いちげオーバーターン 渾沌なる性
見事なまでに、いつもとは違う今日という日は、ものすごく新鮮でとても楽しい。旱ちゃんも、そう思っているようで、今日の帰り道はその話で持ちきりだった。
「じゃあ、うちは帰るわ」
「うん。じゃあね」
「おう!げろげーろ!」
「それは蛙だよ!」
「もう蛞九時じゃないか!」
「時計見て堂々と嘘を吐くな!!何よ、ナメクジって」
「あれ、蛇足だった?」
「うまくない!!」
「ごめんごめん、じゃあ、また明日。足元竦まれないよう気をつけなよ?」
「何それ⁈」
こんな他愛のない会話も、やーちゃんとだからこそできる。
春が過ぎ、夏が閉まれば、秋も暮れ、冬が終わればまた春の訪れ。
選挙カーの音ズレが気になる今日は、太陽の暖かさが優しく私を包み込み、心地よい気持ちが快いリズムで私の心を弾ませる。
何気ない日常が、優しく感じられる、そんな日だ。
風が花粉を舞わせ、街行く人の鼻や目を困らせるのも、春の悪戯と思えば、やはりそこまで怒る気持ちにもならない。
当事者は知らないけれど。
「やあ、こんにちは。君は、確か知立さんちの息子さんだったよね」
そんな春の日に浸っているときに、異常は突如現れる。
見た目通りなら、男の人だ。手足がすらっとしていて、少し長めの黒髪がなびくと、そのきれいな曲線に心惹かれる。このまま、横断歩道を渡れば轢かれかねない。
その指を見れば、もしかするとピアノが弾けるかもしれない。これは結局経験則なんだけど、指の形を見れば、ピアノやっていたかどうかわかるんだ。
「ええ、そうですけれど」
「よし!やっと、みつけたぁ。ねえねえ、少しばかりお話ししない⁈」
「え、いや、ええ?」
その勢いは、先ほどの雰囲気を粉砕し、粉々にした。
あ、あれれ?なんか、めっちゃかっこいいとか思ったのに。
何だろう、めっちゃ女の子みたいだなぁ。
「そんなに遅くまでは…それでもいいなら」
「いいよ!オーケーだよ!」
「じゃあ、あそこのカフェにでも」
「いいねぇ!ああ、そうだ俺様の名前はエラニアね」
「ちょっと」
「うん?」
エラニアさんの肩を強くつかみ、後ろへ引っ張ったのは、知り合いだった。
と言っても、知ったのはつい今日のことだけどね。
「そのお茶会、私も入れて。ねえ、頂点さん」
「え、うん?どういう」
「どうして、分かったんだい?」
なんか、よく分からないけど、学校で見た羽天さんとは全く異なる形相で、彼?を見つめる。
「まあ、それはおいおい。話を聞きたいんだ。君が頂点になった経緯を」
「あの、私を置いていかないでください」
「ああ、ごめんごめん。大丈夫、後でちゃんと話すから」
「そ、そうですか」
「まあ、でもそれだけじゃ可哀想だから、一つだけ」
「私、涼風羽天と、彼女、エラニア・マギアは人間じゃない。神怪なんだ」
…。あっけにとられるとも違うし、呆然とするわけでもない。呆然自失とも少し違う。自失というか言失という漢字の方が正確だろう。
そんな事が脳内をぐるぐる回っている。人間、意味の分からないことが起きると、その現象を少しでも理解しようとして、言葉や行動が後回しになるようだ。
…マジで?
この疑問は、主に二つ。
まずは、男ではなく女であること。
もう一つは、人間じゃなく神怪であること。
神怪なんてフレーズ、少ししか聞いたことがないし。確か、お父さんの本棚にあったような気がする。何だっけな、北方神怪図鑑だっけ?
「俺様は、体は女、心は男ってやつさ」
「まさに、少数派だよね」
「オネエは見かけるけど、オニイはなかなかね」
「…そ、そういうことか」
「まあ、事実として知ってくれればいいよ。じゃあ、カフェに行こう!」
「Let`s Go!」
羽天さんに、学校での笑顔が戻り、エラニアさんの発音はきれいだった。
そんな感想しか言えないくらいに、頭が働かない。
おっと、私の逆ヴァージョンか…。自分でもこれ、周りの人から見れば面倒だろうなあと思ってるくらいだからなぁ。
「ということは、今の状況は。神怪が二人と人間が一人、少数派が二人と?」
「私は、そこに関しては普通だな。つまんなくてごめん」
いえいえ、そういうところに面白さを求めてないので。
「…なんか、めちゃくちゃカオスな状況ですね」
このメンバーで来られたカフェの店員さんは、さぞかしめんどくせえと思うでしょうね。




