すずかぜミスチーフ 結
不思議と早く着いた。そこには、高笑いする少女がいた。
金髪で、純白で、奇跡的。
こちらが気付いた時には、もうすでに彼女は気付いていた。
「ねえ、聞いた?私の功績!すごくない?いやー本当はさあ、咲姫さんにも手伝ってもらおうかなって思ったんだけど、なんか手伝ってくれそうになかったから。まあ、逆に?これが、私の実力ってことが証明されたんだけどね。」
彼女の目は、凄くまっすぐで、これが悪いこととは全く思っておらず。
きっと、褒められたかったのだろう。今までやってきた功績はすべて、褒められるというより恐れられるという方が多いのだから。彼女の人生そのものが、都市伝説じみているのだ。今では存在自体が都市伝説になっているわけだが、それでも彼女はいつまでも子供で、親がいないとどこまでも成長しないガキなのだ。
天才と呼ばれ、天災を起こし、神怪となった少女。
彼女もまた、一人の少女なのだ。
「なあ、ちょっと聞いてくれるか?」
「ん?どした?もしかして、弟子入りとか?でもどうかなあ、私って弟子採らない主義じゃん?」
いや知らないけども。
「お前がやったことは、確かにすごいと思う。すごくド派手にやらかしたと見せかけて、実は繊細に作られている。島長も、芸術だと言っていたよ。その能力自体は本当にすごいと思う。きっと両親が見ていれば褒めていただろう。うちの子すごいでしょって自慢してくるだろう。」
「本当に?そうかなあ。じゃあ、やってよかった。」
「でもな、それはあくまでも神怪の中でのみの話だ。人間界的には害しかない。」
「別にいいよ、あいつらなんか。自分達だって、まじめにやっていればこれぐらいできたのに、自分たちはサボって人にやらせて。少しでもやりすぎると、一気に人扱いしなくて。最終的には、魔女裁判なんかしやがって。」
「じゃあ、どうして一軒だけ被害を与えなかった?そして、重症者を出さなかった?」
実は、さっき見ていた地図には、一軒だけ被害状況が書かれていなかった。
それが天羽家。彼女の妹が住んでいる家だ。実の妹かどうかは定かではないが、彼女が神怪になった時期と同じ時期にこの家から長女がいなくなっている。名前の相似性から証明もできるだろう。
さらに、彼女は死亡者を出さなかった。ちなみに、彼女の親たちがやった所業は、死者20人以上だ。にもかからわず、死者を出させなかったのは人間界にも理解を得てほしいと思ったのだろう。ただ単純に復讐がしたいわけじゃないんだよ、と。
「まあ、妹はもう私のことなんか忘れてるんだけどさ。だからと言って、もう迷惑なんてかけられないじゃん?天羽楓には、天羽楓の人生を歩んでほしいんだよ。あと、死者を出さなかったのは君に怒られないようにするためだったんだけどね。その雰囲気じゃ、怒ってるな。ぷんぷんだな。」
「まあ、肯定するわけにはいかねえよな。死なないとはいえ、不快な気分だ。それに、俺との大切な約束も破りやがって。」
「…約束?」
「島民には、迷惑をかけないって。」
「ああ、それに関しては申し訳なく思ってますよ。でもさ、こうでもしなきゃ構ってくれないじゃん。」
もしかすると、今日の総回診が象徴的だったように、こいつに関してやはり距離があったのかもしれない。彼女が天才で、俺が凡才だということから逃げていたのかもしれない。
「それは、その、何というか。ごめんな。」
「いやいや、こっちの方が悪いのは十分わかってるから。本当にごめんなさい。」
その姿勢に、心底驚いた。
まさか、彼女が頭を下げるなんて。人間時代はこうやって、しっかりとお姉ちゃんをしていたのだろうか。
「まあ、この病気を解除してくれれば、罰は軽くしてやる。」
「…いいんですか?」
「しょうがない。子供ってのは迷惑をかけるものだ。褒められたものじゃないし、偉いとも言えないけど、それは俺にミスとも言っていいだろう。ほんと悪かったな、もっとお前の気持ち考えればよかったな。だから、ちゃんと事後処理はしとけ。」
「…あ、ありがとうございます。本当に、ご、ごめんなさいい!」
座っていた縁側から飛び出し、俺の方へ突っ込んできた。その表情を見る限り、少なからず、罪悪感はあったようだ。悪いと思っていたけど、気を引くために悪戯をする女の子が、ここにはいた。その姿は、まさに子供で、それでもお姉ちゃんではあったのだ。しっかりしなきゃいけないと、毎日のように気を遣い、甘えられなかったのだろう。それでも、彼女の中では妹は大切な存在なわけで、だからこそ迷惑はかけなかった。
天羽家の位置は、星でいうところの大熊座τ星。大熊的には、首の位置だった。