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神怪だって、人間です!!  作者: サツマイモ
前日譚・神怪たち篇
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ともしびフード Sweet Bean

 部屋に入ると、おじいちゃんが一人でやっているには意外ときれいに保たれていた。

 ファイルから冊子から机の上まできっちりと整理されていたし、窓を見ればピカピカに磨かれていて、隅々まで埃一つなかった。虫も寄り付かないだろうこの部屋に、ただただ呆然とするしかなかった。

「すごい。」

 とりあえず、地元ではまずありえなかった。

「まあ、わしは何もしていないんじゃがな。」

「え、そうなんですか?」

「ここのことは、大体神那ちゃんに任せとるからのう。」

「神那ちゃん?」

「そうじゃ。そろそろ、学校から帰ってくる頃じゃろうが、まあ気にせず上がってくれ。部屋はこっちじゃから。」

 入り口で靴を脱いで廊下をスタスタ歩き、奥の部屋に向かう。


 部屋に入ると、目の前に大きめなベッドと片隅に寂しそうに置いてあるテレビがあった。

「ここって、誰か住んでいますか?」

「一応仮眠室としてあるが、大体神那ちゃんが使っているなぁ。」

「そうなんですね。」

 だから、神那ちゃんって誰…?


「これ、食べや。」

「これって?」

「羊羹じゃよ。食べたことは、ないのかい?」

 不安げな顔をされてしまったら、食べざるを得なくなるというのは、この世の常である。

「ないですけど…美味しそうですね。」

 紫を濃くしたような色に、綺麗な直方体のそれは、全くを以て味のイメージが湧かなかった。

「これって、どういう味がするんですか?」

「まあまあ、食べてみればわかる。」

 そう言われたら、そうするしかないけれども。

 躊躇っていたって仕方がない。この状況、食べるしかない。

「では、頂きます。」

 食べてみると、さっきまでの不安が全て消し飛んだ。

 柔らかいなりにしっかりとした食感。舌に乗せ、蕩けていくほど出てくる甘み。飲み込めば余りの一瞬さに寂しさを感じる。そのために、口の中で半分だけ残すと、その間にも流れてくる芳醇な香り。それをもう一度飲み込めば、言葉はもうない。

「…甘い。美味しい‼なにこれ⁈」

「材料は小豆でな。それを潰して餡を作って、それを型に嵌めて寒天を入れて固めたのじゃよ。」

「すごく、すっごく美味しい‼」

「それは、良かった。ようやく、君の笑顔が見られた。」


 その柔らかい視線に。その穏やかな声に。のどやかな笑顔に。

 私の心は、しっかりと掴まれてしまった。


「私ね。悪魔なの。」

「そうか。」

「でもね、悪さが出来なくて。」

「うん。」

「みんな…から、いじめ、られるように、なって。」

「うん。」

 気づくのが遅れるほど自然に、涙は零れ落ちた。優しさに包まれると、どうしても私は涙もろくなってしまうらしい。悪魔なら、そういうことは、嫌わなきゃいけないのに。

 ハナガの和やかな受け答えを、嬉しく思っている。

「でも、私は、間違っていないって、そう思ってて。」

「そうか。」

「私って、ダメな子なのかな。」


「人生はな、この羊羹みたいに甘くはない。人間は、悪いことをすれば叱られる。それは当たり前じゃ。でも、良いことをしたからと言って、嫌われないとは限らない。何もしなくても迷惑をかけることもあるし、逆にかけられることもある。この世の中、わたしは関係ないじゃ済まされんこともあるんじゃ。

 苛められるのが嫌で、いじめられるのをやめたいというのなら、方法は一つじゃ。いじめている子の下に着くこと。胡麻を摺ってペコペコ頭下げてパシられても何一つ文句を言わない。それが、いじめられなくなる最善策じゃ。

 でも、君は違う。間違っていないと思っているなら、それを貫く。それだけで、十分君は、凄い子だよ。ダメなんかじゃない。むしろみんなできないんだ。」

「できない?」

「できないけど、いじめられたくない。だから、皆周りの顔色だけ窺ってその時々の最善策を考える。」

「そうなのかな。」

「そうだとも。だから、みんな君に嫉妬しているんじゃよ。

 過ぎ去った過去も、未だ来ない未来も、考えることは良いことだ。歴史を学ぶことで同じ過ちは繰り返さないし、将来を考えることで今やらなきゃいけないことが見えてくるからね。でも、悩んじゃいけない。」

「悩んじゃ…いけない?」

「悩むという行為は、一歩先に進めなくさせるからね。だから、君は悩んじゃいけない。」

「ハナガは、悩みなさそうだもんね。」

「そうじゃなぁ。つまらんからのう。人生楽しまなきゃ、そうじゃろう?」

「そうだね。ありがとう。」

「いやいや、何のこれしき。」


「この羊羹、どこで売っているの?」

「わしの特製じゃよ。」

「え?」

「あそこで植えておるのじゃ。炎香よ。」

「ああ、あそこかぁ。え、ほのか?」

「うん。今日から君は、燈火ヘスティア炎香じゃ。」

「ええと、それまたどうして?」

「君の美しさと、優しさ。それから、君は火を使う悪魔。」

「そう…だけど。」

「だから、人に温もりを与える燈火。香り高き君の名は、炎香じゃ。」

「…ふふ。いい名前だね。」

「つらくなったり、遊びたくなったら、いつでも来るといい。待っておるよ。」

「…うん。ありがと。」


 ――――――

「なあ、ヘスティア。」

「うん?何?」

「どうして、そんなに羊羹好きなの?」

「そうだね、思い出の…味だからかな。」

「ん?ほーん。なるほどねぇ。」

「あの…さ。」

「うん?」

「伝わるかな、私の気持ち。」

「どうだろうな。けど、伝わるといいな。」

「うん。」

 悩んでいたって仕方ない。結局はなるようにしかならない。後悔も不安も今日で終わりにする。

 私は、神那ちゃんと仲良くなりたい。許されないのは分かっているけど、せめて思い出の味に浸りながら、久しぶりにお話がしたい。今日はそのために来たんだ。

 ちゃんと、謝るぞ!


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