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神怪だって、人間です!!  作者: サツマイモ
植物の核・茅野咲姫・恙蒼葉編
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つつがなプロポーズ 成熟編

 ――――――――

 帰り道、今日の17時から総会議があることを思い出し、少し早めに走って帰った。と言っても、ここ数年ロクに運動していなかったことがたたり、すぐに足を痛めることとなった。

「痛え…」

 まじか、もう年かよ。

 痛む足を引きずりながら、役場に向かう。


 空を見上げると、意外と暗くないことに気づき、急ぐことをやめた。意外とこんな風にメロスも足を動かすのをやめたのかもしれない。そんなことを思いながら、時刻でいうと逢魔が時に坂道を下る。


 ここで、視線に気づく。と言ってもこんなところは人だらけなのでそりゃ視線もあるだろうと思うだろうが、しかしながら明確な意識を持った視線を察したのだ。人間意外と野生を忘れてないと思う。

 名の知れた、腕利きの狙撃手だったらどうしようと一瞬頭を過ったが、そもそも狙撃手に狙われるようなことは何もしていないし、そんな仕事本当にあるのか定かではないのですぐさまそれはないという結論に至った。


 台風並みの速度でこちらによって来るのが風でわかる。そろそろ周りの住民に被害が出そうなレベルである。これを振り向いたところで受け止めることはできないと、それこそ野生の本能で感じているのか体が動こうとしない。そのため、仕方なく腹筋と背筋に力を入れ、深呼吸をし、じっと構える。誰が来てもいいように、じっと構える。


 こんなダイナミックでアクロバティックな状況にならないと思い出せないなんて本当にひどい奴だと我ながら思う。

 茅葺咲来。あれは、確か5歳ころだったか。

 柔らかい声と、滑らかな肌。

 優しい姉のような存在で、いつまでも子供のような存在。


「ああ、そうだった。」

 会話を思い出す。思い入れのある会話だったはず。

「やぶっち‼」

 彼女の過呼吸が、さらに思い出させる。


「はあ、はあ。」

 膝に手をつく姿が、想い出を確実にする。

「あ、あの!」

 決心したように顔を上げ、疲れ切った体から声を絞り出す。

「わ、私!」

「は、はい?」


「生まれて初めて、人を好きになりました。」


「…おお、それは良かったな。」


「やぶっちが、あなたのことが大好きです‼」


「…え?…ええええええ⁈⁈」


「私と、一緒に」

「いやいやいや、ちょっと待って!」

「へ?」

「ああ、嫌じゃないよ、嫌じゃないけど、俺?」

「…うん。そりゃそうでしょ。」

「ちょっと待ってね、心の準備が…」

「女の子に恥をかかせるつもりですか?」

「…ふう。よし来い‼」

「私、やぶっちに告白されるまで、存在すら微妙だった。」

「マジかよ。」

「ごめんね。でもね、やぶっち言ってくれたじゃない?渓谷のお姫様だって。」

 二つの山の間にある小さな集落。小さな渓谷。傾国の姫。

「あの頃ずっと悩んでた。私甘やかされてるんじゃないかって。いっそのこと私を攫う王子様が現れてくれないかなって。そしたら、知らない地域でもいい。どれだけの労力がかかってもいいから、この状況から抜け出したいって、なんとなく。

「そして、あなたが現れた。結婚する気はおろか、付き合うつもりもないってはっきり言われて少しショックだった。それから、あなたがずっと気になっていた。すごく大変そうな勉強も、自分の為に一生懸命になっていたあなたが、凄く輝いて見えたの。

「あなたがこの島に引っ越した後も、どうやったらあなたと会えるかってすごく考えた。その時に、神怪の知らせがあって。

「それから数年経って、総会議の回覧板を読んだとき、あなたの名前があった。

「ついに、この時が来たと思ったよ。

「だから、私はここに来た。あなたに会うために。」


「気持ちは、すごく嬉しい。」

「…え?」


「だけどな、やっぱり俺の気持ちは変わらない。」


「…というと?」


「恙蒼葉は、お姫様なんだ。渓谷の姫で、傾国の姫。それ以上でもそれ以下でもない。君に命を捧げよと言われれば、満面の笑みで命を捧げる。それくらい敬虔な蒼葉信者なんだよ。」

「だったら、」

「でも、現実と理想の区別くらいは、つけたいんだ。」

「…ん?」

「もし、君と付き合う、結婚するもしくはそれ以上のことがあるとする。そうすると、やっぱり無視できない欠点が見えてくるんだ。それは誰だってそうなんだ。人間欠点を持ってない奴なんていない。それこそ神怪でもない限り。」

「わ、私はもう神怪だよ?」

「結婚したら人間に戻るんだよ。そういう規則だ。法律上は、そうなるんだ」

「そう、だったんだ。だから、先輩は。」

 理想を壊したくなくて、現実に引き戻されるのが嫌で。

「だから、一生俺のお姫様であってほしいんだ。」


「やぶっち、最低だよ。気持ち悪いし。」

 噴き出して、大きな口で笑う彼女に、一片の後悔もなく。

「なんだよ、それ。」

 つられて笑う俺にも、後悔はなかった。


 現実ほど、いつまでたっても輝きに欠けた偽物はなく。

 理想ほど、どこまでいっても輝きに満ちた本物はない。


 目に見えないものほど大切だ。

 なぜなら、目に見えてしまえばそれ自身ではなくなり。

 耳に聞こえてしまえばそのものの音ではなくなるから。


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