くくりヴァーテックス 梨華という名のダイアモンド・リリー
「せ、先生?まだもう一コマ残って…ああ、行っちゃった」
高津先生の言葉を無下にして、―いえ無下にしたつもりはありませんが―私は校舎を出ます。幸い、すぐにバスが来たのでそれに乗り、無心で港に向かいますわ。
「ふう」
少し一息をついて、残りのコーヒーを飲みほした後、見える景色を脳裏に焼き付けながら、これからの情景に思いをはせることで、潔くこの町に別れを告げることができます。
死ぬということに、恐怖がないわけではありません。でも、だからと言って失敗するとも思えないのも事実です。あの、頂点さんは礼儀こそないものの、実力は十分に思えます。
まあ、神怪の実力とかってどういう尺度で測っているのかさっぱり分からないですが、なんというか、この人は仕事ができる人だというのが心にビンビン伝わってきますわ。
いわゆる、こいつただもんじゃあねえ、みたいなものですわ。
高ぶる気持ちを抑えつつ、涙をこらえていたら、港に到着していたのでした。
「お客さん?降りませんか?」
「ああ、すみません。降ります」
最後の最後まで、礼儀正しく当たり前に法律順守でお金を払います。
考えてみると、私にとっては最後の日ではありますが、運転手さんは通常の日の一つでしかないのですね。誰かの始まりが、誰かの終りで、なんていうキリが良いことは実はそんなになく、誰かのありきたりな一日が、私にとっての特別な日ということも方が多いのですわ。
一言お礼を言って、スタスタ降りていきます。
まだ頭痛は治りませんし、息苦しさが私の首元を包みますが、とりあえず手足は相も変わらず元気なので、歩くことに関してはそこまでの辛さはありませんわ。
「おじさん、船出ますか?」
「ああ、いいよ。お嬢さん一人?」
「はい」
「じゃあ、先にお金」
「はい」
財布に手を伸ばしまたお金を支払います。
「まいど」
重そうな腰をゆっくりとあげて、よっこらせとつぶやきながら、おじさんは船に乗り込みエンジンをかけました。
「さ、お嬢さん載って」
「え、雑誌はちょっと」
「違うよ、え?どうして雑誌だと思ったの?船だよ、船」
「ああ、すみません」
という、知らない人に冗談を挟むということも、最後の日の醍醐味というものではありませんか?…あれ、違いますかね?
「まったく、お嬢さん元気だね」
「ありがとうございます」
ゆらりゆらりと揺られる小旅行みたいな気分でいた数分前の自分に後悔していますわ。
でも、この前よりもまさか雑な運転になるだなんて思いもしないじゃないですか。
履きそうになる私をよそに、おじさんは全速力でこの海を駆け抜けようとしています。
「あ、あのーもう少しゆっくりして頂けませんか?」
「あー悪い悪い。でも、そう言われても、もう着いちまったしよお」
「え?」
昨日よりも断然速く着いてしまったので、あっけにとられてしまいましたわ。
「じゃあ、降りて。お疲れさん」
「ああ、ありがとうございます」
言われるがままに降りると、一目散に帰って行ってしまいました。
…もしかして、嫌な予感がしたのでしょうか。確かに、この島に来る人はなかなかいないという雰囲気は、この島はともかく、その周辺地域からもムンムンとしますが、それとやはり因果関係があるのでしょうか?
とりあえず、ここで呼吸を整えます。いよいよ、決戦の時が来ました。行った先で何をするのか、何が起こるのか。死ぬということは、必然的に頂点さんに殺されるということでしょうし、となるとどうやって殺されてしまうのでしょうか?
毒を飲むのか、鋭利なもので刺されるのか、首を絞められるのか、銃で撃たれるのか。
恐怖は勿論ですが、それよりも少し興奮が勝ります。楽しみだなって思いますわ。
「よいしょ、よいしょ」
山を登って、ついに到着します。




