをした。
そのときに、改めて、あのとき勢いでした約束を、俺は間違っていなかったんだって、誓ったんだ。
残されることに怖がって、家族をもてなくならないように。
誰よりも、大切な俺の女の子。
なによりも、俺が何度も救われてきたんだ。
あの子はきっとそれを知らないだろうけど。
彼女がいなかったら俺は、野球に疲れてたかもしんない。
続けられたのは、あの子の存在があったから。
入学式、期待をこめてその姿を探した。
けど、雪華がいない。
宇井野に入ったって聞いたのに。
俺は家族が心配なのもあったし、雪華が宇井野受験するって聞いて、学力足らなくて生まれて初めて必死で勉強して受かったのに。
……あれ?
なんで!?どこいンの?
休みならいいけど、もしかして宇井野やめて他にいってたらどうしよう。
もしかして俺って今ピーンチ!!!!??
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サブタイで遊ぶ私。走れメロスの次はコレですかい。毎度テキトーに決めております。
まあ、ほぼほぼ、相手が誰か判明してますね。
万が一分からない方はいないと思うけど、そのままお待ちください。ラブ要素は後半にあるので、ラブコメをお待ちの方もまだまだお待ちください。
彼はずばり脳筋なので、語彙がゼロです、漢字もわざとカタカナにしております。