すずかぜミスチーフ 照
「あら、おはようございます。今日はどういった幼児でしょうか。」
「そんな誤字はやめろ。毎回俺が幼児を連れてきているみたいじゃないか。」
「私からすれば、みんな幼児みたいなものですよ。お隣の子なんてまさにじゃないですか。」
「やめろ、神那は身長こそ小さいものの、それ以上におっぱ」
ぐはッ。
己卯神那の右ストレートが見事にみぞおちに入った。
「あらあら、仲がよろしいこと。」
「仲がいいわけありませんっ!」
「ふう。それで、少しお願いなんだが。」
「おや、もうみぞおちの方は大丈夫なんですか?なんならうちで一晩泊っていってもいいですよ?」
「何を言ってるんだ!」
そ、それはちょっと、わ、悪くないんだけどね。ただこうしている間にも神那ちゃんの右ストレートの準備が着々と遂行されている。…怖えよ。
「そうじゃなくてな、花粉なんだけど。」
「花粉…ですか?」
「いや、ちょっと多いなあって。花粉症の身としてはちょっと辛いなあと。」
「そうですか。それは、私としたことが。今すぐ死んで詫びます。」
「そこまで言ってねえよ!」
ほぼ思った通りの返答に、万全の対策とはいかず。勢いでツッコんでしまった。
「別に死ななくていいから、むしろ死なないで。ただ少し、花粉の量を減らしてくれればなあと思っただけだから。」
「そうですか。では、私の方で少し検討させてもらいます。閣議決定するまでしばしお待ちください。」
「そんなシステムだっけ?」
「いえ、冗談です。政治ってよく分かりませんし。それに、独裁派です。民主政治だなんて嫌いです。」
「ふ~ん。」
まあ、確かに。彼女の特性から言って、植物を全て統べているのは、彼女の独裁的な方針であり、そこで植物皆に話を聞いて回っていたらきりがないだろう。しかし、それによって反発とか起きないのかな?
「そういう時は、私が責任をもって罰を与えています。」
ニヤッと微笑み、外に生えている草花を見る。めっちゃ怖え…。
「だいたい、民主的に事を進めようとすると時間がかかるんですよ。どうせみんな自分のやりたいようにやりたいだけですし。本当にその界隈について考えている子なんてごく一部ですよ。
「いや、一時期そういうこともあったんですよ。完全に任せますよって時期が。そうすると、問題が多発しました。全面戦争勃発かとまで行きましたよ。
「例えば、ある問題に対して、一つの案が提示されます。それに対して賛成派、反対派に分かれます。ここまでは別にいいんですけど、その後それぞれの派でグループができます。そして、話し合いの中で自分の方に傾かなくなると話し合いとかそっちのけで、グループのリーダーの悪口を言い始めます。最終的には、こいつが言ってることは全部嫌いっていう人が現れます。」
「まるで、子供みたいですね。おもちゃ没収された幼稚園児のようです。」
「分かってくれましたか?神那ちゃん…でしたっけ?だから、みんな幼児なんですよ、私からしてみれば。」
「デモクラシーは、自己満足です。みんなで話し合いましたという証拠が欲しいだけです。」
「そうです、それが言いたかったんです。さすが専門家ですね。」
「なるほどねえ。よく分からんけど頑張れよ。花粉の件頼んだぜ。」
「完全に途中から聞いていませんでしたよね?寝ていましたよね?」
「いや、ね、寝てねえよ。あれだろ、大正デモクラシーと灯台下暗しって似ているって話でしょ。」
「全く聞いていませんね。」
「そうですね。」
咲姫と神那ちゃんが目を合わす。その目は完全に、見下す目だった。いや悪かったって別にそんなつもりじゃなかったんだよ。
「じゃあ、私とこの馬鹿は帰ります。私は関係ないですけど、花粉の件願いしますね。」
「分かりました!」
こちらは、きっちりとした敬意と礼儀たっぷりの敬礼だった。