やぶさかスクール 朝の挨拶
下駄箱の扉を開け、履き慣れた靴をしまい、古びた上靴を手に取り、床に置く。
久しぶりに履いたせいか、少し違和感を感じた。
「…あれ、小っちゃくね?」
「…え、それ僕の」
「いやなんで入っているんだよ!!」
「そんなの、僕だって知らないよ!」
どうやら、中で入れ替わっていたらしい。誰かの悪戯だろうが、昇降口には他に人がいなかったため、言及は控えることにする。
「まあ、こっちにあるから。早く行こう!」
下駄箱の目の前にある階段は、螺旋階段状になっており、これで4階まで行ける。
ただ、木造建築の為、踏めば踏むほどギシギシなるので、少し怖い。
「爺さんの膝かよ」
「…ははっ。何それ」
時間はたっぷりあるので、ゆっくり歩きながら上がっていく。
「梨華先生さあ、」
「ああ、担任の」
「そうそう。この間、グループワークしたらしいよ」
「え、あの先生が?」
「そうなんだって。内容については友達に聞いても、禁句だからって」
「ああ、そう」
「なんか、怖いな」
「大山鳴動して鼠一匹ってこともあるわけだし。大したことはないだろう」
「そうかも…しれないけど」
「だいたい、二兎を追う者は一兎をも得ずっていうくらいだし、講話と討論両方できる先生はいないだろう」
「…やぶ、言語科の授業好きでしょ」
「まあな。綺麗だし。面白いし。天は二物を与えずって言葉に信憑性がないよ」
2階に到着。しかし、2階にはまだ俺らのクラスはないので、迷わずターンして階段に一歩、足を出した。
「美人は三日で飽きるけどね」
「確かに、くぃず見ているとつくづく実感させられるよ」
「…え、ちょっと待って?それって、褒めてる貶してる?」
「褒めてる褒めてる。くぃず、可愛いよ」
「説得力がないなあ」
渾身のボケにも、しっかり対応してくれている辺り、優しさを実感する。
「あ、ちょっとトイレ寄る」
1、3階に男子トイレ、2,4階に女子トイレという風にして、トイレが設置されているため、3階にいるうちに済ませておかなければならないのだ。
「オッケー、じゃあ待ってるね」
「…え、待ってんの?」
「あれ、なんかおかしい?」
「ええと、多分おかしいと思うんだけど。一応女の子なんだし」
「あれ、あれれ?そういうところ気にしちゃうんだ」
「…まあ、思春期だからな」
「なるほどね。じゃあ、先に上がってるから。帰らないでよ」
「分かっている」
ちゃちゃっと済ませて時計を見ると、ゆっくりしすぎたせいか朝の会まで、ショートホームルームまで時間がなかった。
駆け足で階段を上り、教室に入るとクラスの人々は、俺みたいな人のことに見向きもせず、世間話に花を咲かせていた。
「おはよー!やぶっち!」
「おはよう。つつがな」
「おやおや、元気ないなあ」
「朝早かったからな」
「いやいや、いいんだよ。朝機嫌が悪いということは、昼には機嫌が良くなるということだからね。末広がりの八時間後、だから、4時半ぐらいには絶好調なんじゃないかな」
見事なポジティブシンキングで驚きを隠せない。
とりあえずありがとうとだけ言って席に座る。
このクラスは40人学級だ。机は6列並べられており、窓側から順に、6人、7人、7人、7人、7人、6人で並んでいる。
4人しかいない一番後ろの席の一番窓際の席という、色々お得な席なのだが、だからと言って別にやることもないので、授業を菊しかないのもまた事実である。
その前の席には、この麗しき女性、恙蒼葉である。そして、左斜め前、つまりは一番窓際で一番最後列にいるのが、陸奥泉希である。
どちらもなかなかの眉目秀麗で、可愛いため、両手に花というか両目に花、要は目の保養なのだ。
クラスの男子も、同じように思っているらしく、どちらか一方に決めるのは苦渋の決断なんだとか。
チャイムが鳴ったら、先生が来る。当たり前のようにやってくる。やらないといけないわけでは全くないが、それが当然と言わんばかりにやってくる。ありふれた毎日が始まるのである。
さあ、チャイムが鳴る。




