かのとみデーティング 明け方に明かす正体
「神怪?それって、もうなくなったんじゃないのか?」
「うん、そういうふうに聞いていたけど、神那ちゃん違うのかい?」
「お父さんもお母さんも、ちゃんとは知らないようですね」
確かに、泉希と久々に連絡を取った時も、「あれで、神怪はいなくなったんだよね?」と誤解をしていた。
興味のない人からすれば、神怪は北方諸島にしか住まないもので、北方諸島から人がいなくなったのならば、そこに神怪はいなくなったと考えるのも当然である。
「神怪は、人間がいる限り、産まれ続けるものですから」
「…そうなのか、知らなかったよ、ねえ母さん」
「そうねえ、父さん」
「それで、うちの娘がどうして神怪だなんて言えるんだ?」
「それは、娘さんが完全な少数派だからです」
「…まあ、八方美人を正義とする人ってあんまりいないですよね」
皆が黙ってしまった。…あれ、まずいこと言った?
「小僧の言う通りかもしれない。八方美人は嫌われやすいからな」
…セーフ!
「たぶん、娘さんは八方美人をすることによって、人生を楽しんでいるように思われます。お金稼ぎはできるし、人には好かれるしで、悪いところはありませんからね」
単に倫理的な問題であって、人生を楽しむという点においては、何も間違っちゃいない。
「…それは、間違っているだろう」
「お父様の言うことも理解できます」
「…どうして、分かってくれないんだろうな」
「壬午さん、多分それが楽しいことだからだと思います」
「…楽しければいいって言うのは幻想だ」
「そうです。楽しければいいというのは、ある程度の規範や規則があってこその常套句です。そこにルールがなければ、意味がない」
「…じゃあ、楽しくならなければいいんだよな?」
「きっと、それは不可能かと思われます」
「なんでだよ!」
「だから言ったでしょ、彼女は神怪なんです。下手すれば一生逃げ切ることができます」
関係が悪化すれば、また別のところへ飛来する。渡り鳥のように悠々と、飄々と渡り歩いて、生涯を終える。そんなことができるほどに、彼女はコミュニケーション能力に長けているという。虜にまではせず、あくまで相手のペースに合わせて、捨てられたらそのまま退散。
来るもの拒まず、去る者追わず。
「娘さんと、会わせて頂けないでしょうか。今日でも、明日でも構いません。これから開店の準備もありますので、一旦ここで中断しましょう」
「…分かったよ。今日でいいか?」
「お待ちしています」
彼が去り、店を開けると、それなりのお客さんが待っていた。
「い、いらっしゃいませ」
その後も、ぼちぼちお客さんは入れ替わり、店長(戌辰さん)特製の淹れたて珈琲は、相変わらず人気メニューとして健在だった。
というわけで、開店中は特に不自由もなく仕事ができたわけだが、しかしながら神那ちゃんがあそこまで強く出たのが不思議だった。
「ねえ、神那ちゃん」
「何でしょうか、はいあおやま」
あおやま…、あ!
「…ブルーマウンテン、お待たせしました」
「ありがとう!」
「じゃなくてですね」
「何ですか?はい、アフリカB」
…アフリカBって、何?
「ああ、キリマンジャロのこと」
「そうです、さあ、行ってください」
「はいはい」
全然会話させてくれねえ。
「キリマンジャロブレンドです」
「ああ、ありがとう」
「ごゆっくり」
時計を見ると、もうすぐ閉店時間だった。
「ねえ、神那ちゃん」
「ああ、そうですね。そろそろ閉めますか」
ああ、分かっちゃった。神那ちゃん意図的に避けてるな?




