りずルーティング 閉ざされた王女の歪んだ望み
リズ・レイラは純粋な王女である。北方の島々では唯一の王政を2000年以上続けている由緒正しきレイラ家の第一王女なのである。
見た目は、その麗しさに跪かないものはいないと呼ばれるほどで、彼女が女王となったら、命が危ないと言われるほどである。
しかし、その王女リズは、この島の住民も知らないような事情を抱えている。
性格というものは、そして人の価値観というものは、幼少期に養われ
るというらしいが、彼女の場合幼少期という時期が、失われている。
失われているというと、少し血腥く、きな臭い感じに聞こえてしまうかもしれないが、いわば宮殿で幽閉されていたのである。
年の近い友達はおらず、相手をしてくれるのは、いつだって大人。
そんな生活が続く彼女に、とある転機が訪れた。12歳のことである。王女の就任式に出ることになったのだ。
特殊な王政という政治形態に、特殊な就任方式。一応調べてはいたものの、いまいちよく分かっていないのだが、とりあえず彼女は12歳の時に、世の中を知った。
井の中の蛙大海を知らずとはよく言ったものだが、彼女の場合、大海を知ったとき、喜びよりも悔しさよりも、憎しみが増したという。
「なぜ、わらわよりも人々は幸福を噛み締めておるのじゃ」
そう言うと彼女は、今度は自ら、宮殿に籠った。
人々が憎い。住民が妬ましい。島民が嫉ましい。住人が羨ましい。
皆のような幸福が欲しい。欲しい。欲しい。
次第に彼女の嫉妬心は赤黒く燃え上がり、その炎は様々な方向へ影響を及ぼした。
「お嬢様、次のお見合いの相手なのですが」
「彼女はおるのか?」
「え、彼女ですか?いえ、お嬢様。お見合いに来るような者は皆、お嬢様を愛し、大切にしていただける人たちばかりでございます。決してお嬢様以外を愛するような者はおりませぬ」
「それじゃあ、ダメなのじゃ。わらわは、そういう奴は要らぬのじゃ」
「ですが、お嬢様」
「分かったら、ピザでも買ってきてくれんかの?」
「…承知いたしました」
「行ってらっしゃい」
その荒唐無稽のやけくそにも思われた、前代未聞で空前絶後な態度は、瞬く間に宮殿内を超え、人々にまで知れ渡った。
「次期王女は、魔性の女だ」
この肩書の魔の部分を残して伝わっていくのは、やむを得ない。
彼女は、そういう経緯によって、少数派の仲間入りを果たしたのだ。
誰かの所有物であることに価値を見出す。
別に、これは誰もが持っている一感情だ。サッカー選手のスパイク、野球選手のバット、歌手のマイクなどなど。
しかし、彼女がいることで男の価値を見出すということは、住民にとって恐怖の対象である。
彼女の風貌を考えれば、必ずと言っていいほど男は虜にされてしまうのだから。
囚われの姫から、虎被せの姫へと、ジョブチェンジを果たした。
―――――――
「うぬ、名を何と言ったか?」
「薮坂、足助だ」
「良いのう。実に良いわ。うぬ、わらわの婿に来ないか?」
「それは、勘弁してくれ」
「冗談じゃよ。上段だと思えんか?我ながら上等だと思ったのじゃが」
「悪いな、俺には愛する彼女がいるんだ」
「知っておる。じゃからこそ、誘っておるのじゃ」
「さすが、人の物じゃないと愛せない王女だな」
「さすがに知っておったか。では、話は早い。夜の戦と行こうではないか」
「望むところだ…と、言いたいんだけど」
「だけど?」
「今そんなことしてる場合じゃないんだ」
「というと?」
「ニュース、見てないか?」
「ああ、あの島爆破という奴じゃな。あれさすがにわらわもやりすぎじゃと思ったぞ?」
「そう、あれがこの島でも、そして他の北方の島でも起きようとしている」
「そうなのか」
「だから、俺たちは共闘しなければならない」
「なるほど、それは困ったのう」
「じゃあ」
「では、条件として、うぬがお婿に来たら考えてやろう」




