やぶさかスクール お昼休み
「それにしても、どうして今日は2時間連続で情工なんだろうね?」
「そうだよねえ。もう終わってるよね」
情報工業科はこの学校におそらく名を刻むであろう速さで授業要項を終わらせ、生徒や教頭までもの度肝を抜いた。
「いやあ、たまたまだよ。祝日に被らなかったし、おまけに授業変更もなかったしね。」
というわけで、情工の授業は11月末で終わっているのだ。だから、2時間続きで特別に取られるわけがない。もう少し証拠を挙げるとするなら、情工の教師は授業自体やりたくないというスタンスを取っている。授業内容も、ほとんど説明だけで後は自分達で頑張ってと言う感じなのだ。
「授業がしたいんじゃなくて、皆を集めたいということなのかな?」
蒼葉の疑問は、いい線行っているように見えたが、それもやはり彼の性格を前にしてとんだ無駄足だったと言わざるを得ないのである。いや、蛇足ともいえるだろうか。
彼は、授業内容を聞けばわかるように、極度のめんどくさがりなのだ。進路指導であったり、就職案内だったり、斡旋事業はことごとく断るはずである。つまり、自主的に生徒たちに教えを説くことはないのである。証拠に、あの人は20年以上働きながら、担任を持たないし、それどころか学年主任や部活動顧問も断っている。幸いにも、この学校は教師の数が多いため、そこまでの損害はないようだが、それでも少しの不満は教頭初め結構あるようだった。
という理由から、彼が意味もなく集会を開くことはないのである。
「じゃあ、どうしてなんだろうね」
「やぶ、何か知らないの?」
おおよその予測はしていたが、ここで答えるようなことでもないので、適当にあしらうことにした。
「着いたら、分かるんじゃねえの?」
火のない所に煙は立たぬ。最近は、煙ではなくても、例えば湯気であっても煙認定されることもあるらしいが。もちろん自分から火をつけることももちろんあるが、誰かから火をつけられて、気づかぬうちに蒸発して、そして煙判定。出る杭は打たれるのが、このご時世であるため、疑わしきは罰せられるのだ。そして、残念ながら火をつけられる人は総じて、そこまで器の大きくない人であり、その器の量では、水も大して入らず、消火できるだけのものを持っていないのである。器の大きい人なら、笑ってごまかす笑って許す、そもそもそんなことをしない。スイカ畑で靴ひもは結ばないということである。
結局のところ、俺が言いたいのは、そういった世論批判でも、愚痴の吐露でもなく、最初の一文への掛け言葉に過ぎないのである。
教師のいないところに授業は成り立たぬ。
3時間目、4時間目はすべて自習だった。情工の教師は、移動した教室にはおらず、ただ一言、『なんでもいいから勉強しているように。』という張り紙があっただけだった。
「どんだけやりたくねえんだよ」
「これは、ラッキーですね、蒼葉殿」
「そうですなあ、泉希殿」
この二人同様に、クラスの大体は、歓喜に満ち溢れていた。他の俺含む数人は、もうすでに試験に向けた勉強をしている。医者を目指す者、裁判官を目標に掲げる者、そして公務員に挑む者、見つめるゴールは違えど、本気であることに変わりはない。
「そういえば、どうしてそんなに公務員になりたいの?」
「くぃずの言う通りだよ!」
「中心都市なら、安定するし定時で帰れる。地方都市なら、勤務時間が自由。こんなにも、自分の希望が通りやすい仕事もないだろう」
あながち間違いではなのだが、本当はただ、勉強すれば仕事があるという逃げの選択なのである。したたかな作戦だ。
民間企業で働くなどという、一種の運試しみたいなことはしない。コミュニケーション能力が著しく欠如している俺は、その能力が問われないこの仕事がちょうどいいのだ。
「でも、市役所でもそれくらいは必要なんじゃないの?」
「知り合いと話すのが苦手なだけで、初対面なら何ら問題はない」
これから何年も仕事を共にする人と分かり合えるということが難しい。
逆に、初対面ならこの話で終わるし、という余裕が生まれる。
「ふーん」
自習時間もいよいよもって終了し、簡単にご飯を済ませれば、昼休みの時間になる。
「あったけえ」
3月とはいえ、お昼になれば太陽が空高くに君臨し、我を崇めよと言わんばかりに輝き煌いていた。優しく柔らかい、和やかなそよ風が窓から入ってくれば、もう完全にお昼寝タイムである。
「まあ、でもやぶならすぐまた起きるだろうね」
「あ、そうだね。やぶっち菊菱先生好きだもんね」
「誤解を招くような言い方するな。俺は菊菱の授業が好きなんだ」
「はいはい。そうですか」
今度は俺が、くぃずに適当にあしらわれた。
「それにしても、今日で終わりかあ」
「しかも、グループワークでしょ?何やんのかなぁ。」
「意外と大した話じゃないかもよ?食べ物とか、そんな感じの。」
「ああ、目玉焼きに醤油かソースか、みたいな?」
「あるいは、重大報告とか?」
「だったら、グループワークする必要はないだろ。」
「そっかあ。でも、楽しみですなぁ。」
「そうだね。」
少し風が冷たいと感じたのか、泉希は窓を閉めた。
「そういえばさ、どうして今日2時間続きで情工だったの?」
「さあ、やぶっち正解を。」
「…あれだよ、暖房の点検。」
「…ほええ。」
「もう暖房も使わなくなるだろ?買い替えが必要かどうか、点検してたんだろう。」
隣のクラスもまた、同じようにして点検をしていた。
「なるほど…」
「ほら、授業始まるぞ。」
「はーい。」
チャイムが鳴り、午後の授業が始まる。




