みつはセレモニー 春陽の儀式
涼風羽天が第二の人生を歩み始めたころ、数字を用いて表すならば4月の初旬。北方諸島にて新たに長を務めることになった私、燈火ヘスティア炎香は、外からやってくるいわゆる海賊や軍隊の相手に追われ、疲れ果てていた。
「きついよ。皆話聞かないし、すぐ裏切るし。毎回結局私の力で押さえつけるしかないんだけど」
「そうなのですか?」
「私だって、本当は使いたくはないから、なるべく人に当たらぬよう、あくまで脅しとして警告として使っているんだけどね」
「そうですか。それなら、炎香ちゃんらしいですね。何でしたっけ?バーニング・ガーデンでしたっけ」
「…まあそうなんだけど。そういう名前なんだけど、三波ちゃん。あんまり言わないで、恥ずかしいから」
「駄目ですか、そうですか」
「そうですよ」
「なんか大変でしたら、私もお手伝いしますよ?」
「…でも、そういう戦闘になるようなこと、あんまりできないんじゃないの?」
「何を言うのですか!私だって、戦えますよ」
ファイティングポーズをとる三波ちゃんは、それはそれで可愛くはあったものの、決して強そうには見えなかった。
「見せたことは、本当に誰にもないので、秘密でお願いしたいのですが」
「ん?」
「私、水を自在に操れるではないですか」
「そうだね、自由自在だったよね」
「では、そこのペットボトルの水を、私の手にかけてもらえますか?」
「え?うん、分かった」
半信半疑、冗談半分で水を手に掛けると、その水は瞬く間に固まって鋭くなっていき、その形はさながら剣のようであった。
「…すげえ」
「ですよね?!この前初めて知ったんですけど、どんな水でもいいみたいなんです。特に、私の体から出るものだと、もう少し強そうなものが出来上がるんですよ」
「…へえ。で、でも重いんじゃない?振り回すのとか難しいんじゃないの?」
「それがですね、丁度いいんですよ。でも、私しか持てないんですけどね」
「そうなんだ」
そんな会話をしていると、伝書鳩が窓の外から入り込み、こここそが我が実家であると言わんばかりに堂々とした振る舞いを見せていた。
「今どき、伝書鳩って」
「性能良いみたいですよ?」
「そうなんだ…で、何だろうか」
足に引っ掛けられた手紙を開くと、そこには「開戦」の二文字だけが書かれていた。
たった二文字しか書かれていないという点に、事の大きさがしっかりと刻まれていた。
「ええ、また行くの」
「じゃ、じゃあ今度は私が行きましょう!」
「あ、そう?行ってくれる?じゃあ、お言葉に甘えて。一応ついていくね」
「OKです!では、行きましょう。ことは急を要します」
「そうだね」
ゆっくり歩く時間は無いので、ささっと羽を使って飛んでいく。
現場を訪れると、もうすでに1隻の船が到着しており、荷物を下ろしていた。
「暢気なものだ」
「じゃあ、降りましょう」
降り立つと、そこには男の中の男のようなたまに血が上っているように顔を真っ赤にした漢たちが、武器を片手に集まっていた。
「我々は、アピトル帝国アンリ様の命令を受けやってきた、帝国軍だ」
「法律順守、お疲れ様です」
「我々は、この殺人幇助国家をこの世界から除去するため、やってきた」
「これまた、直接的かつまだそんなことを」
「では、尋常に参る」
「じゃあ、お願いね、三波ちゃん」
「分かりました!」
「おやおや、今日は燈火ではないのか?バカにされたものだな、こんな小娘を出されてしまっては」
「何と言ったらいいか分かりませんが、とりあえず私は負けませんよ?」
「なら、お手並み拝見。お前ら、行け」
「イエッサー!」
「炎香ちゃん?」
「何?」
「好きな曲とか、ある?」
「曲?曲か…あ、ジングルベルとか好きだよ?」
「悪魔なのに」
「別にいいだろ!」
「分かりました。では、行きましょう。春陽の儀式、すったーとです!」
そう宣言すると、彼女は自分の左手の親指に自分の犬歯をひっかけ、血が噴き出すほど豪快に手を振った。その振った時の放物線に沿って、剣が出来上がった。
「うおおおおおおおお!」
男共が雄叫びをあげる。
その瞬間、水神三波の目がギランと変わった。そのおぞましさは、今まで味わったことがなく、鳥肌が立ったとともに、これではまた十六夜さんに怒られるなと思った。
殺しすぎると、怒られるんだよね。
「じんぐるべーる!じんぐるべーる!すずっがなるっ!」
その顔は、目いっぱいの笑顔で、まるでリズムをとるように、人を斬っていく。しかしながら、相手に外傷はない。不思議すぎて、言葉が出ない。
「その後っ、の歌詞はっ、分からないっ、ヘイ!」
このタイミングで右手にも同様の作業を行い、二刀流となった彼女は、誰に止められなかった。
結局誰も何も言えぬまま、敵軍は全滅した。その数、31名。
「三波ちゃん、見直したよ…」
「初めてだったんですけど、うまく出来ましたかね?」
「…そういえば、外傷はないけど、生きてるの?」
「生きているかどうかで言えば、少し難しくなるのですが、強いて言うならそうですね、相手の血が全て清純な水へと変わったということですかね。始りの成就を祈る儀式は、春陽の儀式と言いますが、この春陽の儀式、攻撃型で使うなら相手の血液を春の川のような清らかな水へと変えるということなのです」
そのために、剣が一番やりやすいのです。
そういう彼女の笑顔は、屈託がなかった。なさ過ぎて、怖かった。
「あ、これ泉咲には内緒ね」
「え、ああ、うん」
「神様なら何でもできるんですよ。このうわさが広がれば、もう少し少なくなりそうですね」
「…そう、だね」
神様って、怖い。




