すずかぜクラス 告白の7月
いよいよ一学期も終盤に差し掛かり、そろそろ成績を付けなければならない、7月になった。
しかしながら、私はこの事に関して、面倒だとは思うこそすれ、取り立てて気にすることはなかった。
気づいたのは、というか思い出したのは今朝だったりする。
思い返せば、妙に職員室が忙しないなぁとはなんとなく思っていたし、どうも最近生徒の態度が良くなったりしていたので、不思議だなと、それくらいに授業が面白いのかなと自信がつくような日々が続いていたように思う。
「まさか、演技とは。つらいなぁ」
「仕方がありませんわ。子供ってそういうところ露骨ですから」
「露出させなければ、可愛いんすけどね」
「まぁ、まだまだね。そこがまた、可愛いのですよ」
食べちゃいたいくらい。とよだれをすすりながら、艶やかで凄惨な声を惜しげもなく電話越しに披露するのは、何を隠そう山菱菊梨である。
「そういえば、そろそろ成績を付けなければならない時期ですよね?」
「え、ああ、うん。そうだよ」
「その雰囲気、まったく覚えていなかったでしょう?」
「いやいや、忘れていないっすよ?完璧に余すことなくこぼすことなく正確に記憶されています」
「忘却の彼方にでも、保存されているのでは?」
「傍若無人ですね、相変わらず」
「話戻しますけれど、といってもアドバイスもありませんけれど」
ないんかい!
「強いて言うなら、圧政は強いない方がいいですわ」
「圧政?」
「苛政は虎よりも猛なりと言いますから」
「…ふうん」
電話は、ここで切られてしまった。
校舎へ戻る。
自販機でコーヒーを淹れ、その場で飲み干し、階段を上る。
螺旋式の階段をぐるぐると上っていった先に、思いがけない景色が広がっていた。
そのタイミングで、我に返ることが出来たなら、学生の放課後なんて大抵こんなもんだと思えたけど、あまりにもそれは突然だったので、とっさの判断で、階段の影へと隠れてしまった。
若干声が高いなぁとは思ったものの、先々月のラジオを読んでいた私は、遅れ馳せながら、実行に移した田制だと思っていた。
「わ、私と、お付き合い、していただけませんか?」
ぜってぇ違う!男じゃねぇ!
ふと視線を落とすと、職員室に用があるという蝉垳がこちらを見ていた。
「どうしたかにゃ?」
「しー、こっちこっち」
「はにゃ?」
蝉垳がその景色を見ると、途端に目が変わった。
「あれ、マジかにゃ?!」
「いや、知らんけど…あれ?」
…少し考えて、模索して、ある程度の仮説をたてて、証明して消滅させて、ひとつの結論にたどり着いた。
…ここに男が一人もいねぇ!
しかも、赤根じゃねぇか!
「こりゃびっくりだにゃ!」
「OKっすよ!」
OKした~!?
つい蝉垳と共に盛り上がってしまった。
「どこ行く?ショッピングモール?」
勘違いしている~!?
蝉垳も思わず苦笑いだ。
「三咲さんらしいにゃ」
「そ、そういうことではなくて、けっこんしたい、みたいな」
「血痕死体、診たいな?そうか、お医者さんになりたいっすね?いいっすよ、練習台にして」
いいのかよ、練習台にされて!?
「ち、違う、でも…それもいいかも」
特殊な性癖目覚めちゃったよ?!
「8人目ですにゃ」
さすがに入れねぇぞ?
「違うなら、何なんです?」
「だ、だから!愛してるんです、あなたを」
言った~!?心を込めたI LOVE YOU!
「そ、そうなの?!」
可愛い!!
「じゃあ、お願いします」
突然の丁寧語!!
先生、語彙力がなくなっているにゃ。
そんな蝉垳の言葉に耳は傾けず、視線はずっと決定的瞬間を捕らえていた。
二人の初々しい微笑みが、これからの学校生活の癒しとなることは、私と蝉垳の秘密であり、共有の幸福となった。




