みつはミラクル 衝撃の水。
「お前から呼び出すとは、珍しいな。」
「大事な話なんだ。面と向かって話さなきゃ、そうだろ?」
(演技上手ですね。茉釣さんですよね?そっくりです。)
(ありがとう。続きいいかい?)
(ああ、ごめんなさい。)
北風が雪を舞わせ、一段と寒さが増す12月。町は、18時を過ぎると真っ暗で、住宅の明かりや屋台の香りが、冷めた心と体を暖める。
こいつの名前は乙亥茂雄。葉長さんの息子で、島唯一の医者。なんでも、医者を目指した理由が葉長さんの背中を追いかけた厭うことなのだから、どれだけ葉長さんが偉大な人か分かってくれるだろう。
私も、葉長さんに助けられたうちの一人だ。
到底、後釜なんて継げないと匙を投げたくなる。そもそも、犯罪集団のリーダーに、この仕事が務まるのだろうかと何度か考えたことがある。
住民を困らせる側から、住民を守る側へ。そんなこと、簡単にできるわけがない。それこそ、神怪でも難しいだろう。炎香は、逆だったけどな。
でもなんでだろう。悪から善になるのは、すごく難しいのに、善から悪になるのは、意外とあっけなくなれちゃう。そういうことを考えると、やはり性悪説が優勢かなと思う。誰かのために悪人を演じるのは簡単だが、誰かのために善人を演じるのはそうそうない。
「この島に、吸血姫はいるか?」
「吸血姫?」
「ああ。鬼ではなく、姫。」
確かに、見た目女性が多いが、吸血鬼はいないはず。ましてや吸血姫なんて。この島は、基本的に自然を基にしたいわば自然集団なわけで、不自然な行為をする輩はいないはずだ。
ここではっきりできないのは、どうしても細かい部分は神那や薮坂に任せっきりになってしまうからだ。
「では、質問を変えよう。人間を食う輩はいるか?」
質問に合わせて、記憶を遡る。
涼風羽天は、風邪を引かせるこそすれ、実際に食うことはない。
燈火炎香は、人に引火こそすれ、実際に食すことはあり得ない。
水神三波は、水害を引き起こすこそすれ、実際に食べはしない。
茅野咲姫に至っては、そもそも人に害を与えない。
では、残る一人は。
「なあ、食うっていうのは、具体的にはどういう食い方なんだ?」
「砕いて食うっていうよりは、吸って食う感じかな。海老みたいに、あるいは蟹みたいに。」
そう言うと、テーブルの上の鍋に手を伸ばし、入っていた蟹の足を手に取って、綺麗に割り、中の食べられる部分だけを歯で咥え、引っこ抜き食べた。
「そんなこと、人間じゃぜってい無理だな。」
気持ち悪すぎる。
「正確を期していうなら、骨や筋肉はきれいに残っているけど、内臓が全て食われている。脳だけ残してね。」
蟹味噌で表さなかったのは、そういうことさと言うこいつを、正気の沙汰ではないと、思ってしまった。
「その姉妹を、助けたいんだ。」
「姉妹?姉妹だったのか、お前の話。」
「あれ、言ってなかったっけ?」
「姉妹とも、やられたのか?」
「いいや、それは妹だけだ。」
「じゃあ、どうして?」
「姉、次女も緊急事態なんだ。」
「そう・・・なのか。」
「次女は、助けられるかもしれない。」
「…」
「そのためには、君と協力したいんだ。」




