天才だって楽じゃないんだ
彼の視点
「安達ーーーーーーーーー!」
「ああ、小櫻か……今日も、休むってよ……」
ゴールデンウィーク前から、具合が悪いと、早退や休みを繰り返してたみてぇ……。
俺らは合宿いって、群馬までいってたし、それが終わってからも雪華が学校にこない。
安達の家についてって、桐月ハルに連絡いれたけど、ハルいわく「今、誰にも会いたくないって」
桐月ハルもどよーんて、してた。
安達もハルも、何が原因なのか知らないらしい。
「んーー、そっかー、今日も放課後いくだけいってみっかな」
多分、体調じゃねーよなー。
病気だったら「会えない」んであって「会いたくない」とはちげーもんな。
「まあ、俺も声はかけてんだけど、こんなこと今までねえし」
安達も、重量級のため息ついた。
これはけっこう、へこんでんな。
「俺は、そんなに頼りねえ兄貴なのかよーークソ!!」
安達が手袋をダンって地面にたたきつけたから、浅井たちがビクビク避けてった。
安達って、一年とは思えない態度のでかさがあるせいか既に先輩並の貫禄がある。
まあ、レギュラーとれた一年は俺と安達だけだもんな。
「ど、どうしたの、安達……?なにか……って、あ、桐月ちゃんがここんとこ休んでるから荒れてる?」
安達に若干ビビリつつ、中野が声をかけてきた。
雪華と中野は同じクラスだもんな、欠席回数知ってるよなぁ……。
「中野はなにか聞いてねーの?」
「まさか、いじめとかねーよな……?あったら言え!!!俺が今ぶち殺しにいく!!!そいつの名前を今すぐ吐け!」
「えええ!?し、知らないよ、さすがに……。俺も部活で疲れてるから休み時間は大体寝てるし、女子の話とかそんなに聞かないし。あ、桐月ちゃんと小櫻が幼馴染なんだって?それは聞いたかも。あと、家庭科の授業のエプロン、桐月ちゃんが友達の分も仕上げちゃって、うますぎてバレるー!って言ってたとかそんくらい」
「そいつらが、雪華いじめて縫わしてンのか!?」
「え、ええ!?同中のメンバーでいつも一緒にいた子だよ?ちょっと手伝ってもらうはずが全部やらなくていいのに、って感じの話で、その子たちも桐月ちゃん来ないの気にしてたし!ていうか安達ホントに同中の女子の名前も覚えてないんだ……」
うーん、俺も自分のクラスの女子もあんまわかってねーもんなー。
さすがに同じ中学のやつは、少しは覚えてっけど。
中野を責めらんねえ。つうか、けっこう聞いてるほうじゃね?
安達の、”もしいじめなら俺が血反吐はかせてやるぜェ”みてえな恐怖の大魔王オーラに、中野も逃げてった。
安達なら目線で人を殺せるようになるかもしれねぇ。
「安達ってさ、どこまでマジでアニキ?」
「どこまでもだよ」
性別男だっけ?当たり前だ!ぐらいの質問の勢いで、安達が断言する。
「周りのどうこうはどうでもいいんだよ、マジで!ずっと妹だって思ってきた。それなのにーー何かあるなら言ってくれって思ってんのに、なんでいわねえんだよ、あのバカ……!」
うーん、てことはさ。
血はつながってなくっても、安達がアニキなら将来こいつ雪華の親族席とか座りそう、結婚式とか。
俺、こんな義兄、めんどいかも……。
じゃなくって!!
正直、安達がこんだけシスコンにならなきゃ、周囲も騒がなかったんじゃねーかな。
まあ、雪華には家族が必要で、”アニキ”がいるのはそれはそれで支えになったんだろーけど。
絶対自覚ねーだろーけど、安達ってけっこうモテそーだもんなー。
「つうかさ、なにげに雪華がこないせいで話してっけど、小櫻こそ、おまえどこまで本気なんだよ。正直、本気でどこまで考えてるンだよ。おまえってある意味キャラよめねぇんだけど」
「あのさー、俺、後輩に声かけるの正直苦手なんだよねー」
「はああ!?いきなり何の話だよ!?」
俺は、野球が好きだ。
サッカーとかバスケもおもしろいって思うから冬はよくやったけど、やっぱ野球が一番だった。
打てたら楽しい。
打てなかったら悔しいけど次こそは打つって思えるし。
けど、いつの頃からか、俺は「天才」って言われるようになって。
正直、その辺はよくわかんねー。
でも、なんであの場面あそこに打てばいいのに打たないんだろ、とか。
なんでここでこの守備態勢なの、とか。
打球とか、モーションとか、俺には見えててなんでかみんなには見えないらしい。
だから、「天才」だから、「教えて」って言われても、俺が見たまんま・思ったまんまを言うと、相手はわかんないって言う。
同じチームメイトに、もったいねえなあって思った打席のこと、つい口にしたら、「俺はお前みたいな天才じゃねーからそんなの見えないし、わかんねえよ!お前みたいなやつは俺たちのことわかんねえよ」って言われちゃった。
それから、しばらく何か怖くなった。
言葉ってすげえ難しい。
俺は傷つける気なかったのに、俺には見えた打球がなんでか相手に見えなくって、それで相手のプライドにさわって、俺も傷ついた。
「天才」にはわかんねえ、って言われたってわかんねえもん。
だから、リトルとかボーイズで毎年新しいやつが入ってきて、チームに馴染む前は、案外気を使ったんだ。
「天才」って憧れてくるやつ、真似してくるやつ。異常にライバル視してくるやつ。
それは別にいい。
ライバル視なんて、俺と勝負!ってことだろ、むしろ歓迎だったもん。
けど、コドモの頃だからさ、親が野球好きだから仕方なくきましたー、みたいなのもいたり。
うちはボーイズとしては名が売れてたせいか、他からきたけどいきなりレギュラーから落ちてすねてるやつとか、チームからはみ出すやつは結構多くて。
そういうやつらに俺が声かけると、決まって言われるんだ。
”同情すんな”
”才能あるやつにはわかんねえよ”
俺はただ、楽しく野球やりたい。
それだけなのに、かえってミゾをひろげちゃう。
”俺”だからうまくいかない。
そういうとき、ハルと一緒に来ていた雪華が凄かった。
当然ベンチの中にいれるわけじゃないけど、練習なんかしてると差し入れだとかで人がごちゃごちゃするし、ハルが差し入れで他のお母さんみるとぶちキレスイッチが入っちゃうこともあって、雪華が休憩中とかちょっとしたときに混じるのは、特例措置だった。
監督も、ハルを今手放したら将来苦しむからってテッテイテキに厳しくして差別なんかしなかったけど、そこだけは唯一譲歩してて。
そんで、俺が声かけたいけど、かけたら逆キレっていうか、なんていうか解決しないやつらに、雪華はなんかうまいことしゃべってて、そんで、気が付いたら輪の外にいたやつらは輪の中に入っていた。
それが、すげえって思ったんだ。
はたから見てたときはただの可愛い子だったけど、その力がすげくて、俺には出来なくて。
そんで、多分、一番俺のことわかってくれるのは雪華だって思ったんだ。
俺のカットウ、全部わかってた。
「ああやって言えるのはね、私が野球では無害な立場だからだよ」って。
「引け目の気持ちはわかるから。でも、ゆうちゃんも勝手に区別されるのは辛いね」
なんていうかーーーーーーー常に、雪華は対等なんだ。
打てないって苦しいやつにも、「天才」って言われる俺にも。
それは、ずっと自分が区別されてきたから。
それでも、「お母さんがいないから」って立場に妥協してこなかったから。
俺は、フツーに見えてるのに、みんなに「すげえ」って言われるのがめんどいときに、なんどもなんでもない会話で救われた。
だから、幼い日のあの約束を、一生かけて守ってこうって。
本気の本気でそう思ったんだ。
ヒロインが天岩戸に入ったので、男どもが団結しておりますね。
コウは完全なる理系理論派、彼は天性の直感野生児なのですが、それゆえの会話は成立しています、はず。
彼が何故許嫁を決意したかを早速とバラしていくスタイル。




