すずかぜミスチーフ 展
「え?今日、今日は…5月3日だよ。」
「…まさか。」
一人合点している神那ちゃんを見ると、この人本当に何歳なんだろうと疑問符を打ちたくなる。それにしても、日付かぁ。もしかして、誰かが誕生日なのか?あ、茉釣さんが誕生日なのかな。島長だしな、みんなで祝うのか。言祝いじゃうのかな。
「いえ、茉釣さんの誕生日ではありません。確か、秋の暮れごろですよ。」
「神那ちゃんでも、曖昧なことってあるんだな。」
「まあ、興味がありませんので。」
「…辛辣だな。」
「毎度その時期になると、愚痴りだすんです。年齢とか、健康とか、結婚とか。ネチネチと。そのくせして、花嫁修業とか全くしないあの生活を続けているんです。旦那さんが来るわけないのに。」
「そこまで。」
彼女の顔を見る限り、相当なものなんだろうなと予想がつく。
「そのことは、置いといて。島の人々を見てください。明らかに忙しいような顔ではありません。」
確認してみると、自分の間違いを認めなければならなかった。
それはもう火を見るよりも明らかだった。
おもしろいという単語は、面白いと漢字で書くがそういう顔の白さではなく。
顔面蒼白。血の気が引いている。
「少し、島の人に聞いてみるか。」
「いえ、医者の方に行きましょう。…羽天め。」
「…医者?羽天?あ、風邪か!まあでも、この時期に流行るとはな。羽天が原因ならそんなに被害はないだろう。」
約束したから、というと子供っぽいがそれよりも羽天が子どもなのだ。あの事件は、まあ人づてに聞いて新聞で読んだだけだけど、それでも大人二人でようやく成功させたはずだ。そんなことが一人でできるはずがない。
「まあ、とりあえず行きましょう。」
診療所に着くと、街の雰囲気とは一変して静かだった。
そして、少女が10人ほどベッドの上で横たわっていた。
医者の話を聞くと、神那ちゃんの仮説は概ね当たっていた。
「まさか、あの伝説的な疾病を、一人で。」
風説というか、巷説みたいないわゆる都市伝説に関して疎い俺は、今まで一人で活動していた神那ちゃんにとって足手まといなのだろう。一人で聞きに行ってしまった。
彼女が帰ってきたので話を聞いてみた。
彼女曰く、共通点は二つ。
熊の幻覚を見るということ。
天使を見たということだった。
情報共有の為、役場に移動する。
しかし、それにしても暑い。こういう時は、怪談話が背筋を凍らせていいと聞くが、如何せんそのものと仕事しているので真実味がなく、逆に冷めてしまうのだ。
そんなこんなで役場に着いた。役場は冷房がガンガンに効いていて、とても涼しかった。役場と言えど、普段人はおらず、俺らを含めても、あと1人しかいない。
「あ、ようやく帰ってきた!もう、ケータイの電源はちゃんとつけてくれないと!」
この人は、白金茉釣。この島の長であり、俺の直属の上司。先述の通り、がさつでさばさばした性格をしている。
「なんかあったんですか?」
「それが、大変なのよ。人間界で風邪が流行中よ。
熱に嘔吐、下痢、吐き気、それから幻覚。その幻覚と言うのが、最重要課題で、懸案事項なんだ。幸い重症者はいないのだが、全員に言えるのは少女であるということだ。」
少女。白無垢で、垢ぬけない。青二才で新緑のような心の少女。
「そして、その幻覚なんだが、熊に襲われるというのだ。自分より大きい熊に襲われるような感覚に襲われるのだとか。そして、みんなが口をそろえて言っていたのが、全員天使に会った後、その直後に症状が出ている。」
先ほど、診療所に行った時の証言と見事に合致した。
…熊?少し疑問に思い、顎に手を乗せる。しっかり考えようと、脳内を整理していたところ、神那ちゃんが口を開いた。その口の開き方は、思いついたというより、気付いてしまったという感じだった。
「バナト症候群。」
「…バナナ症候群?」
「馬鹿たれ!」
ま、まさか神那ちゃんから馬鹿たれなんて言葉が出てくるとは…
「ああ、きっとそうだろう。」
「すみません。バナト症候群って何ですか?」
「バナト症候群。通称大熊病。罹った者は熊の恐怖に一生涯付きまとわれるという疾病。基本的に花粉に乗ったウイルスが元凶となるのだが…」
「じゃあ、もしかして咲姫のせいか?」
「いえ、花粉に乗ってくるというだけでウイルスとは別物です。それに、そのウイルスはもうすでに死滅しているはずです。」
「そして、特徴がもう一つ。これが大熊病と呼ばれる2つ目の理由なのだが、全員に罹るわけではないということだ。」
「全員に…罹らない?」
以上、嬉し恥ずかし第四話『すずかぜミスチーフ 展』でした!
いきなりではあるのですが、星言葉ってご存知ですか?私は今回調べて初めて知ったんですけど……結構有名なんですかね?
もう一つ、第三話のあとがきで伏線を張ってみたのですが、気づきましたか…?いろいろな技法に挑戦していこうと思います!
何かご意見ありましたら、遠慮なく言ってください‼それでは。