いばらピュアレスト Glowing Devil
イヴァラ・マルティントは、ある特定の年齢しか愛せない。
私、つまるところ燈火ヘスティア炎香のような、悪魔でさえある特定の人を愛しているというのに、この人はそういったことはしない。
独占をしないし、限定しない。
そういう点においての、この人の博愛主義っぷりは、他の誰にも足元にも及ばない強すぎる信念によって完全に支配されている。
この人の状況に、私は諦念するしかない。観念することを思い出して、肩の力を抜いて、膝から崩れ落ちるようにするしかない。
「…まじっすか。イヴァラさん」
「残念ですが、そう産まれてしまったもので」
純粋な子が好きで、まっすぐな子が好きで、小さい子が好きなこの人は、島の長をしている。この島での頂点も兼任しているもんな。忙しそうだけど、意外とそうでもないらしい。
「この島って子だくさんですからね。申し訳ないですけど、私にとってはすごくぴったりです。なんというか、この島に僕ありと言った感じですかね。あ、でも大丈夫です。その辺の管理はしっかりしていますし、管制塔を陥穽なく完成させて、コントロールしていますから」
「まあ、あなたならそれくらいうまくやれそうですもん」
博愛主義であるこの人は、同時に色々な人と関わることが多いだろうから、皆を公平に平等に同等に扱うことに慣れているだろう。
「そう言ってもらえると、嬉しいです」
「褒めてませんけどね」
「誉れ高きことでは…なさそうですかね」
「あんまり、良いとは思えないね」
「みんなにとっては、これは多分間違っていることなんだろうし、下手すれば、法律にも引っかかるのかもしれない。でもね、僕は小豆そのものが大好きなんだ」
「加工した方が美味しいよ?」
「仮装されても嫌なんだよね。自分を隠してしまったら、意味がない。ましてや仮想の自分を作り上げてしまったら、元も子もない」
「なるほど…葛藤の末に、皆頑張ってるんだけどなあ」
「ごめんね。僕は、そういう人間…じゃなくて、そういう神怪なんだ」
「なるほど、それはもう受け入れるしかないなあ」
「それで、今日の案件ってなんだっけ?」
「いやあの、子供をあやしながら言われたら、この課題をあまり言い出せないだけど…」
「うん、大丈夫。この子はもう寝ちゃったし」
「じゃあ、話しますね?あなたって、島の長もやっているよね?」
「そうだよ。貿易も協力関係も、本都とのやり取りも、教育も全部、僕が担当しているからね」
「あの…それで、困ったこととかある?」
「特には…。でも、農業に関わる税金が凄い多いかなって思うんだ。特に最近」
「本都では、未成年と関係を持つというのは、犯罪的な行為だし、なにより社会的な死を招くね」
「農業が、特に小豆がしっかりと売れないとこの島も崩壊しかねない脆性を持っているね」
「苛政は虎よりも猛。そういった偏った政治は、寅よりも丑よりも怖い存在になっちゃうよ。傾国の美女みたいな」
「小さい子なら、傾国でも、滅国でも、崩国でも構いませんけどね」
「その発言、報告ものだし、警告もんです」
「それは失礼」
「じゃあさ、私たちと独立しませんか?私たちなら、というか私ならいくらでも小豆を買います!!」
「うーん。お話は嬉しいんだけど…」
「駄目かな?」
「面目ない」
「そっか。じゃあ、どうすれば聞いてくれるかな…?」
「今独立するリスクの方が高いというか、別に今じゃなくてもいいと思うんだ」
「駄目かあ」
確率的にも低いと思われた私の、正面突破作戦は、見事撃沈という形で終わった。
これで、私には役立たずの地位が確立されてしまった。
だって、羽天さんみたいにうまくはできないし、三波ちゃんみたいに真面目なわけじゃないし。
そうだよなあ、うまくいくわけないよな。
「じゃあ、お土産に羊羹もらえないかな」
「君の見た目に素直に惚れたのは事実さ。まさか、270歳だとは。羊羹だけじゃなくて、饅頭も最中もアンパンも持って行っていいよ…って、饅頭選んでいる最中でしたか」
さすがに、図々しかったかな?
「いやいや、いいよ。それにしても君は可愛い。ねえ、君って悪魔なんだよね?」
「え、ああはいそうですけど」
「悪魔的に攻めてもいいんじゃなかったの?僕が言うことでもないですけど」
「…私はそう言うの苦手で」
「悪魔なのに」
「そうなんです。それで、結構苛められたんですよ?」
「それはそれは」
「少数派っていうのは、嫌われやすいですからね。目につくし、鼻につきます」
「君の体は刺激臭がするのかい?」
「そういうことじゃなくて」
「大丈夫、わかってるよ」
「この島も、こういう構成なわけじゃないですか?」
「子どもが9割の島って言うのも珍しいかな?」
「相当ね。たぶん、もしかすると税金が引きあがったのって」
「それが原因?まさか」
「意外と本都って昔の、なんていうんですか、帝国みたいな独裁まではいかないまでもそういう感じじゃないですか?」
「まあ、確かに」
「それよりは、うちと手を組みませんか?他の大国はもうすでにそういう差別的風潮をやめようとしています。帝国主義、社会主義、資本主義、重商主義。色々やってきましたけど、今の風潮は無差別主義ですから」
「へえ、それは知らなかったな」
「それを本都は伝えようとしないからね」
「そうなのか?それなら、よっぽど苛政だな。丑寅の方角にはいないけど。ここから独立するのは、至難の業じゃないか?指南書があるわけでもないですよね」
「まあ、実はうちにはスペシャリストがそろってますから。私以外に」
「なんだ、君もさすがに悪魔だったね。まあ、小悪魔の方が近いのかな?分かった、検討してみるよ」
「ありがとう。まさか、こんなに早くかたが付くとは」
「人と関わるときに大切なのは、きちんと話を聞くこと。ある程度、相手の要望を受け入れることだからね。今度は、僕の要望も聞いてください」
「いいよ」
「じゃあ、今度デートしよう」
…え?まじっすか?




