くらっどファーストラブ 爆破の水。
朝は、清々しいほど晴れており、もうこのまま帰ろうかなってこれからの仕事に関して気後れしていたところ、連絡がありました。携帯なんて初めて使うので、いまいちよく分からんのですが、どうやら、メールという、電子的な手紙を頂いたようです。
…これは、茉釣さんですね。
「申し訳ない。君たちには、未来はないようだ。本当に申し訳ない」
…これだけ?
私には、というか大体の人には伝わらないであろう文面に、たじろぐ私ではありますが、どうやら羽天さんには、分かったようで。
「…私に、やれることはある?」
という文章を残しました。便利ですね、これ。まるで、その場で会話をしているみたい。
「あとで、話そう。とりあえず、皆の仕事が終わったら、早急に集まってくれ」
了解です、と打てばいいんですよね、こういう時って。
それにしても、どういうことなのでしょうか?
クエスチョンマークを浮かべてしまいますが、答えは仕事が終われば見たくなくとも見えるみたいなので、何より仕事を最優先にしなければなりません。
「よし、我が妹たち、もう出発するよ?」
「えー、もうすこしだけ!」
「あと少しなんだから、ね?」
「アトスごしにみえるえーげかいをみるまではここにいる!」
「だから何でそんなに博識なの⁈しかも、アトス山って、女性は入れないからね?」
「そうなんだ、しらなかった。かくしきがあるんだね」
「そうなんだよ。ていうか、行くよ⁈」
「はーい」
塘恵さんにお礼を言って、私たちは船に乗り込みました。
「どうしよう、おねえちゃん。はきそう」
「え、奈波、ここで⁈」
「お嬢ちゃん、後ろにトイレあるから行ってきな?」
「ありがとう」
「もう」
「それにしても、お嬢ちゃん達三人でどうしたの?もしかして、家出とか?」
「いやいや、そういうんじゃなくて。あ、そうだ」
「うん?」
「あの、この仕事してて長いですか?」
「ああ、結構やっているよ」
「本都ってどういうところなんですか?」
「うーん。優しい人が多いよ?こんなに少数派を優遇しているのなんか、ここくらいじゃないかな?」
「え…?」
聞いていた話とは、少し違ってくるのですが…
「少数派は、すぐ暴力的になるってよく言われるからね。お嬢ちゃんたちはそうは見えないけれど。たぶん、そのせいもあって、こういう対処をせざるを得ないんじゃないかな?」
「そう…なんですか」
私たちが置かれている状況に、少し戸惑いながらも、次の質問をします。
「もし、私たちが、独立するとなると、世界はどんな感じに映るのでしょうか?」
「どんな感じになるのかは知ったことではないから、何とも言えないけれど、一つ言えるのは独立できるほどの能力を持ってしまうと、君たちを排除せざるを得ないだろうね」
「…どうして」
「わしらは、船員として、君たちのような少数派や、少数派と交流したいという変人たちを見てきた。確か、教師もいた気がする。わしらは、そんな簡単に他人を疑う気もないけれど、町の人々は、多分その行動が意味不明だろうな」
「何でですか?私たちには、権利は、普通に生きる権利はないのですか⁈」
「まあ、その権利とやらを散々奪って惨憺たる状況を生んだのが、君たちの先祖だから。仕方がないのだろう。着いたよ、くれぐれも気をつけて。普通を、装いなさい。こんなことを言って、申し訳ないね」
「……分かりました」
言われていることが、今までされてきたことを一言でまとめられているように感じられて、切なく、辛く、もどかしく、苦しいです。
普通に生きる権利は、無いのでしょうか。
「おねえちゃん、ついた?」
「…うん、着いたよ」
「おねえちゃん?」
「…うん?」
「どうしてないてるの?」
不思議と涙がこぼれました。私の考えていないところで、とっぴな生理現象が起きると、混乱は否めないです。
「…え、どうしてだろう?」
「…ふう。だいじょうぶだよ、おねえちゃん」
「だいじょーぶ」
「泉咲、奈波」
今まで、本都の人にイラつくというか、言ってしまえば憎く思っていたことは多々あったけど、先祖を恨むのは、これが初めてだろう。
涙と、いずれ来る終りへの不安を振り払い、私は言います。
「よし、今日のおしごとは、早く終わらせるよ」
「うん!」
持ち込んだ住所を手に、私たちは歩き出した。遠いかどうかで言えば、確かに遠かったし、奈波は暇だと言わんばかりに泣き叫ぶし、踏んだり蹴ったりではあったけれど、どうやら、正しい住所へたどり着いたようです。
「ようやく!」
「ようやく!」
「よーやく!」
声がそろいました。やっぱり、姉妹ですね。
ピンポーン
チャイムを鳴らすと、意外と聞き覚えのある声が聞こえてきました。
「はーい。えっと、配達かな…ってあれ?」
「あれ?」
「あれ?」
「あれ?」
「炎香ちゃんじゃないですか?」
「うん。そうだけど…なんで?」
「だって、ストーカーの被害者って?」
「ああ、昔ね」
「…そうだったんだ」
「そうなんだよ。まだ、いじめられていたころね」
「知らなかった。というか、普段ここに住んでいるの?」
「普段というか、家はちらほら作っているから。たまたまここにいただけなんだけどね」
じゃあ、解決ですね。
「じゃあ、またやり直しかあ」
「あ、そういえば三波ちゃんの島なんだけど」
「はい」
「今、無くなったよ」
「…え?」
「さっきのニュースで。島、爆破だって」
「…ええ??!!」
「残念だけど、そうみたい。本都もやりすぎだよね。そうだ、さっきの連絡見た?一緒に向かおうぜ」
…まさか、そんなことになっていたとは。もしかして、あのまま私たちがそこにいたら、巻き込まれていたのかな?
「ああ、それなら大丈夫。どうやら、脱出希望はしっかりとって、それでも残るという人だけ、もろとも爆破らしいから。あ、犯罪者も一緒にね」
ということは、あのクラッド・ヴィーチェさんも一緒に。
ちゃんと、彼の最後の言葉を、伝えてあげればよかった。
あんな人だけど、本当はそんなに悪い人では、無いのかもしれない。
行き過ぎた愛は、人を狂わせる。
彼の初恋の結末は、島と人生もろとも、全て爆破された。
「待て待て、そんな終わりでしっくりこないから。ここで一泊させて⁈」
「え⁈まあいいけど。よし、奈波ちゃん泉咲ちゃん!今夜はパジャマパーティーだぞ!!」
「いえーい!!」
あのメールは、どういう意図を含んでいるのか。
嫌な予感がしてならない。




