すずかぜミスチーフ 紹
そんなこんなで今日。5月3日。凍えるような冬が終わり、仄かに暖かい風が吹き、小鳥が囀る。 その様子からして、この島はとても平和の道を辿っているようにも思われる。まあ、ここ3年間は災害がないというのも事実で、その要因になっているのは、3年前にこの専門家が連れてきた木の神、
「いいえ、彼女は植物の核です。」
もとい、植物の核である茅野咲姫である。彼女のおかげで、悪魔が島に降りられなくなり、食物連鎖の頂点も島民に手を出さなくなっている。
しかし、しかしである。これだけ見れば、完璧な女性ではあるのだ。現に彼女はここに連れてくる前、本都(国の首都、この島から9km南)では、それはもう大人気で、崇拝する人まで現れたそうだ。一方で、彼女を崇拝している人たちを、本都の住民の一部では、偶像崇拝と揶揄していたらしい。それでも、その人気ぶりは、俺の耳にも届いていたわけで、やはり絶大なものだったのだろう。ただ一つ、彼女が存在することで一つだけ厄介になるのは、花粉症である。
彼女の特性であり、彼女の存在意義としての最たるものとして、植物の核であるということだ。
つまり。
彼女が生きれば、植物は活性化し。
彼女が死ねば、植物も息絶える。
植物が活性化するということは、生殖活動も活発になる。つまり花粉が舞う。花粉症にとってここまでひどいことはない。だからと言って咲姫にそれを愚痴ると、
「そうですか。それはそれは、私のファンたちがご迷惑を。では、私がここで死にますね。」
と冗談か本気か分からないようなことを言い出すと思われるので、なかなか言えないのだ。ちなみに専門家は花粉症ではないそうだ。
「『病は気から』とも言います。花粉が舞っていることで、そういう気分にさせられるだけです。」
「なるほどねえ。まあ、俺は健康そのものだから、花粉症だけが唯一の心配事だよ。まさに、『病は木から』って感じだね。」
「全くもって意味が分からないこと言わないでください。寒すぎて風邪をひいてしまいます。」
「羽天に報告だな!」
「何でもかんでも、風邪と言えば羽天さんみたいなのやめた方が良いですよ。嫌われるだけじゃなくて、本当に島民に被害が出ます。」
「神那ちゃんは本当に島民想いなんだな。」
「別にそうじゃありません。好敵手には最後まで残っていてほしいということです。」
「好敵手?」
「少し語弊がありますかね。私の語彙力ではどうにも表現することが難しいですけど、端的に単純に手短に言うと、嫌いです。」
「端的に単純に手短に言ったな。」
「嫌いで、憎くて、恨んでいます。これ以上は言えませんが。」
「そっかあ。」
「それより、咲姫さんに報告行きますか?もうすぐ彼女の砦ですよ。」
「砦と碧と磐って、似てるよね。」
「似てるも何も、下の漢字が全て同じじゃないですか。」
「確かにそうだ!でも、なんで碧って石が含まれるんだろうな。色なのに。」
「宝石じゃないですか?その辺は私ではなく羽天さんにでも聞いてください。」
「おお、なるほどなるほど。」
「で、どうするんですか?」
「行こうか!」
「はあ。」
ため息をつかれた。余りにも馬鹿に見えてしまったのだろうか。だったら後で誤解を解かないと。
涼風家の下山道の途中に、茅野咲姫の為の砦がある。これは、彼女のこの島に移るための条件だったのだ。
「ちわーす。」
彼女はいつも通り十二単のような装いで風貌は美しいという言葉これほどまでに似合う人はいるのかと会議が国レベルで始まるほどだ。
読んでいただきありがとうございます!喜ばしい第二話『すずかぜミスチーフ 紹』でした。
タイトルの通り、本編ほぼ茅野咲姫の紹介になってしまいました。いや、実はこれが伏線に!となればいいのですが……
それにしてもよく働きますね、姫なのに。
大変な労働より慈善の活動って感じなのでしょうね、彼女にとってみれば。
次話にも、ご期待ください。少しずつ成長できるよう精進します!それでは。