つつがなプロポーズ 種蒔編
これはまだ、この島に来る前のお話。
「…合格っちゃあ合格なんだけどさあ。」
「どうかしました?」
この人の名は、何と言ったか忘れてしまった。まあ、そもそもこの時以外話したこともないのだから仕方がない話ではある。
「君、この成績じゃ本都で働けないよ?」
「…?どうしてです?だって合格なのでしょう?」
「そうなんだけど…この宗教の項目。」
指をさして、その点数を見せつける。その点数に目を丸くする。驚愕し、慄く。
「…3点?」
確かに、対策はしていなかった。しかしながら、これは俺の方のミスではない。そもそも応募要項にその試験はなかったはずなのだ。
「いやでも、それでも他の人は70点以上取ってるんだよ?」
「じゃあ、カンニングしたのではないですか?」
対策ができない問題なら、できるわけがない。むしろできるやつが疑われるべきだ。
「おいおい、そういう態度はよくないなあ。」
そう言いながら足を組みなおす態度は、『お前に言われたくねえよ!』と心の中で叫ばざるを得なかった。
頭を掻きながらいろいろ考えている素振りをしている。
あーそれ以上頭掻いちゃうとカツラだってばれちゃうよ?バレバレだよ。
「じゃあさ、あそこで研修に出てもらおうか。」
「あそこ?」
「じゃあ、ここに電話して?」
電話番号は、見慣れなかった。白金?
「プラチナ?」
「違うよ。しらかね。しらかねまつり」
「白金茉釣?」
「その島の島長だ。」
そーなんですね。
「とりあえず、そこで実習ね。」
「そうなのですか?」
「とりあえず、行ってこい!」
…はい。
こうして、俺はあの島に連れていかれることになりましたとさ。
「それだけですか?」
「まあ、そうだな。」
「そうですか。もっと、凄い話があるのかと思いました。」
「残念ながら、こんなもんだよ。」
9月30日。特に何か用があるわけではないが、暇で暇で仕方なく。そして、本都の親からリンゴが届いたので茅野咲姫の砦に遊びに行くことにした。
茅野咲姫の砦にて。
「そういや、風で廊下のランプが切れていたよ。」
「廊下のランプは電気で賄っているので、風で消えるわけがありません。」
「え、じゃあどうして消えていたの?」
「それは、点かないからです」
「何でだよ‼」
「電球を購うお金がなかったので。」
「なるほど。」
「神社に抗う時が来たようです。」
「神社と何があるの?!」
「ここの整備はすべて三波さんに任せています。」
「マジっすか!?」
「おかげで私は仕事に専念できます。」
何という度量の広さ。さすが、あの広大な土地を持つ家系の長女だけある。しかし、そんなことをして家計の方は大丈夫なのだろうか。
「ということで、三波さんにお願いしなきゃいけないというところでした。それで出かける準備していたところにあなたが来たわけです。」
「邪魔しちゃったな。」
「いえいえ、いつでもいいやと思っていたので別に構いません。」
「しかも、こんなダメ話。」
「それより、その話が聞けて良かったです。だって、誰にも言ったことないのでしょう?」
「そうだね、言われてみれば。」
「じゃあ、私が初めてのお相手ですね。」
「紛らわしいこと言わないで!?」
「やはりあなたをいじるのは楽しいですね」
「人をあんまりからかわないで!」
「あ、大き目な話を思い出したのですが、よろしいですか?」
「軽い感じで来たなあ。何でしょうか?」
「最近、本都から来た知り合いいませんか?」
「知り合い?うーんと、炎香ちゃん?」
「いえ、炎香ちゃんではなく。何か、こう、もっと私を崇めているというか、拝んでいるというか、そういう人なのですが」
「え、うーん。でも、そういう人かどうかわかんないけど…」
「お、誰ですか?誰でもいいですよ?」
「恙蒼葉。恙ないに蒼に葉っぱ」
「まさにピッタリじゃないですか!」
その後に浮かべた彼女の笑顔は、いつも通りの優しい笑顔ではなく、どちらかと言われると、何かを企んでいるときの笑顔だった。
「でも、どうしてその人が?」
「やめちゃったんですよ、メイドさん。」
これで、あっちの問題も解決だあ。
背中を伸ばし、くうっと言いながら手を下ろす。わずか数秒のことだったが、1分くらいに見えた。
服の上からわかる美しい体の曲線。そして、そこにあるべくようにしてある何の違和感も不和もない胸のふくらみ。少し服が下りることによって露になる乳白色に煌く二の腕。そこから目線を上にあげることで見えてくる美しいという言葉があまりにも俗っぽすぎて申し訳なくなるほどの指。その一本一本が国宝級である。そして、伸びをすることで力が入った顔は、また新たな可愛い一面を見せてくれた。
伸びが終わると、欠伸をした。その顔がなお愛おしく、アイドル崇拝も何となくわかる気がした。そのままベッドに倒れこみ、枕を抱いて睡眠の態勢に入ろうとした。相当お疲れのところに、こんな話を持ち出して、すごく申し訳ない。
「頼んでおいてもらっていいですか?」
「分かりました!」
蒼葉がバイト中だということを思い出し、出発の準備をする。
目的を見つけたら、行動に移すのみ。
PlanからDoだ。
「あ、あと一つ」
何か思い出したように体を起こし、枕を膝の上に置いた。
「何ですか?」
「私のことは、何と言うおつもりですか?」
「ああ、考えてなかったけど…お嬢様とでもいうつもりですよ?」
「そう、なら良かった。絶対に神怪とは言わないでください」
「そりゃもちろん。ばれたら大変だよ」
「そうですか。では、お願いします」
「じゃあ、行ってきます」
「行ってらっしゃい」
一人暮らし歴が長い俺にとって、行ってらっしゃいの一言は琴線に触れるものがある。




