みつはミラクル 寝耳に水。
ここはどこかというと、本都から唯一この島に通っている橋の上である。さすがに徒歩で行ける距離ではなく、もちろん自転車で行けば日が暮れるし、生憎今日は船が出てないというので、自動車で向かうことになった。自家用車である。マイカーだ。
「実はね…」
「どうした?もうあんな話を聞いた後だから何が起こってもびっくりしない自信があるぜ。
月が落っこちてきても、そうだよな重力ってたまに欲しくなるもんなってなるだけだぞ。
猿が木から落ちても、そんな日だってあるよなで返せちゃうぞ?」
「妹たちとは、血がつながってないんだ。」
「…!」
ふざける気満々でフリに入っていた俺にとって、さすがにネタじゃ処理できないレベルの重い話題が帰ってきた。重力が倍になったみたいだ。何も言えない。何を言えばいいか分からない。どうすりゃいいの、この空気?
「ええ⁈そうなの⁈」
仕方がないので、全力で驚いた。そうなんだ、なんて妙に納得したら、空気が重くなるだけだ。ならば、ここはひとつ、声のトーンぐらいはあげねば、と思うのが悲しいかなお気楽男の性である。
「知ったのは、最近なんだけど。」
「はえ~。そうだったんだ。仲良しだったら、疑いもしなかったな。」
これは、紛れもない紛うことなき事実である。遊びに行くと、必ず下の姉妹がくぃずの取り合いをしていたのだ。すごく微笑ましいと思った瞬間の一つである。
「何となく、分かってはいたんだけどね。当時6歳でも、やっぱり違和感というのは感じるんだね。だから、凄く居づらかったんだよ。この姉妹には、姉妹の幸せがあって、そして家族との幸せがあって。私はここにいてもいいのだろうかってね。」
彼女には、彼女なりの葛藤があった。俺には到底理解できそうもない感情の範疇だ。
「そんな気持ちを、まるで大砲みたいに吹き飛ばしてくれたのが、彼女たちだった。」
「大砲って、男らしいな。」
「やめろ、揚げ足を取るな。言語科は苦手なんだよ。」
ふふっと笑ってくれて良かった。確かにこの子苦手なんだよね。生粋の理系女子で、言語科は模試で全国ビリとか取ったことあるもんな。
「まあ、そんな風に彼女たちも、僕と遊んでくれた。姉として、慕ってくれた。だから、」
彼女たちが、辛そうにしているのを、ただじっと見るしかないというこの最悪の状況に、耐えられそうもないんだ。
泉希は今、かつてない絶望と、どうしようもない自分への失望感に苛まれながらも、ただしっかりと地に足はついていた。
過去にも逃げることなく対応し。
蝸牛のように、殻に閉じこもることはしない。
禍にも、立ち向かい。
渦潮に、逆走する。
そうやって、彼女は生きてきたのだ。
「なあ、そういえば6歳の時に養子になったって言ったよな?」
「え、うん。そうだよ?」
勘づいた脳みそは、疑いを晴らさずにはいられなかった。
「その前の苗字って覚えてるか?」
正直なところ、そんな答えは返ってくるとは微塵にも思っていなかった。ただの偶然としか思わなかっただろう。そして、何かしらの苗字が返ってきたら、それのトリビアを言おうかなとか思っていた。
その答えに、心臓が止まりかける。度肝を抜かれる。五臓六腑の動きが、止まる。
「しらか…ね?だったかな。」




