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閉じられた心は

彼女の視点


 頭がガンガンする。



 コウ母がご飯作ってもってきてくれるのが、余計に今は辛い。


 ”同情”


 その言葉に、がんじがらめ。


 なんでもかんでも、今まで信じてきた人たちの行為まで疑ってしまう。



 ーーーーコウも、ゆうちゃんも。


 何日食べていないかわからない。


 けど、なにも食べたくない。



 友達からの、「どうしたの?」「大丈夫?」ってラインと電話が、山のよう。


 それも、同情?



 ああ、もう、こうやって凹んでいる自分もいや。


 受け流して、言い返せるようにならないと、ああいう人は、私が嫌がれば嫌がるほどかさにかかってくるに違いない。



 このままではいけないーーーことはわかっているのに。



「雪華ーーーー!」



 ……ゆうちゃん、の声。



 が、何故か玄関の内側から聞こえたような気がした。


 まさか、ね……。


 多分、また外で大きな声で呼んでくれてるんだ。



 既に何度か外からゆうちゃんが呼んでいるのを、聞こえないふりして逃げていた。

 

 コウがハルと一緒に私の様子見に来てるの知ってて、部屋から出なかった。



 わかってる。二人は、同情じゃないって言ってくれるの。


 でも、そこに安心したらまた、”そうやって男も女も同情で甘やかしてもらえるひとはいいよね。だったらあたしも母親死んでてくれれば良かったわ”



 あの言葉に、負けた気がして。


 聞こえないふりを続けてた。




「雪華ーーー!居るんだろーー?」




 ーーーーやっぱり、ゆうちゃんの声が家の中から聞こえるような気がする。


 ていうか……?



 バタバタと廊下を歩く豪快な足音。


 ハルやコウならわかる。


 長年、家族として聞きなれた足音は、聞くだけで誰なのかすぐにわかるくらい。



 でも、この音は違う。


 ーーーーまさ、か……?



 考えるより先に、思わず部屋のドアをあけて廊下に出た。



「あ!居たじゃん!!」


「う、うん……」



 居るけど……。



 どうやってゆうちゃんがここに?


 まさか、ハルたら義兄さんって呼んじゃおうかな発言では飽き足らず、我が家の鍵とか渡しちゃったの!?



「窓あいてたぞ!無用心だなっ!」



 まさかの窓から!?



 そ、そういえば……さっき居間の窓を少しあけて空気を入れ替えたけど……。



「ちゃんと食ってるかー?顔色悪いぞ」



 意地になって、閉じこもってたけど、びっくりしてドア開けちゃってゆうちゃんの顔みたら、やっぱり安心してしまった。



 そうなるのが、嫌だったのに。



 気が付くと、ボロボロ泣いていた。



「なんかあったんだな?」



 疑問じゃなく、確信系なその声に、頷いた。



 ーーーー悔しいの、ゆうちゃん。あたし、普通にしてたのに、勝手に「可哀想」で「羨ましい」って差別された。



 なにが悪かったんだろ。


 針なんかもてなーい、とか言ってれば良かったのかな。



 自分のシャツをめくって、ゆうちゃんは涙を拭いてくれた。



「ハンカチとかもってなくてゴメンな。しゃべれるか?それとも言いたくないか?」



 言いたくない。



 けど、聞いてもらいたくて。


 我慢に我慢して自分の中で蓋をした気持ちが、ゆうちゃんの顔を見たらこじ開けられてしまった。



 泣いて、つっかえながら。


 ただ最後の意地として、自分が被害者なんだみたいな言い方じゃなくて、ただ言われたことと状況を、なんとかそのまま。


 必死に、話がいったりきたりしながら説明した。




 そう……か。


 話しながら、自分のキモチのささくれの意味が整理されてきた。


 あたしは、お母さんがいないこと言われるのは、もう結構慣れてて、傷つくけど、学校いけなくなるほどじゃない。



 つらいけど、悲しいけど、でもお父さんも弟も、コウたちもいてくれるから、って思えるようになって。



 でも、星園さんって人に言われてこんなにこんなに苦しんだのは、「区別」されて、勝手に哀れまれたから。



 ケンカしたり、ささいなことでいらっとしたりーーそういういろんな段階踏んで、自分で作った友達、そして家族の輪。



 それを、どの自分の努力も、無視されたからだ、



 なんにもしなくても手に入れられていいよね、って何も知らないくせに決め付けられて。


 あんなにも欲しい「母親」という存在を、いらないと言ったから。



「雪華に可哀想って言ったやつ、言葉を間違えたな」



 いつもより低いゆうちゃんの声がして、またゴシゴシと顔を拭かれた。



「だって、俺、ずっと見てたけど、カワイソウとか思ったことねーし。むしろ、おまえ四番なのにチビだなーとか!ちょっと遅れただけで俺の晩飯兄貴たちに食われて漬物とかしかねーの、哀れなヤツ!とか超言われるしー、そんなん言ってたら俺だって超カワイソウじゃね!?」




 なんでだろう。



 こんなにも、可哀想って単語はあたしを苦しめたのに、ゆうちゃんからその単語を聞いても全然苦しくない。



 そうか、言葉って生きてるから。


 発する人によって、おんなじ言葉でも、全然ちがく聞こえるんだね。



 だから、もしゆうちゃんに可哀想だなって言われても、きっと傷つかない。



 なんにも知らないで、表面聞いただけの人に言われたから、言葉は暴力になったんだ。



「その、星園ってやつが何考えてのかは、俺にもわかんねー。だって、ほんと意味わかんねーもん。お父さんが二人いて、オーボーな兄貴がいて、弟がいて、なにがカワイソウなの?別になんも楽してねーよ。だって、俺、雪華が我慢してるときの顔とかクセとかわかってるもん。雪華は全然我慢してねーよ!でも」




 そうだよね。苗字違っても、コウっていう兄がいて、弟ハルが二人いて。


 お父さんもお母さんもあたしにはたくさん家族がいる。



 そのふたつを足してもゆうちゃんの家の数には負けるけどーーでも、なんにもカワイソウじゃない、そうだよね。



「でも、今、我慢してる。星園ってやつのこと、すっげー我慢してる。それが俺はすっげー嫌。雪華はどうしたい?我慢、続けるか?」



「----したくない、もう、負けたく、ない」



「負けてもいいんだよ」




 え?と思ってゆうちゃんの顔を見た。


 元名門ボーイズチームの四番。どんな球でも必ず打つ。そんな人からそんな言葉、聞くと思わなくて。



「負けはイコール弱いんじゃないんだ。自分にさえ負けなきゃ、強くなるためなら負けたっていい。まして、相手は何言ってもわかんないやつ、こっちが相手してやることもねーじゃん。それって逃げてるんじゃないんだ、相手がレベル低すぎて相手にならないからこっちが構ってやる必要ナシなの」



 だから、ゆうちゃんは強い。負けから逃げない。



 だったらーー。



「あたし、バカでもいい。構わなくていいレベルでも、侮辱されて、このまま逃げたくない。多分、そうしてるとあたしは自分に負けちゃうから」



 だから。



 もう、卑怯な人には背を向けない。


 逃げない。


 このままじゃ、だめなんだ。

  


「よっしゃ、じゃあ、俺にはどうしてほしい?どんなワガママもゆって。これ、俺の大好きな子だけが使える特権だから、どんどん使って」



 ゆうちゃん。



 ーーーーそう、か……。許嫁、なんだもんね。


 許嫁ってことは、将来……結婚ってわけなんだけど。



 今更、正面から堂々と大好きな子とかいわれると、体温が上昇する。



 恥ずかしい。



 周囲には何年も、コウのこと誤解されて彼女だ彼氏だって冷やかされて、でもお互いに、はあ?って感じで、恥ずかしいとか思ったことはなかった。



 なんでだろう。


 お母さんのお葬式のとき、励ましてくれた初恋の小さな男の子は、ずっと見ていたはずなのに、こんなにも大きくて。



「え、なんでそこで照れるの!?雪華だって俺が許嫁でいいって言ってたじゃん!?今更じゃね?なんで!?どーした!!」



 許嫁なんて、ずっとあとのことだと思ってて。



 今になって、体で感じる。どうしよう。



 ゆうちゃんは、あたしのこと、ほんとに好きなんだ。

少しは糖度が上がって……はないですね、はい。次回に期待してください。

正面からぶち破っていくスタイルの彼は、良くも悪くも素直ーーな人です。


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