つつがなプロポーズ その後編
今回の結末。
会議自体は恙なく進行し、特に今までと変わったこともなく役場に戻って行う議事録整理もすぐに終わった。
否、これは概ねということであり、事件らしい事件はあったのだ。
「私、茅野咲姫は、再び本都に戻ります。恙蒼葉さんと交換という形でよろしいですね。」
「…え?何言ってるんですか、先輩⁈」
「そろそろ本都が恋しくなっちゃって。」
「まじっすか、咲姫さんが帰ってくるならうちの奴ら大歓迎ですよ!」
「ちょっと、蒼葉さんに失礼でしょ!」
「ああ、ごめん。そんなつもりはなかったんだ。許して!」
「大丈夫ですよ。もうけさん、利益さん。」
「相変わらず仲いいですね、商夫妻は。」
「それを言ったら蒼葉さんと咲姫さんだって。」
「では、決まりで。いいですよね、議事長?」
「え、ええ。双方の了解があれば。」
「じゃあ、頑張ってくださいね。」
「もう、先輩。…ありがとうございます。」
「何のことでしょう?」
それからすぐに彼女、茅野咲姫はこの島を去った。
「そういえば、あの時のことなんですけれども。」
「あの時?」
「どうして、好きだっていう気持ちだけを私に伝えたんですか?」
「ああ、あれか。」
あれは、だいぶ自分でもやらかしたと思っている。
「言わずには、いられなかったって感じかな?」
「その1年後におんなじような台詞後輩ちゃんにも言ってましたよね?」
「それは、その。」
「けっこうひどいお方ですわね。」
「言葉もない。」
「でも、そのまっすぐな瞳に、私は憧れますよ。」
丁度真後ろに太陽があったせいか、凄く眩しく……否、これは違う。彼女自身の輝きが、煌めきが、そうさせているのだろう。
「あ、最後に。」
「ん?なんだ?」
「私のこと、思い出してくれましたか?」
今なら、自信を持って言える。
「ああ、さくらちゃん。」
「久しぶりに聞きましたわ。」
「思い出せなくて悪かったな。」
「いえいえ、もう10年も前の話です。こちらこそ、ありがとうございます、思い出してくれて。」
「最後に恒例だったやつ、やるか。」
「高齢?」
「いや年じゃなくて。覚えてない?」
「まったく。」
「そうか、じゃあ仕方ねえ。」
君と私が出会ったのは、運命だったんだと思う。
だって、私の苗字の真ん中には、あなたの名前が入っているんだもの。
「それ、私と」
「そう君との最後の会話。」
「じゃあ、あの言葉がスラスラ出てきたのは、あなたの言葉だったからなのね。」
「あの言葉?」
「そうよ、あの言葉。」
「ああ、あの言葉か。」
初めての気持ちなら。
真面目な気持ちなら。
苛められても。
惨めでも。
決めて、定めて、合わせて。
固く、堅く、硬く。
結んで、紡いで、絆して。
諦めずに、前だけ向いて。
信じる方へ、突き進め。
「ありがとう。その言葉、気に入った。」
春が終わって、夏を締めくくり、秋も暮れれば、冬を完結させる。
そうすることで、また春を迎える。
植物はそうやって、回っている。
記憶もそうやって、巡っていく。
俺の記憶に、固定されたものはない。
新たに覚えれば、何かを忘れ。
時間がたっても、何かを忘れる。
だからこそ、彼女茅葺咲来のことは何度だって覚える。
忘れないために、覚え続ける。
そうすれば、あの夏のことも、いつかは輝かしい思い出となるだろう。寂しさが詰まった思い出も、いつかは笑い話になる。
その大切さを、彼女は教えてくれた。




