みつはミラクル 久々の水。
一方そのころ本都では、久々の里帰りでテンションが上がっている俺がいた。
(お、薮坂さんですね。わかりやすい!)
(そんなに似てるか?)
いやいや、久しぶりの本都ですなあ。神那ちゃんも来ればよかったのに…。『島に誰もいなくなるから』なんて…茉釣さんもいるのに、嫌われたかなあ。
まあ、気を取り直して楽しもうではないか。実家に帰るのはもう少し後にして、そうだな。
にしても、だいぶ雰囲気変わったなぁ。こんなに港に店があったかな?しかもこんなに細かい。こんにゃく専門料理店まであるし…。
そうだ、夕飯はあそこに行こう!家族とも行った想い出のあの店に行こう!数少ない友達と行った思い出のあの店に行こう!
ええと、この道を左に曲がって…お、看板発見!
ガンッ。
「…痛え。」
「だ、大丈夫ですか?けがはありませんか?すみません、僕急いでて前見てませんでした…て、あれ?」
「・・・?あ、」
「ヤブじゃないか!助かったぁ。」
「おお、くずじゃないか!」
「その呼び方止めろ。屑みたいじゃないか。」
「ごめんごめん。」
「まったく。」
一人称、僕だったな、こいつ。別に嫌じゃない(むしろ僕っ娘は好みのキャラクターのうちの一つだ。)から、このビジュアルで言われると、ドキドキしてしまう。
「それはそうと、何か用なのか?その雰囲気だと。」
「こんな商店街のど真ん中で話すような内容でもないから…家空いてるか?」
「そういう、男の家でも堂々と入れるかどうか聞けるなんて、さすがだな。男っぽいよ。うん、空いてる。」
思い出のお店は、お預けだ。
港から家までは、そんなに遠いわけではなく、歩いていける距離であるということは俺だけでなくくずこと泉希も知っている。
ここで一つ説明を。どうして、彼女のことをくずと呼んでいるかというと、この子が屑であることは全くなく、フルネームだと、陸奥泉希と言うのです。そこから、くいず→くぃず→くずとなったわけでありまして。発音的には、軽くいを発音するのです。皆さんではご一緒に。くぃず!
この子普段は3姉妹の長女であるので、凄く行儀が良くて、礼儀正しいんですよね。
「母さんただいまぁ。」
「あら、足助お帰り。いずちゃんも久しぶり。」
「お邪魔します。」
(あれ、こんな感じで進むんですか?)
(あれ、分かり辛かった?時系列順に追っていった方が良いのかなって思って。)
(いえいえ、わかりやすいですよ。ありがとうございます。それにしてもよくそんなに覚えていられますね。)
(まあ、それきっかけで神怪になったようなものですし。普通勉強ってそういう風にしない?)
(確かに、それもそうですね。)
(じゃあ、本都の方に戻るよ?)
(OKです。)
「では、本題に入ってもらおう。」
「…僕の妹、覚えてる?」
「ええと、瑞希ちゃんと、柚希ちゃんだっけ?」
「そう。それで、瑞希は体が弱かったじゃない?」
「そうだったな。瑞希ちゃんと遊ぶときは、いつも室内だったぜ。」
「茂雄先輩の病院で、今入院してるんだ。」
「ああ、そうなんだ。定期健診でよく先輩のところに通っていたけど、知らなかったな。」
もしかすると、すれ違いとかはあったのかもしれない。
「私は試験があったから本都に残っていたんだけど、暇さえあれば見舞いに行ってたの。」
「ああ、あの頃か。」
「最初のころは、喜んでくれたの。でも、ある日行ったら、こういわれたの。」
「どちら様ですか?ってね。」
「だんだんと、態度がそっけなくなっていったの。いや、そっけないじゃなくて、ぎこちないというかよそよそしい。」
「あれ、もしかして瑞希ちゃんて、脳腫瘍?」
「よく分かったね。記憶を司る部分に腫瘍が出来てたみたいで、どんどん私のことなんて忘れて。柚希のことまで忘れて。あの子、まだ13歳なんだよ、耐えられるわけがないって。
「それで昨日こう言ったんだ、『今までありがとうございました。もう、無理してこなくていいですよ。』って。」
そう言うと、泉希は握りこぶしを作った。彼女が泣きたいときの合図だ。そうやって、彼女はいつも抑え込む。妹の為に、母の為に。やりたいことを我慢して、甘えることを拒んで、楽しく振舞って、ポジティブを演じる。
「でも、先輩は名医だ。手術はしなかったのか?」
「うん。」
「どうして?」
「瑞希は、死ぬわけにはいかないんだ。妹の為に。」




