すずかぜビジター 完璧な準備
こんな日にダラダラしたいというのは、例え人間ではないとしても願望として普通にある。したいよ、ゴロゴロ。でも、そういうわけにもいかないのが今日というわけである。散々三波ちゃんに怒られたうえでの反省。確か茉釣さんが来たときは色々準備するのがめんどくさくて雨にしたんだよね。まさか、傘も無しにカッパも着ずに来るとは思わなかったけど。あの時は、「お前ってほんといい性格してるな。」ってガチギレの顔で言われた。恐怖でしかなかったのを今でも思い出して震えている。
今日のメニューとしては、まず庭の雑草取りをして、溜まっている洗濯物を干す。部屋の掃除をしたら、お昼ご飯を作るのだ。今日は来客があるので2人分。幸い、早起きしたおかげでまだ9時だった。最初のころは「あ、学校‼」と慌てたものだが、もう学校も何もない。何時に起きたってかまわないのだ。
多少面倒だと思いつつ、コンクリートみたいな重い腰を上げ、庭の雑草取りをする。数学的な見識のもと、庭の面積から雑草の量を割り出し、どこからどう刃物をいれて行けばいいかを考える。こんな風に言葉にすると、意外と難しいことやってんなと他人事のように感じるが、私にとってこれは欠伸をしている間にもできているので複雑な思いではある。
早々に雑草取りを終わらせ、洗濯物に向かう。一人暮らしであるのに加えて服のレパートリーはある方ではないので、これもまたすぐに終わるのだ。服には無頓着な人の利点だ。服をきれいに伸ばして、洗濯ばさみで落ちないように挟む。風で飛ばされるという問題は、先述の通りの為、考えから省く。単純作業に退屈さを感じながら終わらせた。部屋に戻ってため息をつく。
これが問題であり、至上命題でもあるのが、部屋の片づけである。私にとって型付けって要らないことなんだよねぇ。まあ、言い訳はこのくらいにしてさっさと始める。嫌なことはてきぱきとが私のモットーだ。そんなモットー初めて聞いたが。いつでもコロコロ変わってしまうのが私のモットーであり信条である。でもねえ、心情はあまり変わらないんだよ。ずしんとど真ん中を貫く私の信念は意外と揺るがない。
この片づけには、2時間と30分が費やされた。時計を見ると、もう12時がついそこまで迫っている。
ある程度綺麗になった部屋を見渡し、納得をして台所に向かう。束ねていた髪をもう一度束ねなおし、エプロンを身に付ければ、準備は万全だ。この数秒間にもすでに、料理は決めてある。私の得意料理のハンバーグだ。いつもの手つきでハンバーグのタネを作る。なれた台所の為、使い勝手は良好だ。手際よく進めていき、見事完成した。
なぜこんなにも意気込んでいるのかというと、今日の来客はいつもと違う人だからだ。茉釣さんでも神那ちゃんでもない初めての子なんだとか。性別も容姿も風格も全然教えてくれないもんだから、若干の不安はあるけれども、それでもやはり初めてのお客というのは楽しみだ。心が躍る。
食器棚から皿を出し、ハンバーグを盛り付ける。冷蔵庫から麦茶を取り出し、おもてなしの準備は万端だ。ワクワクする気持ちと、不安な気持ちが入り混じっていて、自然と体は動く動く。
「落ち着かねえ…」
シャワーを浴びてもその気持ちは収まるところを知らず。
「散歩でもするか…」
勿論、人間界に遊びに行くことは許されていないのでそこまでは行かない。というか、そこまで行く時間はない。山頂付近にあるこの家は、人間界からは遠いところに位置している。あくまでも、家の周りだけだ。
それにしても、今日はいい天気だな。深呼吸をすると、新鮮な空気が体の隅々まで浸透していく。ふうっと息を吐いて気合を入れる。ここから見える美しい景色と、懐かしさが背中を押す。
家に入って数分すると、ドアををノックする音が聞こえた。
どうやら私は、とてつもなく緊張しているようだ。
どんな人なのかな?どうやってドアを開けようか。第一印象って大事だし。そもそも、最近あの人たちとしか話してないではないか。この言葉ってちゃんとした言葉だよね?これが本当の自分の言葉じゃないよね?
いろいろ考えるうちに、ノックの音が大きくなる。
考えていても仕方ない。さあ、扉を開けよう。
「空前絶後の大天才とは、私涼風羽天のことだね!」
…決まった。…決まった?




