やぶさかレコレクション 其の結
時間を忘れてひたすらアルバムを見ていると、何かプリントが挟まっていた。何かなっと開いてみると、これまた自分ではありえないような点数が書かれていた成績表だった。
テストの科目は10科目。
まず、言語科。あらゆる言語の文法や歴史などを学ぶ。言語というのは、日本語や英語、スペイン語やフランス語、あと先生によっては本都の歴史的言語や、それぞれの島の方言を学んだりする。
続いて、数科。主に、数字のことに関して学ぶ。足したり、引いたり掛けたり割ったりする。あと、筋道の通った説明をするための、論理的思考も、この科目で鍛えられる。いわゆる数学的思考ってやつだ。
さらに、自然科。この世の中の自然にまつわるもの、例えば地形や動植物などの研究を扱っている。
今度は、理論科。この世のすべての法則を、ここで学ぶ。もの同士の関係だとか、そう言ったことを学ぶ。ちなみに俺は一番苦手な科目だ。
加えて、現代科。現代目まぐるしく変わる世界を、お金や政治などの視点から学ぶ。公務員試験を受けるには、必須科目だ。
後は、歴史科。今までの世界を、現代科と同じような切り口で考える。
残りは、全て実技科目。裁縫や料理を学ぶ家政科、インターネットや物質を応用した情報工業科、自己防衛や運動能力向上を目標に掲げられている戦守科、そして最後に絵や歌など、理論的に考えるのが難しい感性科である。
ちなみに、本都の公務員はそれぞれに試験が設けられており、俺みたいな、地区自治系は、現代科と言語科が要るし、医療系なら、数科、自然科、理論科が必要だ。そういった感じで試験を基にこの町の公務員は選ばれていく。
普通、こういう学校のテストは、7~8割取れれば御の字のはずなのだが、この涼風羽天という大天才は、やはりここでも人間を超越した才能を見せつける。
「なんだよ…996点って。」
総合成績、996点。1000点満点で、落としたのは感性科のみ。
「いやでも、先生ひどくない⁈感性科で100点なんて、三波ちゃんくらいしかいないよ。」
三波ちゃんでも、歌以外だと難しいんじゃないかな?と言っていたが、俺が言いたいのはそこではない。
「なんで、こんなに点数が取れるんだよ‼」
我ながらこの質問は、すぐさま愚問だと気づいたが、だからと言ってきかないわけにもいかなかった。
「だから、言ったでしょ。私の脳は世界そのものなんだって。」
彼女の脳みそは、大きさこそ小さいものの(小顔の為、むしろ小さいほうかもしれない。)、そのしわの一つ一つに情報が刻まれすぎている。そりゃ、皆同じ人間だとは思えないよ。
「でもね、神那ちゃんも確かそれくらいの点数だったはずだよ。」
その一言に鳥肌が立つ。…いや、怖えよ。なんだってそんな点数が取れるんだよ、普通そんなの取れねえよ。
「そうそう、その時担任にも言われたんだ。1位の天羽、2位の乙亥の二人の差は、2点しかないけど、3位の桁谷との差が150点あるって。」
他の一般の人一位でも9割取れない高難易度のテストを、いともたやすく満点取ってしまうのだから、恐いよ。畏れ多いよ。
「そうそう、言語科で思い出したんだけど、ある島の方言について学んだ時に、先生が言っていることが違ったの。その表現だと、彼が彼女のことを好んでいることになりますよって。だから、発音記号が違うと思います。KじゃなくてKHだと思いますよってね。」
この時点で何を言っているのかさっぱり分からないが、もう少し聞くことにした。
「そしたら、神那ちゃんが『Hの方が強いと思われるので、どちらかと言えばHKではないでしょうか』とか言っちゃって。そっから二人で水掛け論してたら、先生が私たちに授業を丸投げしちゃったんだよひどいと思わない⁈」
正直なところを言わせてもらえるならば、突っつかれた先生や、巻き込まれたクラスメイトがかわいそうだとしか思えなかった。
それからは、俺と羽天で、それはもう濃密な思い出話に花を咲かせていた。蜜蜂ならこの花の蜜を取りに来ただろう。陸奥家の囲碁マニアには、つまらないと言われてしまうかもしれない。気づけば太陽は西の方角に位置しており、夜がそこまで迫っていた。泣く泣くこの述懐を終わらせることにした。
「じゃあ、これで帰るわ。」
「そっか、もう夜だもんね。」
「じゃあ、最後に。」
「うん?」
「俺は、柚希ちゃんを、瑞希ちゃんを、生きていると認識していいんだな?」
「まだ気にしていたの?…はあ、優柔不断な男は、嫌われますよ。」
「悪い…。」
「大丈夫です。生きてますよ。神怪みたいに記憶の中でしか生きられないわけではないからね。実際にそこにいる。それが答えじゃダメ?」
「そうだな。」
そうやって、正当化する。否、そうやって世界を創造する。想像して、創造する。自分の見える世界は、確かに君たち姉妹が存在している。
常識なんて関係ない。イカれてると言われたってかまわない。
自分の考える世界が現実だ。
だから俺は、こう納得する。
現実は、偽物だ。
「じゃあね、また来週。」
「ありがとな。」
辺りはまだ寒かった。吐き出す息が、自分の気持ちとは逆の色をしている。降り積もっていた雪は、少しずつ融けて下から生える植物は、小さなつぼみを膨らませようと懸命になっている。
そんな日だった。3月18日。
山菱菊梨の、フルコースが、始まった。




