ともしびレカンシリエーション(Monologue)
「生まれた国では、それはもう悪魔がいっぱいいました。養成所とかあって。そこで私は生まれました。才能自体はあったみたいでそれなりに期待されて育てられました。しかし、そう簡単に事は運びません。そんな簡単に問屋は卸してくれませんでした。
「善悪の違いがよく分からない私は、いつも良いことばかりしていました。花が枯れていたら咲かせ、老人が困っていたら手を差し伸べる。人間にはよく『優しいねえ。』とか言ってもらえてすごくうれしかったんです。」
「でも、悪魔にはそれは一番言われてはいけない言葉でした。周りの悪魔友達には、嫌がらせを受けました。」
「無視。仲間はずれ。唾吐き。靴に画鋲。背中に張り紙。罵られ、詈られ、雑に扱われ、言われた悪口の数々。今思えば、当たり前なんだけどね。だっていないでしょ、悪魔なのに善行を働く奴なんて。
「それでも、何とか耐えてたの。だって、人間にはずっと褒められて喜ばれて、嬉しくならないわけがないじゃん。私は間違っていない、って思ってた。
「引っ越してきたこの島でも、嫌がらせはさらにエスカレート。ゴミを投げられ、卵をぶつけられ、刃物を投擲され、汚水をかけられ、暴漢に襲われる。いじめとかって言うのかな、人間界では。いじめで死ぬ人とかっているでしょ?ずるいなあって思っていた。だって、死んでしまえば可哀想って思われるし、何しろ死ねるんでしょ?出来ないんだよなあ。厭われようが好まれようが、人間に存在を認められている限り、知られている限り、死なないんだよ。逃げられないんだよ。この苦しみから嫌なことから、逃げたかった。」
「首の皮一枚で、ほつれかけた糸をもう一度結びなおして、意地になって、意地張って。それでも、私は間違っていないって言い聞かせた。何を言われても何をされても、私は人間を信じる。
「だけど、その行為が報われることはなかった。私は、救われなかった。聖人君子も一歩間違えれば恐怖の対象なんだって。」
「糸がプツンと切れた。唯一の生命線が、支えが柱が、消えた。」
「魔女狩りだよ。つまりは、魔女裁判だね。いつだって人間のためを思ってしていた行動は、怪しすぎたみたい。怪しくて、妖しくて、疑わしい。その行為が―その好意が、如何わしい。
「本当に現実は、うまくいかないなあ。こんなはずじゃなかったんだけどなあ。小さいころからずっと。
「どうして怒られてるんだろう。どうして泣いてるんだろう。どうして縁を切られたんだろう。人間は皆、喜んでるのに。どうして、卵をぶつけられているんだろう。どうして暴力を行使されてるんだろう。どうして罵詈雑言をぶつけるんだろう。どうして人間は私の好意を無下にするんだろう。どうして、どうして、どうしてどうして、ねえ。どうして。
「私がおかしいのかな。私が悪いのかな。私の所為なのかな。あーあ、だったら最初から私なんか信じなければよかった。自分のことなんか信じず、周りの人の言う通りにしておけばよかった。そしたら、私だってここまでひどくはならなかった。私だって、できるんだよ。悪行くらい、悪戯くらい。私だって、できるんだけどな。もういいかな、疲れちゃった。こんな報われない、救われない世界なんか全部燃えちゃえばいいや。」
「そうやって、堪忍袋の緒が切れた。
「それからは、あの噂話の通り。でもそれは、魔女裁判に参加してたから。それに関しては私は悪くない。
「でも、ハナガ・イツガイだけは違う。彼だけは、本当に申し訳ないことをしてしまったと思う。
「ハナガ・イツガイは、いつまでも優しく、どこまでも甘い。それはきっと、私以外にもそうだったと思うの。彼は、専門家だったからよく話した。談笑だよ。
「でも彼は関わりすぎた。私と談笑すればするほど、疑いの目をかけられた。何度かやめようって言ったんだけど、彼はその優しい笑顔で『こんなに楽しいのにやめられないよ』って言った。
「私はそれに甘えた。
「この島の人々の方針は、疑わしきは罰せよ。ハナガ・イツガイもその容疑者に入っていた。彼の安否は、死んだ後に知った。私が殺したのも同然だった。
「もう少し強く言えば、もうやめようって。離れれば、甘えなければ。こんなことにはならなかった。もう少し我慢すれば、彼女の恩人を奪うことはなかった。本当に、ごめんなさい。」
彼女のうるんだ瞳は、その涙の正体は、忸怩と悔恨と懺悔。
ここまで、心のこもった神怪の涙を、見たことがなかった。




