くくりフルコース 大和撫子の大革命
「まあ、分からなくても仕方がないのでは?記憶の中では今のような姿ではないわけですし」
「優しいなあ、山菱は」
「…そうなんですか」
「分かってくれたのかしら?」
「納得はできていないですけど、まあそうなんだとするしかないですし。しかし、だったらなおさら、先生なら、こんな生贄なんてことしちゃいけないことだと思いませんか⁈」
「私の好き勝手でやっていると思っているなら、そこにある拳銃でどうぞ、撃ち抜きなさい」
いつ用意されたのか分からない拳銃が、彼女の指差す先にはあった。
「…どういうことですか?」
「だーかーら、さっきも言ったけど、お仕事なんだってば。大丈夫、この子たちは別の島でまた暮らしているから」
「…はあ?」
「柚希さんは、たまたま留学生が見つけてしまったのであのような大ごとになったわけですが、基本ここで生贄になったものは、隣の島で余生を過ごしています」
「え、そうなの?」
「これは、島長だけが代々伝えられるトップシークレットなのですけれど」
「そうだったんだ…」
聞いてみれば、そういった配慮は為されているようで、少しばかりの安堵を感じてはいたが、それでもやはり、人が死んでいるという事実に変わりはなく、それが許されるべき案件ではないというのは、きっとここにいる皆が思っていることだろう。
「じゃあ、人口をコントロールしているということでいいんですよね?」
「まあ、そういうことになります」
「じゃあ、この島の子供ではないってことですよね?」
「おお、ついに薮坂も閃いたか?」
なぜこんなことを言ったのかというと、それはこの出来事に矛盾を感じたからだ。
未婚率が多いにもかかわらず、子供を食らうという矛盾。
「未婚って言う言葉もあまり合わないよな」
「そうですわ。結婚をしたくないという人は非婚というべきですわ」
「そう、だから、この島の神隠しは、別の島の子だけを食べているんですよね?」
「あれあれ、なんかいきなり頭が良くなってない?」
この矛盾を、矛盾させないためには、もう一つこの島とは全く逆の状況を生んでいる、あるいは産んでいる島の存在が不可欠なのだ。そうでなくては、バランスが保てなくなり、次第にはこの島が消滅してしまう。
「子だくさんな島が、近くにあるということですよね」
「よくここまでたどり着きましたね」
「ちょっと、先生。頭は撫でないでください」
不覚にも、少しばかりキュンとしてしまったが、このキュンは、決して色恋沙汰ではなく、命の危険を案じての生理現象だったことは、言わないでおこう。
「本都で勉強していることは、都会で生きる方法です。そして、都会にするための方法です」
「つまり、田舎の風習なんかは教わらねえ、むしろ迫害する案件ってことよ」
「そんな、でも」
後ろを振り向いて、呟くように茉釣さんは言った。
「そうでしょ、実際。聞いたこともないでしょ。あんまり田舎島をなめんじゃないよ?こんな島がいっぱいある。子どもしかいない島、高齢者しかいない島、女性だけで成り立っている島、男だけで何とかしている島とね」
仕方ないんだ、こういうことは。
寂しそうな背中に、何も言えなかった。
本都では知ることのなかったことが多すぎて、許容オーバーであるのと同時に、少しずつ疑問が生まれた。生まれた疑問は、広く大きくなり、心を飛び出し脳を巻き込んで、口から吐き出されそうになった。そこでふと、思い出すことがあった。
ああ、そうだ。こんな言葉があったんだった。
『西島に行くものは、商人か貴人。
北島に行くものは、罪人か変人。』
俺らの島は、本都にとっての変人の島流しに使われていたわけだ。
「この言葉からもわかるように、私たちの島は卑しく思われているのです」
「つまり、」
私たちの問題は、私たちで解決しなくてはならない。そこに本都が関わることはなく、むしろ自滅の道へ歩かせようとする。田舎町には何もできないというのが、本都のやり方なんだよ。
煙草を右のポケットからすっと出し、胸に挟まれたライターで火をつける茉釣さん。
悲壮感を吐いた煙に乗せ、彼女は雪の降った後の白い雲をじっと眺めた。
「私たちでも、無理だったんだよな」
「もしかして、神那ちゃんや羽天、三波ちゃんが住民を嫌っているのって、」
「魔女裁判も含まれますが、大半は本都からの回し者だからですね」
「なんだか、本都という町が分からなくなりましたわ」
「…だからと言って、独立もできねえ。ここの貿易はすべて、本都に委ねられているからな」
「…いや、待ってください。独立なら、できるんじゃないんですか?」
「ええ、私もそれを考えていたのです」
「はあ?どうやるっつうんだよ」
「北部の島をみんな巻き込んで、独立を果たそうではないですか」
「もちろん、そこには神怪の力も使ってね」
「はい」
「えっと、ん?少し話が見えないんですけど…?」
「さきほど、結婚するしないとか、愛がどうたらこうたらって言ってましたよね?」
「え、ああ、うん」
「だったら、それを使って独立するんですよ。俺たちの神怪は、とんでもない性癖ばかりじゃないですか?」
「おっと…?」
「ここの島は、女性大好きな女性。前回の神怪は男の子大好きな女性。
子だくさんの島は、人を愛せない元人間。その他、皆には受け入れられないような性癖の持ち主です。
私は、その辺を含め、興味があります」
「こりゃ、一本取られたな。まさか、神怪と恐れられた理由が、そういうことだったとはね」
「少数派として嫌がられるなら、そんな社会には入らなければいいのです。自らが生きやすい世界を、自分たちで作ればいいのです」
「私も、同感ですわ」
「やりませんか、茉釣さん?」
「なんだよ、今日は冴え渡りすぎじゃないのか?明日は槍が降ってきそうだな」
「そんなにですか…」
こうして俺たちは、新たな目標を掲げた。
とりあえず、山菱菊梨はこの作戦が終了するまで、お仕事はやめてくれるそうだ。




