くらっどファーストラブ 捜索の水。
奈波と泉咲は優しそうなおばあちゃんと仲良く遊んでいたので、ここで少しお留守番をしてもらって、私たちはその住所のところへ向かうことにしました。
「それでも、好きな人や気になる人は、いたのではないですか?」
「いや、私はもう人を愛せないので、そういうことは」
「…その、愛せないってどういうことなんですか?」
「強いて言うなら、したくてもできないという方が正解かもしれません。…というか、こっちで合ってますか?見ると、建物がないというか、全部更地なんですけれども」
会話に夢中になっていて、すっかり周りが見えなくなっていました。前を向くと畑、東を向こうにも、西を向こうにも、一面野原。…あれ?間違えたかな?
「でも、住所はここで合ってますよ?」
「もしかして、嵌められたのかな?」
こりゃ、まいったなと腰に手をつきうなだれてしまった。その行動一つにかっこよさが際立ちます。
「…まだ、諦めちゃいけないと思います。この島の役場に行ったら分かるかもしれませんし!」
「あ、それは、ちょっと」
怯えたネズミのような眼をする彼は、戻ろうとする私の肩をぐっと引っ張ります。
「あ、すみません」
「どうしたんですか?」
「あの、役所はちょっと」
「どうしてですか?あそこなら、いろんな情報があるので、一発でわかると思いますよ?」
「その情報が、問題でして」
「…問題?どういうことですか?一からすべて話してください」
「言わなきゃダメですか?あなたのような、女性の前ではあまり言いたくないのですが」
「…まさか」
普段は全然勘が働かないくせに、なかなかどうしてこういうどうでもいい時に限って冴えてしまうのでしょう。
「ストーカー…とかではないですよね?」
「…備後です」
「何で昔の岡山県が出てくるんですか!!」
「すみません」
「…じゃあ、罪悪感に苛まれていたのはそういうことなんですか?」
「…申し訳ない」
「じゃあ、あそこって、収容施設ってことですか⁈」
「…はい」
「今すぐ帰ります!!」
「ああ、いや待って。大丈夫、むしろ元凶が外に出ている現況の方が確実に安全です」
「お前が言うなあ!!」
「言葉もないです」
「…はあ、大体わかりました。代替できるような話もないのでこの話を続けますが、本当に彼女に会ったら謝れるんですか?もう二度と、会わないと約束できますか?」
「もちろんです。もう彼女を、悲しませやしません!」
「頭から指の先まで格好いいのに、そんな人まで虜にするとか、どんな奴なんですか」
「みんなに好かれているような、言ってしまえば神様のような人です」
「あの、言っておきますが、許しているわけではないですからね」
それに、神様なら、もう二人くらい知っているんですけれど。
「申し訳ない」
「居ぬと嘘つくお猪口のような心を持てば、寝ずに後ろで虎が待つと言いますから、北の島では優しい人が多いですけれど、神様として苦言を呈さなければなりません」
「すみません」
「しかも、無限に、平原に響き渡るくらいに」
「謝罪申し上げます」
「その言い方、全然謝っていませんよね?」
とりあえず、もう一度住所を見直します。
「ねえ、クラッド」
「は、はい。何でしょうか?」
「まさか、ここに島の名前がないんだけれど、もしかして、この島ではないのではないですか?」
「…これは、確かにそうかもしれません。しかし、そうなると、私は島から出られない身なので、どうすることもできません。今まで、ありがとうございます。まっとうに生きていきたいと思います」
泣くのを我慢して笑う彼が、何となく放っておけませんでした。
「…もう、分かりましたよ。私が、探してきますから」
「ほ、本当ですか?」
「しょうがないですね。当てがあるかもしれないから、ついでですよ」
「ありがとうございます!」
恩を売るつもりも全くなく、ただ心に引っかかったものを取りたかっただけなんですけどね。
そして、一度戻って妹たちを連れて、役場へと向かいます。
「ねえ、それってわたしたちがやらなきゃいけないの?」
「まあ、やらなきゃいけないわけじゃないんだけどね、乗り掛かった舟だからね」
「お、ぎょぎょうのまちだけに?」
「仰々しく騒ぐほど、うまくはないけどね」
奈波は遊び疲れたのか、また寝てしまっています。
「おにのぎょうそうでみないでよ!」
「そんな怖い顔してません!!」
多分、こっちの方が鬼の形相だ。北東の島だから勘弁してほしい。
そんな話をしている内に、役場に着きました。
「あの、すみません」
「どーしまーしーたーか?」
「あの、クラッド・ヴィーチェさんっているじゃないですか」
「あーいまーすーね」
「被害者の女性についてお聞きしたいんですけれど」
「あーそのーひーとは、このーしーまーにはいないーんだ」
「そうなんですか?」
「いーまーは、ほんーとですーね」
パソコンのキーボードをかちゃかちゃ鳴らす。その慣れた手つきで、私たちが探している人の住所を映し出してくれた。
「ありがとうございます」
「あー、でもーきょうーのぶーんのふーねは、もうーおわっちゃーったーよ」
「え、ということは?」
「こーこーに、泊っていきなよ!」
どや顔が格好良かった女性です。
「じゃあ、お願いします」
まさか、この島に留まるとは思っていなかったので、しかも泊るとも思っていなかったので、
日用品を持っていませんでした。
「じゃあー、かーしーてーあげる!!」
めちゃめちゃ優しいお姉さんです。
「わーたしーは、棘市塘恵です!」
よろしくね!
宜しくです。
よろしく!
Zzz…




