いてくもポゼッション 嫉妬の水。
…待ってください。確かに私は彼女にお願いをしました。しかしながら、どうでしょうか。氷結さんは、今日お休みのはずでは?
「あ、あの今日お休みですよね?」
「それくらい知っているわよ、同じクラスだし。行くのよ、家に」
「は、はあ」
「もしかして、彼女の家を知らないとでも思っていたの?言っておくけれど、私とひゆは幼馴染なの」
「…そうだったんですか」
幼馴染ということは、程度こそあるにせよ、仲良しだった時期がこの二人にもあったということなのでしょう。それを知ると、なお一層この状況には疑問を抱かざるを得ないです。
「いつから仲が悪くなってしまったんですか?」
「知らないわよ、そんなの。気づいたら疎遠になっていたし、クラスも変わってから話さなかったし」
「その、クラスが変わったのって具体的にはいつですか?」
「え?ええと、中学3年生の時かな?」
昔の日本国での教育にだいぶ感化されている本都での学生生活は、3歳から始まります。
3歳から6歳までの初等教育(幼学校)、6歳から12歳までの次等教育(小学校)、12歳から18歳までの中等教育(中学校)、18歳から24歳までの高等教育(大学校)となっています。これに関しては、羽天さんから教わったというよりは、基礎知識として知っていました。それくらい本都の教育は徹底しており、8部門ある通称学問オリンピックでは、4部門で3連覇、その他でも最多優勝を誇るようです。
「今、中学校の5年生ですよね?」
「ええ、まあ」
ということは、この2年間の間に、何かしらの事件があったと考えるのが妥当かもしれません。
「まあ、でも彼女なりの葛藤があるんじゃないの?ぶつけられている身としては、あんまり嬉しい物じゃないけど。むしろ、たまったもんじゃないよね」
「そうですよね…ん?あれ、なんか聞いていた話と違うんですけれど」
「聞いていた話?」
「聞いた話では、失礼ですが、あなたつまりは環さんが氷結さんを苛めているとか」
「ふん、何その戯言。神様のくせに、そんなこと信じているの?」
「神様も、万全ではないんですよ。私達が作ったわけじゃないですし」
「…ふうん。じゃあ、その勘違いは撤回してもらってもいい?」
「分かりました」
神様と言えど、私達は創世者ではありませんから、言ってしまえば派遣社員みたいなものですからね。
しかし、ここまで違ってくると、いささかこんがらがってしまいます。もしかして、彼女は今までにない神怪、またはそれ以上の悪的存在なんじゃ…
「ねえ、少し気になったんだけど、精神疾患とか、心情とかって神怪の一種だったりするの?なんて言うのかな、実態はないんだけれど、それ自体みたいな。…例えば、鬱とか嫉妬心とか」
「あんまり、そう言うのは聞いたことがないですけれど」
でも、突き詰めてしまえば、そういうこともあるかもしれません。
「神怪にも、良い存在と悪い存在がいるというのは、確かです」
「そっか、なら氷結は悪い存在なんだろうね」
「まだ決まったわけではないですけれど」
「もし、悪い存在だったら、どうするの?」
「まあ、できる限りの対処をして抑制への道を歩ませますが、それでもだめだった場合は消滅の儀をしなければなりません」
「消滅の儀?」
「歴代、私の地元の島長が使うと言われている消滅の儀です。今は、神那さんという人がその能力を持っています」
「そっか、でも消されちゃうのは少し嫌かな」
「そうならないよう、精一杯努力します」
「ありがとう、神様」
「まだ仕事はしていませんけれどね」
「じゃあ、行こうか」
向かった彼女の家は、大きすぎず小さすぎない、丁度いいサイズで年頃の女の子には住みやすそうな家でした。一つ特徴を言うのなら、昔の日本の家のようでしたね。でも、庭園があるわけではないですけど。
「ここが、お家なんですか?」
「そうだよ、よくここで遊んだものだわ」
ピンポーン
「は、はーい。あ、泉咲さん」
「どうも」
「あ…たまちゃん」
「ねえ、ひーちゃん」
「な、なに?」
「一緒に茶道部に入らない?」
…いきなり⁈
「…何であんたなんかと一緒に茶道部に入らなきゃいけないの?」
「また、仲直りしたいのよ」
「…あなたの所為でこうなったわけじゃないの」
「…どういうことですか、氷結さん」
「私の所為なの」
いったい何を言っているのかさっぱりでしたけれど、その瞳を見る限りそれは彼女自身の言葉で、憑依して言わされているわけではないようです。
「…どういうことよ」
「私の、心が、いけないの」
「は、はあ?」
「あなたに、嫉妬していたから。友達多いたまちゃんに」
「何それ、悲劇のヒロインみたいな」
「ごめんなさい」
「あんなに散々言っておいて」
「ごめんなさい」
「あそこまで傷つけておいて」
「そろそろやめた方が…環さん」
「たったそんな事なの⁈」
「…へ?」
「あ、あれ?」
「たったそれだけなら、別に気にしないのに。してよ、嫉妬を。それくらい、私のことを考えてくれてるんでしょ?」
…おっと、これはどういうことでしょうか?
「え、え?」
「だーかーら、一緒に茶道しよ、ね?一緒にやってリラックスしましょ?」
…読めないなあ、人間って。
「いいの?」
「いいに決まってるじゃん!」
嬉しそうな氷結さんと環さんを見る限り、一段落ついたようですけれど、いったい何が起こっているのかよく分かりません。神様よりも、人間の方が複雑ってことですかね。
「無視ほどつらいものはないってことよ」
彼女は、そう言ってお辞儀をした。
私は結局何もできなかったけれど。
「そんなことありません。あなたのおかげでたまちゃんと仲直りできたわけですから」
どうやら、ずっと想うということは、人間にとって大切なことの一つのようです。
報告書書かなきゃ。




