くらっどファーストラブ 後悔の水。
道中も、私たちと目を合わせることはしませんでした。
というか、目を開けていませんでした。感覚だけで私たちのことを理解したというのは、確かに神怪の能力っぽいですけれど。
「ねえ、おじさん」
「なんだい、えーと、泉咲ちゃん?」
「そう!わたし、みさき!!どうして、おじさんはめをあけないの?」
あぶなくなーい?
そういった、もしかするとその人にとって最もデリケートな部分かもしれないところにぐいぐい突っ込んでいく感じ、めちゃめちゃ怖いです。
「そうか、普通はそうだよな」
「すみません、妹が変な質問を」
「いや、そういうところに気づけるのは良いことだ。僕の目については、家でゆっくり話します。ほら、着きましたよ」
今までに、家と言えば羽天さんの家が家として最も大きいなあと思っていたけど、これはもう家とかの範疇ではなく、言ってしまえばうちの島の砦みたいな大きさでした。
何階建てなのかという問いは、見当をつけるのにも検討が必要そうな、難解な問いです。
「おおきい!!」
「でっかーい!」
「そうかい。じゃあ、上がって」
「お、お邪魔しまーす」
「お邪魔しまーす!!」
こんなに大きな家に入ったことは多分初めてなので、ものすごく興奮している妹たちが、走り出してしまいました。
「あ、こら!!」
「大丈夫ですよ。うちには上の階に図書館もありますし、警備の人もいますから」
「そ、そうですか」
「ここは、正確には私の家であって、私を入れる檻ですから。色々整っているんですよ」
「…そうなんですか」
檻という少し冷たい言葉に反応してしまいました。
どうやら、彼はここの島にもあまり受け入れられていない、菊梨さんのような扱いを受けているようで、ともすれば、ここからどう島長とつながりを持つのか、また一から考えなければならないのです。
「そこに座ってください」
指差されたところには、リビングの部屋にふさわしい、むしろこれの為にリビングを作ったのではと言われても納得できるほどのソファが、佇んでいた。
「し、しつれいしまーす」
「私の目はね」
い、いきなりだった。
「自分で、潰したんだよ」
「…え?」
「まだ、人間だったころね。私は、私なりに良い人生を歩んでいたと思うんだよ。
普通に育って、普通に学校行って、普通に就職して。人生を共にしたい人に出会った」
彼は、窓のところまで歩き、カーテンを少し開け、まぶしい太陽を見上げた。
「それは、すごくいいじゃないですか」
「しかし、そのころから徐々に、自分で言うのもあれですけれど、好かれるようになったんです。それもまあ、いろんな人に」
視線を落とす彼は、なんだか寂しそうで、後悔が混じっているようでした。
「まあ、そこまでイケメンだと、色恋沙汰は大変そうですよね」
「ある日、私が彼女の家に行こうとしたとき、見てしまったのです。彼女が、ステータス目当てで私と付き合っていたこと、他の人と奪い合っていたこと、私の心はズタズタにされました。こんなこと、きっと良くあることなのでしょうけれども、初恋だった私にとって、辛くてたまらなかった」
そんな現実は、見たくなかった。
そんな現実は、有ってほしくなかった。
そんな現実に、出逢いたくはなかった。
そんな現実が見えるなら、こんな目は、要らない。
「それで、私は、彼女を捨て、目を失った。申し訳ない、こんな与太話に付き合わせてしまって」
着いたため息には、忸怩たる思いが隠れているように感じた。寂しくて、後悔している。罪悪感にまで見舞われている。
「いえ…」
こんなイケメンさんにも辛いことがあったのかと思うと、少し心が痛みます。
「ねえ、まさかなんだけどさ、そのはつこいのひとってしまちょうのむすめさんだったりしない?」
「あ、あれ?泉咲ちゃん?」
いつも間にか帰ってきていました。
「いやあ、そこまでは。でも、住所ならここに」
そういうと、年賀状を見せてもらいました。
ふーん。確かに、判別はできないですね。
「じゃあ、探しに行きましょうか」
「え、どうして?」
「先ほどの話を聞いていたら、話し方というか、凄く懺悔のように感じたので。なんというか、申し訳ないみたいな、後悔みたいなものが、入っていたような気がしたので」
「そ、そんなことまで分かるのかい?」
「神様ですから」
「その笑顔には、敵わないな」
「よし、行きましょうか。まずは、この住所のところへ!」
「はい!」




