やぶさかスクール 登校
「やあ!やぶ!」
「ああ、おはよう。くず。」
「ああ!また、くずって言った!」
「ごめんごめん。」
「あれ、なんか元気ないじゃん?どしたの?」
「寒いからな。単純に家から出たくない。」
「ああ、やぶって、炬燵にこもってそうだもんね。蝸牛みたいに。」
「おい、人をこたつむりって言うな。」
「いや、言ってないけど。」
「言おうとしていた。」
「その可能性は否定できないね。」
「否定できるか。確定だよ。」
「まあ、それでも想定済みってことでしょ?」
「校庭に埋めてこようかな?」
「いきなり暴力的になったな!?」
「ウザいという感情が根底にあったからな。」
「そこまでのことは言ってないよ⁈性格悪すぎるよ!」
いつもの通学路に、踏めば足跡が残る程度の積雪が、季節を表す。吐息は白く、手はかじかんで赤くなっている。桜の蕾は、未だに現世を知らず、雀の涙程度のふくらみしかもたらされていない。そのお猪口ぐらいの蕾を指差し、くぃずこと陸奥泉希は、こうつぶやいた。
「咲来先輩って嫌いだったな。」
来週、卒業式の先輩にとんでもないことを口走った彼女は、そのことに関して後悔せずに、続けた。
「やぶも、見てたからわかるでしょ。咲来先輩と、僕は犬猿の仲だったってことぐらい。」
正直なところを言うと、先輩のことを下の名前で呼んでいる辺り、そこまでの距離があったことを感じられなかったが、幼馴染のことを先輩と呼んでいることで、その差をつけていたのかもしれない。
「まあ、でもあと一週間でいなくなるなら、許してやるか。」
手をグッと空に伸ばし、背筋をピンと張って深呼吸をし、ため息をついた。
「今日の言語科って、なんだろうね。」
「前回は…なんだっけ?エチオピア?」
「それは、アフリカの国。前回は、というか今月はヨーロッパだよ?」
「ああ、そうそう。ヨーロッパだから楽しそうだとは思ったんだよな。…ええと、エリトリア?」
「どうしてアフリカの国ばかり詳しいの⁈」
「あれ、違った?でも、こんな感じじゃなかった?5文字で最後がアで…エストニア!」
「違うよ。だいぶ近くはなったけど。リトアニアでしょ。リトアニアのサモギティア語。」
「ああ…そうそう。その国だったよ。どうして思い出せなかったのかな。5文字と言えばこの国しかないじゃないかそうそうリトルニア。」
「違うわ!勝手に小さくしないで!リトアニアの人に怒られるよ!!」
「いいだろ。どうせ、リトアニア人は俺らのことなんか知りもしない。」
「人が深淵を覗くとき、深淵もまた人を覗いているっていうんだから、知っていると思うよ?」
「ニーチェの言葉ってそんな意味じゃなかった気がする。」
怪物にならんよう気をつけろとか何とかじゃなかったっけ?
「僕が言いたいのは、こちら側から見れるっていうことは相手側からもこちら側が見えるってこと。」
「ただし、俺は除く。」
「どうしてだよ!!」
「なぜなら、俺は友達がいないからな。」
周りに、自分の情報が知れ渡っても、俺の耳にはクラスメイトの情報は届かない。
「…悲しいね。友達作ろうよ。」
「友達っていうのは、作るものではない。気づいたら、なっているものだ。」
「説得力がないよ。」
「まあ、でもくぃずがいるから、俺は幸運な方だよ。」
「光陰矢の如し。学校生活はあと1年。1年ってあっという間だからね?私も後援会作って応援してあげるから。公園で講演したりしてあげるから。」
「やめてくれ。どんどん悲しい奴みたいになる。」
「もう悲しい奴だよ、十分。」
「じゃあ、せめて他の策を考案してくれ。高温のおでんみたいに高級なすき焼きみたいに煮詰めてから、持ってきてくれ。」
「実際、好感度はそんなに低くないともうけどね。少なくとも公金横領した教頭や、痴漢で拘禁されている現代科の先生より。」
「え、俺の好感度その辺なの?」
「ロクに学校来ないし、来たら来たで、ずっと寝ているし。むしろ好感持てる方がどうかしているよ。小学校だったら、交換交換で友達係が作られるよ。」
「そんなに…」
これを機に、少し反省しようと思う。
「まあ、クラスに何の貢献もしてなかったら、そうりゃあね。」
「そうか、そうだよね。じゃあ、今日はまじめにするよ。」
「何をいまさら。降参して友達係作ってもらえば?」
「それだけは、何としても阻止しなければ。」
「まず、遺伝子の更新から始めないと。たぶん後身からすでに腐っていたんじゃないかな?」
「辛辣だな。」
「当たり前です。」
そんな他愛のない話をしている間に、学校に着いてしまった。
「さあ、今日から君は新・薮坂だからな。」
少し気が進まないけれども、門の中へ入ることにした。




