短編 やぶさかフリータイム。
薮坂足助こと、俺は今現在暇である。現時刻を以て暇である。
いつもは何かにつけ基本的に仕事があるのだが、今日は一つもない。いつもくるおばあちゃんも今日はまだ来ないし、郵便の一つもない。学校も異状ないし、店屋もトラブルを抱えてなさそうである。平和なことは良いことだし、むしろ平和万歳とこの雲一つない景色を堪能したいという気持ちもないわけではないのだが、なんというかやることがないと、それはそれで辛いのである。
いつもは仕事があるのに、今日に限ってないとは…。
頭の良い皆様なら、こう考えるのではないだろうか。
『じゃあ、神怪の子たちと遊べばいいじゃん。』
これ以上ない正論をぶつけられてしまっては、うろたえるばかりではある。確かに、一度は考えた。一度となく、二度ほど。
しかしながら、そうもいかない理由があるのである。
まず初めに羽天。彼女にさっき断られた。理由は家から出たくないとかなんとか。確かに今日は暑い。学生たちは近づく夏休みに胸躍らしている今日は、7月も中頃まで来た16日。
役場の温度計を見れば、30度は超えていた。
外に出しておけば、10分もなくアイスは溶けるだろう。だから、エアコンをガンガンにかけた家でゴロゴロしたい気持ちもわかる。その気持ちを無下にしてまでこっちにこい、あるいは外で遊ぶぞ!という気はさらさらない。
では、次に炎香。彼女は、そもそもいつもどこにいるのか分からない。飛んでたり、あるいは森の木陰か?本当に分からない。彼女の性格もそれと同じかそれ以上に分からないが。何でも、人間にすごく優しいそうだ。悪魔なのに。悪の要素がないらしい。その辺のおじいちゃんおばあちゃんに聞けば、
「いつも助かっちゃってるんだよ。」
「困ったときに助けてくれるおなごさ。」
という返事が返ってくる。性善説は彼女を模して説かれてるのではというレベルだそうだ。
しかし、中年くらい、だから…40代くらいに聞くとその評判はひっくり返される。
「娘の友達が殺された。憎きやつだ。」
「いきなり暴れ始めた、頭のおかしい子だ。怪しい動きをする奴だ。」
とまあ、こんな感じに。まあ、270年も悪魔を続けたら、良いこともしたくなるのかもしれない。気まぐれみたいな。
というわけで、彼女も候補から外れる。
続いて、水神三波。彼女は、今日はお仕事が入っている。そのため、妹たちが遊びに来ている。
『じゃあ、暇じゃなくね?』
と思う人もいるだろう。俺だって最初はそう思った。彼女からの「妹たちすぐ寝るんで多分大丈夫だと思うんですけど…」という助言を、でも結局はてんやわんやなるんだろうなと楽観視していた今朝の俺は、本当にバカだったと言いたい。
家に到着して、1分もたたずに仮眠室のベッドへダイブ‼気づいたら寝ていたのだ。なんという睡眠欲。人間にもそこまでないぞ。
「全然、起きねえし。」
大丈夫なんだろうか。そもそも、こんなに寝れるほど彼女たちは普段活動しているのか?だとしたら、お説教しなきゃいけなくなりそうだけど。
こう言うこともあって、家に遊びに来てほしいのだ。家から出るわけにはいかない理由はここにあるのだ。
では、最後に茅野咲姫。彼女は今、本都へ出張中らしい。何でも、お手伝いとか何とか。
そして、神那ちゃんは、何をしているのかさっぱり分からないが、凄く忙しそうだった。
「話しかけないでください、忙しいので。」
と言われてしまった。至極残念で、凄く悲しい。
小耳にはさんだ情報だと、お店を開くとか。何だろうな。
というわけで、暇である。こうも見事に誰も参加できないとなると、偶然では片づけられない何かがある気がしてならない。
俺、嫌われてる?
こんな悲しく寂しく残念な独り言も、誰も聞いてくれない。島長は、街に出ちゃってるし。
あーあ、暇だな。暇だよ、暇。暇すぎて、暇っていう漢字がゲシュタルト崩壊しそうだよ、暇。暇、暇暇。暇な人の暇な人による、暇な人のための、暇な時間だ。ひまーひまーひま。やる事ねえ。暇に暇を乗せ暇で周りをコーティングし、暇をふんだんに使った暇エキスをたっぷり使ったくらいに暇。何を言っているのか分からないけど、それを指摘してくれる相手もいないから、暇である。
起きねえかな、この子たち。
そうこうしている内に、上の子が目を覚まそうとしている。泉咲ちゃん!
「お、ようやく起きたな!お兄ちゃんと遊ばな…」
また、寝てしまった。何だこの姉妹は。この前会った時はすごく元気だったじゃないか…どうしてそんなに眠いんだ?
「うーん。だいじょーぶ、よふかししても、あしたはちゃんとやぶさかさんと、あそぶから…」
寝言のようだが、多分昨日の夜起きた出来事だろう。ああ、この子たちは夜更かしを覚えたのか。というか、奈波ちゃんは無理やり付き合わされた感じなんだろうな。
なるほどなるほど。それなら仕方ない。
だからと言って、暇であるのに変わりはないが。
「じゃあ、俺も寝ちゃおうかな。」
後で、誤解を招き、ひたすら謝る羽目になることを考えもせずに、泉咲ちゃんと奈波ちゃんが寝るベッドで、迂闊にも寝てしまった。
「だからって、寝れるわけでもないんだがな。」
隣ですやすやと気持ち安そうに眠る彼女たちを見ると、意外や意外、眠くなるものだ。
こんな平日も、たまにはいいかもしれない。
おやすみ。




