すずかぜクラス 独白の8月
「夏休みも終わったし、皆にちゃんと言わないといけないこと事があるから、この時間を用意した」
それでもなお、暑さはしぶとく生き残り、じめじめとした空気がまとわりついて離れない8月の暮れ。
他の学校の生徒は、夏休み残りわずかという段階だろうし、この日が世界でもっとも、否世界は言い過ぎたように思えるが、少なくとも本都でもっとも宿題を消化している日であることに間違いはない。
だって、わたしもそうだったし。
しかしながら、この学校は特殊で、周りの学校より一足も二足も早く夏休みが終了する。
終わりを告げる。
その事に関して、先生としては遺憾の意を示したくなるが、その分私たちも仕事する日が増えるので、私たちも嫌なのだ。
早く帰りたい。愛救ってごろごろしたい。
愛救うってなんだよ、アイス食うんだよ!
疲れた脳みそが、自分の過ちについて叫ぶ。
まさに、I scream。
だめだ、完全にぼうっとしている。
それは、生徒たちも同様で夏休みを終え、今日からまた生徒たちは渋々ながら、なんともないことで笑い転げながら登校してきた。
「何っすか?話って」
赤根は、夏休み直前に付き合い始めた蕪谷野乃葉と一緒に登校しているようで、チャイムが鳴ってもいちゃいちゃをやめる気配がない。
「いや、それより蕪谷、クラス戻りな」
「私、この学校に住み着いているので、ここが私のクラスみたいなものですよ」
……ん?
「君は、一体何を言っているのかい?」
「だから、私は、この学校に、20年、住み着いているのです」
「つまり、それって?」
「地縛霊?みたいなものです」
「そっかそっか、なるほどね」
今はそれどころじゃない。
ちゃんと話さなければならないことは他にあるのに、そこで構っていられない。
「じゃあ、隣に席用意するから」
「ありがとうございます」
指差す手が震える。
自分も一度死んだ身だと言うのに。
「じゃあ、気を取り直して」
「先生の夏休みについて、儚くも美しいものだったのか興味があります」
「素直に夏休みどうだったって聞けよ、青村」
「いえ、先生の夏休みというのは、やはり賛美で耽美で甘美な毎日なのかなって思いまして」
「どんな毎日だよ、それ!」
「そんなことはなかったのですか?」
「そんな毎日のやついねぇよ」
「そうですか」
「せ、先生!」
「え、何?茶畑?」
「あ、あの宿題、置いてきちゃったんで、取りに行っても良いですか?」
「良かねぇし、出してねぇし」
「え、出ていない?」
「どうせ、やらねぇやつがいるだろうか初めから出してねぇよ?」
「でも、千歳ちゃんが」
「お前か、萌黄」
「てへ、ばれちった」
「上級生をいたぶるのもいい加減にしろよ」
「いたぶってません。弄ってるのです」
「おんなじことだ」
「あの、そろそろ話してくれないと、計算式が柵を飛び始めてます」
「どんな羊なの、羽黒?!」
「じゃあ、手短にお願いですにゃ~」
「分かってるっつうの」
私は、託された使命について、指名された要因について、事細かに説明を施した。
そりゃ、いきなりで分からないこともあるだろうけれども、それでもしっかりと耳を傾けて聞いてくれているのは、先生としても、あるいは人間としても嬉しいことこの上なかった。
まさか、授業は寝るのが当たり前だった羽黒まで聞いているとは……
そこまで来ると、言っていることが間違っていないか逆に不安になった。
「というわけなんだ」
「……なるほどにゃ~」
「解決への糸口は、お金ですかね、千歳さん」
「そうだね、結ちゃん」
「ここをXとおいて、そうすればここがYになるから……」
「どしたの結ちゃん?」
「千歳さん」
「え?!あ、はい?」
「ここからの論理、間違っているでしょうか?」
「い、いや間違ってはないけれど……あんたまさか」
「多分、出来ると思います」
その時の羽黒結は、燦然と光輝いていた。
「な、何、羽黒?」
「計算上は、可能だということです。友達を忘れずに、人間になることが」
「いやいや、流石にそれは」
「忘れるは忘れるだろうけど、ずっとそばにいることは可能だということです」
「どうするんだ?」
「完成したら、お教えしましょう」




