短編 まつりチアーズ。
ここはどこかというと、島の西部にあるそれはそれは大きな、ゲーマーであれば中ボスくらいのダンジョンだと軽く盛り上がりそうな、砦の地下である。
誰の砦かと言えば、それはもう火を見るよりも明らかなことで誰も疑問さえ抱かないであろうことなので、あえてここでは言わないが、とりあえず私白金茉釣は、ここでお酒をたらふく飲んでいる。私は酒豪の内に入ると、死んだ旦那にも言われたことがある。家系だから仕方ない。そのため、たくさん飲んだところで、酔わないのである。しかし、この相方はそんなに飲むタイプではないらしく、飲み始めてから大体30分ほどで酔ってしまった。
「ちがいまーすーよー。」
反論をしようとするその言葉遣いがもうすでに酔っぱらってしまっていることを結論付ける。
「さくらはーまだよってなどいません‼」
「酔ってねぇなら、敬礼くらいしっかりしろ。」
「しゅいまへーん。」
彼女の名は、茅野咲姫。昔は、茅葺咲来。本都でまだ学生だった時の後輩。あの頃から、可愛いってすごく有名だった。それなりに頭も優れ、前に出るのが好きなタイプの、いわゆる優等生というやつだな。
だからこそ、薮坂みたいな後輩が可愛くて仕方ないのかもしれないな。
育てやすいというか、愛でやすいというか。
「あと、そんなに潰れるの分かってんなら、無理に付き合うなよ。」
「そーゆーわけにもいきませんよー。しかも、あたしが、すきでやっていることなのでー。」
「酔うと昔のお前が出るな。ポロッと昔の名前が出ちゃってるし。」
「なーんのことでーすか?」
「そうやって、いつもとぼけてたな。あの時も。」
「あーれーは、まつりさんがしつこくきくからじゃないですかー。」
「それからどーなんだ?薮坂とは、仲良いままか?」
「まあまあって感じですかね。」
「おい、行きなり素にもどんなよ。」
ビックリするだろうが。
「結局告白ってしたのか?」
「してませんよ。」
「それまたなんで?」
行動タイプの女子学生だったこの子がまさか告白しないなんてことがあるのか、と少し疑問に思った。
「だって、あの子他に好きな人がいたから。」
へぇ。そんなことがあったのか。
「私聞いちゃったんですよね。あの子ろうかでこくはくするもんだからさ。なんか、これじゃあかてないやっておもったんですよねー。」
また酔いが戻ってきたみたいだった。
人間の街の方で仕事があった時の帰りは、必ずといって良いほどこの酒蔵に来ているのだ。その理由は、いたってシンプル。この可愛い寝顔を見て癒されたいからだ。
なんだろうな、この可愛さは。言葉にできない思いって本当にあるんだなと痛感させられている。犬みたいに尻尾振ってそうな嬉しそうな笑顔をこぼすし、猫みたいに丸くなろうとするし、髪の毛は凄くふわふわしてるし、お肌はこんなにもちも
「またせくはらしたら、せんぱいでもおこりますからね。」
……ちなんだよな‼
「あーもう!おこるっていったじゃないですかー!」
怒るこの子の表情も、また一段と可愛いのだ。家にほしいな。
「ほんと、Sなんだから。」
頬を膨らませるその顔は、まるで餌を頬張るリスのようだった。
「なぁ、嫁に来ないか。」
「行きません!」
真面目に怒られてしまった。少しだけ反省の色をみせておこう。
「そーいえば、さっきの話思い出したんですけど。」
「なんだ嫁の話か?」
「さっきって言ったじゃないですか‼引っ張りすぎ‼」
「分かった分かったごめんて。」
「それで、さっきの話ですけど。私も、言われたことがあるんです。あのフレーズを。」
「あのフレーズってなんだ?」
「付き合いたいとか、結婚したいとかそういうことではなくて、ただ大好きです。ってやつ。」
「ほう。」
納得している素振りだけみせておく。全然わかんないけど。
「どういうことなんですかね?」
とっさに思い付くことを文章にしていくというのは、酔わない私とて簡単なことではなかった。
「ええと、それは。」
この考えの中でも、しっかりと彼のフォローをしなければならないと考えるとより一層難題へと進化していく。
「見てるだけで幸せとか、生きていると分かるだけで、幸せみたいなことなんじゃないか?つまり、同じ空気を吸えるだけで幸せみたいな?」
ダメだこりゃ。言葉を出せば出すほど変態度が増していく。これを聞いていたら、薮坂が編隊を組んでスクランブル発進してくるかもしれない。
「花は見てるだけで癒されるとかそういうことですか?」
「そ、そういうことだよ!すなわちこれが本当の高嶺の花ってやつだな。」
もしくは高値の花かも。
「ふーん。じゃあ、どうして、それを言ってきたんですかね?別に言わなくても良くないですか?」
うっ。それは、確かにそうだ。気づかなかった。一生の不覚……いや待てよ?どうして私があいつのことを考えてフォローしなければならんのだ?
「本人に聞いてみれば良いんじゃない?」
「それができれば良いんですけどねぇ。」
「まったくだ。」
「もちろん気持ち的なところもありますが、タイムリミット的なところもありますしね。」
「タイムリミット?」
「蒼葉ちゃんって知ってます?」
「ああ、後釜の恙蒼葉だろ?」
「あの子と入れ換えることにしたんです。」
「そーなのか?」
それまたなんで?と聞くのを遮って彼女は言う。
「そろそろ、けじめをつけなきゃなって。」
あーそう。
悔いがないなら、別に構わない。そういうのが、大人ってものだろ?
「なるほど。さくら、まだもう一杯いけるか?」
「え、あ、あの……はい!」
「じゃあお前の決意を祝して!」
ジョッキとワイングラスを掲げて叫ぶ。
この二人に合図は要らない。
「乾杯!」
いなくなるのは、丁度1ヶ月後のこと。




