すずかぜクラス 祭りの9月
暑さは次第に弱くなり、反対に風の冷たさが私の心を落ち着かせる。
9月も半ばに差し掛かり、クラスの皆は今まで通り、今まで以上に全力で毎日を生きているように感じる。
特に、抑制と育成に関する話をした後からの羽黒のキラキラした目は、これこそGod Notesと言いたくなってしまうほどだ。
しかしながら、皆が皆その事に関して躍起になっているのかと言われれば、否定せざるを得ない。
なぜなら、そこに数少ない学校行事が珍しく存在しているからだ。運動会や修学旅行と並ぶような学校生活の一大イベントであり、私が学生時代もっとも疎ましく、妬ましく思っていたものが、開幕の狼煙が上がるのを、今か今かと待ちわびているのだ。
それはもう、街が待ちに待っている盛大で壮大なイベントだからなぁ。
私、苦手なんだよ…
盛り上げるの下手くそだからさ。
「ねぇ、先生。回らないんですか?」
「ああ、茶畑か。うん、回らないよ」
観客席のようになっている階段の一番上でたそがれている先生に話しかけてきたのは、友達を一人も連れておらずにただ、一お客さんとして楽しんでいる茶畑いろはだった。
手荷物を見れば、他クラスの景品だったり、フランクフルトのごみだったり、本当に楽しそうに回っている。
「友達がいないほうが、回りやすいんです」
「そうなんだ」
友達がいない人にとってみれば、意外な答えだった。
「今、結ちゃんたちが必死こいて頑張っているじゃないですか」
「ああ、友達を忘れずに人間に戻る方法だっけ」
「いまはまだ、開発しなくていいんです」
「ん?」
「それの開発成功は、今年じゃなくていいんです」
「と言うと?」
「私、神怪になって、先生のお手伝いをしたいなって」
「私の?」
「ええ」
「どうしよっかなぁ。ああ、誤解しないでほしいんだけど、別に嫌いって訳じゃないからね?でも、要らないかな」
「そう言うと思っていました」
彼女が見つめるその先には、私の言葉なんてこれっぽっちも無かった。
「あんまり、家族とうまくいってないのか?」
「そうですね。すごく、やりづらいです」
「そうか」
秋空が彼女の心を洗うことなく、表すだけ表して、荒らす。
「全部私が悪いんです。勉強しか能のない私が」
「そんなことは」
「あるんです。勉強だけできるから、家族の皆からは嫌われていくんです。知ってましたか?人は、限界を越えると善行でも嫌われるんです」
「それが、神怪の神怪足りうる理由だからな」
「でも、その限界は、自分には分からない。私はただ、褒めて欲しかっただけ。優しく励まして欲しいだけ。なのに、響かない。届かない」
「わたしもそうだった。親には捨てられたよ」
「いつの日か、言っていましたね」
「お説教するつもりなんかこれっぽっちもないけれど、ひとつだけ個人的な意見を言わせてもらうなら、もっと嫌われてこい」
「……え?」
「妬まれて、嫉まれて、疎まれて、嫌われて。捨てられてこい」
「そしたら?」
「そしたら、今まですべての幸福をかなぐり捨ててでも、お前をそばで見守ってやる。最後まで、付き添ってやる」
「先生!!……大好き!!」
「わぁ!抱きつくなって」
「わあ、先生って柔らかいんだね」
「二の腕の話だよね?」
「いいえ、おっぱいの話です」
「お前もかい!」
「お前も?」
「今頃、赤根がくしゃみでもしてるよ」
「ほぇ」
文化祭は、まだまだ続く。
日常の中の非日常に、少しの期待を持ちつつ、茶畑いろはは、体育館へと向かった。
演劇部の公演で、題目は「シンデレラ」。
彼女の心を洗う王子さまが、いつか現れることを信じて、私は慌ただしく動く生徒たちを、眺めていた。
いや、見守っていた。




