みつはヘルプ 邂逅の水。
私が彼、すなわち薮坂足助と出会ったのは、特別に用意された面会ではなく、ましてやお誘いとかでもなんでもなく、偶然によるものでした。
だから、私にとってはそれが運命だと感じられましたし、神様になってもこんな気持ちになるんだなと再確認できました。
はわわとして、いひひってなって、ふわふわして、えへへとなって、ほわほわする、いやぽわぽわする気持ちでした。心の奥底が暖かくなる気持ち。
なぜこんなことを唐突にも思い出したのかというと、その日は今日とは全く違う天気でした。天気というのは不思議な力を持っているもので、空を見るだけで思い出がよみがえってきます。
見事なまでに晴れた日には、皆で海で遊んだ思い出が浮かんできますし、残念なほど雨の日は、皆で家に集まって遊んだ思い出が戻ってきます。
そんなことを思い出していると、思い入れのあることって、本当に友達と遊んでいるときなんですね。我ながら、学生時代よく遊んだと思います。
おかげで、妹たちには迷惑を掛けましたし、その分怒られました。羽天さんはそういうところも要領がよく、というかズル賢くて、全然怒られてなかったですね。神那ちゃんは、神那ちゃんで「あの子がそんなことするはずがない」って怒られてなかったですからね。悪者は私だけでした。寂しいです。私だって別に悪いことばっかしているわけではないのに…
まあ、天才の天羽と努力の己卯って言われていたので、仕方ないんですけど。
…いや?全然仕方なくないですよ‼
そんな私にも、優しい人が現れるものです。
それが、足助さんだったりするわけでありますよ。
今日は妹たちを足助さんに預けていますし(保育所みたいに使ってますね。)、お偉いさんの講習会ってつまらないので、暇つぶしも兼ねて、お話ししたいと思います。
あの日は、何もかもを白く染める雪が、冷たく凍り付くような寒さの日でした。
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目が覚めると、いつものように静かでした。ただ、いつもと違うのは、静かすぎるという点です。あまりにも静かすぎて、冬の寒さとは違った寒気がしました。
まずは、情報整理です。朝なので、妹たちが起きているはずもなく、もちろん隣人なんていませんから―広大な土地を持っているのは他ならぬ私ですから―静かであるのは当たり前です。なので、台所に立って作業する、つまりは切ったり焼いたり炒めたり煮たりするときの音は、家じゅうを響き渡るのですが、どうやらいつもより音質がいいみたいなんですよね…。なんというか、誰もいない体育館で叫ぶと響くみたいな、そんな感じがしたんです。
あともう一つ挙げられる、確たる証拠が、私にとっては一番の根拠なんですけど、寝言が聞こえないんですよね。妹たちはいつも寝言がひどいんですけど、今日は一向に一人の声しか聞こえないのです。この雰囲気が、仮説を確実のものにしました。
一応現場確認の為に、妹たちの部屋に行くと、一人いませんでした。幸い、一番下の奈波はぐっすり寝ていましたが、泉咲がいなくなっていました。
ここで私は「しょうがない子ねえ。」と言えるほど、懐が大きくないので、それこそ茉釣さんなんかは、そうやってその場を収束させるのでしょうけども、私はできないのでパニックに陥るだけです。
「何でいないのよ‼」
妹を起こしてしまいかねないので、部屋から少し離れた場所で怒鳴ってしまいました。今思えば少し反省です。
朝ごはんをほったらかして、急いで着替え、外に出ます。冬だからか、太陽があまり機能せず、積もった雪の冷たさが肌に刺さる。まるで、私が見ていないのが悪いと責めんばかりです。
「寒い…」
独り言はそれくらいにして、外に出ます。勿論神社の本殿と私の家の玄関は違いますので、まずはその範囲からです。
彼女はまだこの敷地から出ていないはずなので(布団に人の体温みたいな温かさが残っていました。)、近くにいるとは思うんですけど。
そんなこんなで本殿の近くまで行くと、何やら人影が見えました。
ここで一つ、余り小さなことでぐちぐち愚痴を言うのは、昔の先生のようであまり言いたくはないんですけど、苦言を呈させていただきたいと思います。
あくまで私の意見なので、他の神様は知りません。ご了承ください。
それで、私が言いたいのは、そんなに朝早く来ても、ご利益はないですよということです。私は、ほぼ人間みたいなものなので、徹夜とかは勿論のこと、朝だって妹たちのお世話とかがあるんで、そんなに朝早く、例えば7時くらいに来られても、何も対処できないんですよ。つまりは、上辺だけの、祈っただけのことになりかねないのです。
初詣なんてほぼオールですよ。どれだけ辛いと思ってるんですか。
だから、私的には9時から来ていただけるとありがたいです。
そんな事を思いながら、手だけでごめんなさいと合図すると、その人はこちらを見ました。
ゲッとも思いましたが、そもそもどうして私のことが見えているのかっていうことです。私の存在に気付けるなんて、役場の人と神怪位なものです。もしかして、この人も?
考えている間に、少しづつ近づいてきました。少しの恐怖を感じましたが、それ以上にその表情が私を安心させました。本当に心から心配している表情でした。
「…な、なんです…か?」
「いえ、何かお困りのようだったので。あ、私はこういうものです。」
胸ポケットから出てきたそれは、自分を証明する物でした。そこに書かれていたのは。
「薮坂足助…役場の方ですか。」
「はい!今年度から配属になりました。」
「よろしくお願いします。でも、今ちょっと用がありまして、あの、今度しっかりとお話ししましょう。」
特に意味はなかったけれど、私がこの島のことを教えたいと思い、誘ってみました。
結果は、予想を翻すかたちになりました。
「あの、困っているなら、お手伝いしますよ?」
「いやでも、大丈夫ですよ。」
「いや、そういうわけにもいかないです。あなたみたいな真面目な方が困っているのを見たら、誰だって助けたくなります!」
今思うと、これを真に受けるというのは、もしかして詐欺とか引っ掛かりやすいタイプですね、私。
「…では、お言葉に甘えて。」
「何でも言ってください!」
「妹を、探してほしいんです。」




