いちげオーバーターン 潔い笑顔
初日は恙なく終えたとか言うと、結構時間をかけるのか、具体的に提起すると2,3か月くらいか、と言われそうだけど、私は決してそんなに時間をかけない。
私を誰だと思っているんだ。かの有名な武将も言っているだろう。疾きこと風邪の如しって。
あれ、それじゃ季節外れな奴みたいになっちゃう。
そうじゃなくて、風の如し。
疾風のような速さで、迅雷のような勢いで、私は仕事を終える。
具体的に言えば、今日で終わらせる。
そういう宣言をすると、夏休みの小学生みたいだけれど、意外と私は有言実行なのだ。やるときはやるし、やらない時はとことんやらない。
…もしかして、こういうところで嫌われてるのかな?
とりあえず私は、頂点に先を越されぬよう、先の先を読んで行動する。
そうだな…出会いのタイミングで見つけてしまえば、確実に早く仕事が終わるな。よし、じゃあ委員長についていこう。
あの感じじゃあ、まだ出会ってはいないみたいだし、偶然にも今日出会えるかもしれない。そんな期待を胸に、一夏君と旱ちゃんの後ろをしっかりとつける。
まあ、そんな単純なことはしないけどね。尾行なんて地味で神経使うことはしたくはないから、能力をフルに活用する。
要は、飛ぶんですよ。私、こう見えて羽がありますから。跳ねることなく人を撥ねることなく、ましてや首を刎ねなくとも、私には常備されていますからね。
「それにしても、本当にオネエさんだったとは」
見た目からは想像できないという意味では同じなのだが、男らしい風貌だから驚いたという方向ではなく、逆に女性すぎて男に見えなかったという意味で見た目からは想像だにできなかった。
滞空時間はそんなにないので、木に止まらなければならない。
「こんなことならちゃんと鍛えとくんだった」
木の上から見える景色は、憮然とした雲を除けば、存外悪い島には見えなかった。人の賑わいは街の明るさを表し、張り巡らされた道路や線路は、この島の近代さを物語っていた。こんなに景気よさそうなら、これは手ごわそうだなあ。
だって、結局はこの島も本都にお世話になっているわけで、この上下関係を転覆しようものなら、この景気は失われかねない。
「うーん。島のことは後にするとして、まずは神怪の統一を図らなければ。ここで一つになれば、どうっていうわけでもないだろうけど」
「なんだよこの答えのない堂々巡り」
「ドードー鳥もこうやって絶滅したのかな」
独り言が悲しく寂しく響き渡る。
相も変わらずあの二人は他愛のない会話で盛り上がっている。
「あれ、あれれ?もしや」
その二人を前にして、明らかに人間じゃない趣の生物がこの二人をじっくりと眺めている。正確を期するなら、その眼は完全にトロンとしていて、口からはよだれが零れ落ちそうである。性格がわかりやすすぎて、むしろ反応に困る。
「あれが、あのエラニア・マギアだな」
そうと決まれば話は簡単。幸いにもこの島の長の息子が被害者になりかけているわけだし、そして頂点と今対峙している。これ以上ないチャンスが初日に起きてしまった。よし、行くしかない。
「いいねぇ!ああ、そうだ俺様の名前はエラニアね」
「ちょっと」
肩をやや強引に引っ張り、会話に割り込むようにして挨拶したのにはちゃんとれっきとした理由がある。枚挙にというか、列挙にいとまがなくなっちゃうから、全部は言わないけれど、こいつの目は、狩りをする目では全くなかった。
私の目に狂いがないはずだけど、でも、こいつは頂点にしては少し、いやものすごく不戦主義に見えた。それが、気に食わなかったというのもあって、少し嫌がらせをすれば、少しは好戦的な目、つまりは頂点らしい目で見てくれるかと思ったのだが、結局最後までその眼を見ることはなかった。
だいたい、神怪というのは人間に追いやられた人間で、何かしらの憎しみや妬み、嫉み恨みは持っていてもおかしくはないのに、彼女からはそんな感情を感じられなかった。相手をうろたえさせるための戦法が、むしろ私を動揺させた。
あれ、なんで?
「そのお茶会、私も入れて。ねえ、頂点さん」
めっちゃ興味出てきた。
本当は戦闘も加味して行動していたけれど、多分こいつはそんなことはしない。会話をすれば確実に仲良くなれる。
それは、人間時代の三波を見ているようだった。
彼女は、誰とでも仲良くなれるわけじゃなくて、仲が悪くなる方法を知らないと言った感じだった。
「どうして、分かったんだい?」
彼女の笑顔は、一点の曇りなく、寸分狂わず確実に、清々しい笑顔だった。
この中に、別の感情は一切感じられなかった。
その後の会話にも、全くを以て他意が見られず、翻弄されるばかりだった。
「じゃ、じゃあ行きましょうか」
委員長の台詞で我に返り、3人でカフェに向かった。
「じゃあ、俺様はアイスコーヒー」
「私は、紅茶で」
「じゃあ、私も」
好奇心旺盛なワンちゃんのように、そこに重ねて委員長は注文した。
「コーヒー、飲めないんだよね」
「へえ、かわいいじゃんそういうとこ」
「か、からかわないでください」
…なにこれ、ナンパ?
「普段は、何してるの?」
「お家がお家なので、習い事ばかりです。今日はたまたま何もなくて」
「そうなんだぁ」
「ちなみに、委員長のお家って?」
「…お恥ずかしい話、父が島長をしております」
まあ、知っていたけどね。
エラニアを見ると、彼女もまた知ってるけどねって言う顔をしていた。
しかし、私とは違って、したり顔ではなく優しい笑顔だった。
「…ちなみに、君のことに関して、お父さんは知っているのかな?」
何の臆面もなく、もろにドストレートに核心を突くような質問を投げるエラニアは、もしかすると天然なのかと疑問符を浮かべざるを得なかった。
「…いえ。これを知ったら、きっと怒られるだけじゃ済まないかもしれません」
「それはそれは、ここの島長も廃れたもんね」
…あ、やべ、言っちゃった。つい、思ったことを口走ってしまう悪い癖が、ここにきて出てしまったのは、一生の不覚である。
「おー、これは良いこと言うね、羽天ちゃん」
「…どういうことですか?」
「どういうことも何も」
ええい、こうなったら仕方ない。全部言ってしまえ。
「少数派が追い出されてできた島なんだから、そういう人がいてもおかしくないんだし、ましてや島長なんだから、寛容さを見せないと」
…あれー?無言ですか…
エラニアの方を見て助けを乞うも、彼女はずっと飲んでるコーヒーを見ていた。
…あれー?無視ですかい。




