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神怪だって、人間です!!  作者: サツマイモ
前日譚・薮坂足助編
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やぶさかレコレクション 其の序

 これは、誰が答えてくれてももちろん構わないし、ましてや応える資格はないなんて言うつもりもさらさらない。


 この質問は、電気は消したものの、いざ寝ようとすると意外と眠れず、だからと言って携帯をいじる気力もない時にふと思いつくような、そんな答えがなさそうな質問だからである。

 質問であり、愚問。疑問みたいなものだ。衙門に聞いても答えてくれないだろう。


 というか、衙門って何?先ほどちょっと読んだ本に書いてあったから使ってみたんだけど、合っているのかな?


 本題に戻る。

 結局何がそんなに疑問なのかというと。


 生きているって何?


 ということである。

 たとえば、脳みそだけ動くという人は、生きていると言えるのか。

 たとえば、体だけが動くという人は、生きていると言えるのか。

 どこが動けば、生きていて。

 どこが止まれば、死ぬのか。


 俺は、あのことに関して、客観的に見て果たして良いことなのかという問いに対して答えられない。あのことというのは、件の陸奥姉妹のことであるのだが、しかしこれは本当に良かったのだろうか。


 それが正しくて。

 間違っていない。


 果たしてそういう風に断言できるのだろうか。

 ポジティブに考えようにも、どうしてもそういうことが頭を過る。倫理的にどうなのだろうか。結局のところ、救助したことにならないのではないだろうか。一時しのぎにもなっていない、姑息という言葉が背筋を凍らせるような、そんな策だったのではないだろうか。


 もう少し簡単に、断片的に話してもいいというのなら、こう言い換えたいと思う。

 果たして、今生きている人は、柚希ちゃんなのだろうか。それとも、瑞希ちゃんだろうか。

 そして、そのどちらかとして断定できる証拠はあるのだろうか。

 生きているとは、どうやって定義されるのだろうか。


「ああ、なるほどね。そういうこと考えちゃうんだね…なるほどなるほど。」

 俺の見事なまでに非生産的な考えは、いつものように例の如く例によって羽天に軽くあしらわれてしまった。


「まあ、そうだよね。人間ってやっぱりそこで悩んじゃうよねぇ。分かる、分かるよその気持ち。」

「予想以上にウザいな。」

「お褒めに預かり光栄です。」


 胸に手を当て、腰を曲げる。上げた顔は、にやにやをこらえているようないびつな笑顔になっていた。


「褒めてねえけどな。」

 ため息をついて、答える。

「まあ、私なんかはあまり気にしたことないけどね。」

「ないのかよ。」

 予想外でもなかったので、素早く突っ込むことに成功した。


 こういうリズムってすごく大切なんだよと泉希に言われて以降、努力し続けている。おかげで、友達は泉希だけだったけどこういう仕事に就けたし、こうやって活かされているのだ。


「だって、そんなこと気にしたってあんまし意味なくない?」

「急に学生みたいだな。」

「元学生ですからね。」

「そうなんだ。え、いくつなの?」

「学年は、三波ちゃんと同じ。それと、神那ちゃんも。」

「…へえ。」

「さっきの話に戻るけど、結局のところ、見える世界はその人次第ってことだよ。」

「ごめん、凡人にもわかりやすいように言ってくれない?」

「あれ、分からなかったかぁ。」

 しょうがないなあと言わんばかりに頭を掻きながら、凡人にもわかるような言葉を探す羽天。その姿はまさしく、『考える人』のそれだった。


「だからね。常識とか倫理とかっていうものは、きちんと明文化されているわけではないでしょ?」

「そうだな。法律や憲法みたいに、ルール決めがなされているわけではないな。」

「結局そういうのは、人間が、独自にあるいは独善的に、恣意的に敷いた枠でしかないってことだよ。」

「枠組み。勝手に自分たちで決めたものだから、それを破ったところで他人が辛かったり悲しくなるはずがないってことか?」

「そういうこと。破ったら誰かが迷惑を被るかって言われたらそんなこともないし。もし、そういうことがあるなら、とっくの昔にそんなことをしてはいけないっていう法律が生まれるよね。」

「昔の人が予想だにしなかったであろうスマホやタブレットなどの迷惑行為も、それに相当する法律があるってことかぁ。」

「つまり、生きているという定義なんだけど。」

「うんうん。」


「常識として言うのであれば、何かしらが自主的に、それこそ恣意的に自分本位で自分勝手に動いているものが、生きていると言えるんじゃないかな?それが、子供は自分中心に動かなくとも、それを生きているっていう風にとらえたりするわけだけど。」


 子どもが世界をそう捉えることは、確かアニミズムと言ったはずだけれど、それは宗教用語でもあるという。


「常識や倫理観の延長線上に宗教っていうのがあると私なんかは思っちゃうけどね。それにしても、人間はそういう想像が得意だよね。私みたいに神怪を作っちゃうんだから。想像して、創造する。擬人化はみんな得意としているよね。」


 現代では、特にアニメやゲームの中で擬人化することが増えている。国から戦艦から、動物や建造物まで。同人的なところまで含めると、擬人化されていないものを探す方が難しいのではないかというくらいである。

 そろそろ憲法とか法律とかが擬人化される時代が来るのではないかと、期待というか懸念というか危惧というべきかがあるのだが、そもそもそういったものの歴史は古く、昔々の人々はそもそも目に見えない虚構の存在を、神様や妖怪などと言って具現化することで生活していたのだ。


「まあ、私はこの姿結構気に入っているからありがたい限りなんだけどね。」


 天女みたいな羽みたいな、柔らかくて純白の長袖を眺めてそういう彼女は、シルエットからは天使とは思えないが、よくよく見ると、それぞれに天使らしい箇所があるのだ。


「ということで、常識的にはそんな感じで、そこに自分なりの考察を付け加えると、答えに一歩近づくんじゃないかな?」

「なるほど。いつも答えを教えてくれて、ありがとな。」

「今回は明確な答えを提示できなかったけどね。私の脳は世界そのものだけど、その世界に常識は存在しないから。」

 あくまでも、人間の物だからね。


 そういう彼女は、どことなく寂しそうだった。

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