くらっどファーストラブ 畏怖の水。
話を聞くに、この島の長であるクラッド・ヴィーチェさんは、背が高いそうです。
190㎝は優に超えるそうで、平均的な身長をお持ちのやぶさかさんと比べてしまうと、まるで大人と子供の関係になってしまうのだとか。
その身長で、筋肉はある程度ついているそう、かといってスポーツ選手のようなムキムキな感じではないらしいですけどね。
ただ、そのいわゆる細マッチョというのが、少し気になるところではあります。
じゅるり。
しかし、今日はそういった私情を挟むわけにはいきません。なにせ、妹たちがいるわけですし。しかも、この方は人を愛せないと言うではありませんか。
それは、何というか、冷淡で、冷酷で、淡白で。あんまりいい感じはしませんけれど、もしかすると、そのかっこよさゆえの悩みでもあるのかもしれません。
私からすれば、そんな悩みは考えなくてもいいような愚問だと思うのですが。むしろ、自慢にさえ聞こえてしまいます。正直羨ましいです。
これは、多分私よりやぶさかくんの方が思っているかもしれないですけど、彼は彼でモテているというか、女性陣に人気というか、そういうところがあるので、何とも言えません。
あーあ、羨ましいなあ。
あ、いやいや、違いますよ!べ、別に神那ちゃんに対するものではありませんからね!ほ、本当ですから!
「さっきからなにいってるの?」
「え、ああ、うん。気にしないで」
「それでさ、おしごとってなんなの⁈」
「今日はね、会議っていうお仕事だよ」
「かいぎ?何かうたがってるの?だめだよ!おともだちのゆうことはしんじるんだよ!!」
「うーん、それは懐疑であって会議じゃないなあ。まあ、あながち間違いではないんだけど」
「じゃあ、かいぎ?うみいくの⁈ふねのひとになるの⁈」
「確かに今から行くところは漁業で有名だけど、海技じゃなくて会議。もう、どうしてそんな言葉ばかり覚えているの?」
「こどもだからね」
「はあ」
相も変わらず、一番下の奈波は私の背中で眠っています。あまりにも気持ちよさそうに眠るので、私も眠くなります。
「ねえー!まだ歩くの?」
「あと少しねぇ。じゃあ、しりとりでもしようか」
「うん!やる!」
「じゃあ、しりとりの『り』から」
「リストラ!」
「怖いよ。どこで覚えたの…」
「『ら』だよ!!」
「『ら』ね、ラジオ!」
「おーとまちっく!」
「え、いきなり自動⁈もしかして、私の教科書とか読んでるの⁈」
「じどうだからね」
「もしかして、わざとそういうフリしてるでしょ」
まさか、自分の妹がこんなに頭が良かっただなんて。確かに、羽天さんとはたびたび遊んでるし、神那ちゃんもいるから勉強できる環境ではあるのだろうけど…
「ええと、クリスマス!」
「すろべにあ!」
この子、恐るべし。
まさか、国まで覚え始めているとは…
「油!」
「らいせんす!」
「スリランカ!」
「かりふぉるにあ!」
「塩梅!」
「いみしんちょう!」
…四字熟語って、もはや私も知らないよ。
「うり!」
「りんぱ!」
「パソコン!あ!」
「『ん』ついた!おねえちゃんのまけ~!」
「まさか、自分の妹に負けるとは…」
「いえーい!」
「はあ。うん?」
「どうしたの?」
ふと前を見ると、ふ頭の先で釣りをしている男の人を見つけました。
真っ黒な髪の毛に、タキシード。そこから延びる腕は、竹のように細く、釣竿を持つ指先は、握ればすぐに崩れてしまうと危惧してしまうほどにか細い。
「もしかして」
「このひと?」
「分かんないけど…」
恐る恐る近づく。近づいても私たちに気づく気配はないので、一番近くまで近づき、ゆっくりと深呼吸をして声をかける。
「あ、あの」
「大丈夫。分かっているよ。君たちが多分、あの島の神様水神三波さんと、その妹の泉咲さん、奈波さんだろう」
「え、ああ、はい。そうです」
「こんにちは、私がクラッド・ヴィーチェです。釣りをしているので、もう少しお待ちいただけますか」
「わ、分かりました」
この人は、最初から最後まで私たちと目を合わせなかったのです。
しかも慣れた口調で、私たちに何も言わせず、先ほどの作業に戻りました。
まるで、「はいはい分かったから、ちょっと待ってて」と言われているようで、少し憤りというか、イラっとはしましたが、何よりもそのオーラとでも言いましょうか、関わると危険と感じるような空気が、怖かったです。
その空気は妹たちにも伝わったようで、奈波は背中にしがみつき、泉咲は、私の足にくっつきました。
妹と言えども、痛いです。この子たち、私よりも握力高いんじゃないでしょうか。
「ああ、怖がらなくて大丈夫ですよ。ほら、あそこの鯛でも食べてください」
「あ、ありがとうございます」
指差された鯛を頂くと、凄く脂がのっていて美味しかったです。
どうやら、他意はなさそうです。
「よし、今日はここまでにしよう。じゃあ、私の家までご案内しましょう」
「あ、ありがとうございます。行くよ?」
「え、ああ、うん」
「だから、あのちょっと離れて」
「はーい」
「そんなに怖いかな?」
「そんなことは…すみません」
「いや、こちらこそ申し訳ないです。さあ、行きましょう」
「はい」
どうやら、悪い人ではないようです。




