やぶさかスクール SHR
「皆さんに、考えて頂きたいことがあります。」
菊菱梨華は、先生である。
もっと言うのであれば、言語科を担当し、俺のクラスを担任している。教科書、ノートその他あらゆる用具を持たず、使うのは教室においてある一本のチョークのみ。しかも、ほとんど使用することはなく、ほとんど雑談入り混じる講話で授業を成立させるという、類稀なる才能を持つ教師である。
しかしながら、見た目だけ、つまりは容姿風貌風格どこからどう見ても、そういうタイプには見えないのである。
ドアをバンッと開けて、「おっはよー!!」というわけでもないし、あるいは淡々と話していくわけでもない。明るいわけでも、機械的なわけでもないし、冗談がうまいわけでもドジっ子なわけでもない。だからこそ、不思議なのである。
どうしたって、人間ぽくなく、少しのおぞましさも感じる。
話を聞いていれば、時間は過ぎて、授業時間が終了する。修了したところで、自宅学習をすることもせずに、模試を受けてみると、ところがどっこいうちの生徒は全員、9割以上の点数を獲得できるのである。それが、一回だけの偶然ではなく、10年以上も続いているというだから、素直に感心してしまう。
そんな完璧超人のような先生を、更に完璧に近づけるのが、その風貌である。先ほど、風格からはその雰囲気は感じ取られないと言ったが、見た目は本当に一般人の平均値のような見た目なのである。
茶色というよりはもう赤に近いような縁の眼鏡に、和風な髪留めに腰まで届きそうな後ろ髪。
服は、桃色を濃くしたような色のカーディガンに、花柄のワンピース。素足が見えることはそうそうなく、後は通常の白の靴下に、黒の靴。
ファッションに興味を示さない彼女は、遅刻しかけた結果すっぴんで登場するということをやったことがある。正直俺には、事の重大さはいまいちわからないのだが、そういうファッションや化粧に精通しているクラスの女子たちはドン引きしていた。
ちなみに、泉希はこちら側なので、「先生今日少し違うね。」くらいにしか思っていなかったという。
そういったギャップに、好意を持っている人は結構いる。
そんな先生は、一度だけグループワークをさせたことがある。
議題はどうしてもそれは生徒たちで考えてほしいという願いが強く色濃くこもっていた。
何故なら、その翌日。菊菱梨華は、生徒に何も言わず、何も残さず、自ら死を選んだ。
だから、今日はそれを話さなければならないと思う。
奇しくも、今日は彼女の命日であり、最強の神怪が生まれた日である。
遡ること、8年前。寒さが日に日に増し、冷たく強い風が雪を舞わせる3月。卒業式の10日前。俺たちは普通に、登校していた。




