すずかぜクラス 3月のあれこれ・part2
「じゃあ、先生の昔話でも聞かせてくださいよ」
「そんな大した話は無いぞ?学生の頃は友達ゼロだし」
「でも、神怪になった後は、意外と仲良くやっていたんじゃないですか?この前来ていた薮坂さんとか、己卯さんとか」
「何で知っているんだよ」
「蝉垳さんから聞いたのもありますが、講師の名前くらいは覚えていますよ」
「…ああ、あれ参加していたんだっけ?」
「一応ですけれ。そんな事より」
「損な事寄り?」
「いや違います…まあ、確かに先生には損かもしれませんけれど」
「何?」
「どうして、先生は神怪になったんですか?」
「わーお、それ聞いちゃう?」
「もう卒業するんですし、良いじゃないですか」
「まあ、そうだけれども」
「私だけに、お願いします」
「…しょうがないな。簡潔に、短くだよ?」
「ええ、それでも大丈夫です」
「私、学生時代は独りぼっちだったんだよ。まあ、これは何度も言っているから耳に胼胝ができただろうけど。それで、一人だとね、想像の世界が広がるんだよ。
「まあ、これは直結するわけじゃないから頭の片隅にでも置いておいて。
「そんなある日。北方諸島では、神隠しが頻繁に起き始めたんだ。よくよく考えれば、全て食物連鎖の頂点、山菱菊梨の犯行だということは、目に見えていた。火を見るよりも明らかだった。
「だけど、住民はそんなことに気づかない。あるいは、気づいていても見てみぬふりをした。
「悲しい話だけど、こちら側から見れば、そうとしか見えない、卑劣で下劣な話だよ。
「そして、彼らの期待に応えようと、島長を筆頭に対策チームが立ち上がった。
「そこに、同じクラスの3人がいた。そのうちの一人が、己卯神那だったってわけ。
「まあ、本当はその3人組の方から立ち上げたようだけど。
「そして、彼女らは真実にたどり着いた。
「その前に、私はたどり着いてはいたんだけど。
「しかしながら、彼女らの熱意は住民には届かなかった。
「すべて、君たちが犯した犯行じゃないかと、指差されながら堂々と言われたそうだ。
「そして、彼女らは魔女裁判にかけられることに。
「そこで、私は閃いた。思いついちゃった。
「私がここで全責任を背負えば、英雄になれちゃうんじゃない?ってね。
「結果は散々だった。
「最終的には、証拠を提示するため処刑場にいなかった己卯以外は処されたよ。
「その時だったかな。当時の島長から、なんかパワーみたいなのをもらったんだよ。
「君は美しい、天使みたいだ。って言われてね。
「本当にその通りになったときは驚いたもんだよ。
「そんな感じで、私は天使になった。空前絶後の大天才へと、成り上がった。」
終始静かに聞いていると思ったら、作業半分の片手間だった。
「あの、聞いていた?」
「ああ、すみません。すこし、住民に対し怒りを覚えたもので」
「神怪になったことは後悔していないし、そこは素直に感謝かもしれないな。だって、きっかけが無かったら、こんな幸せはなかったんだから」
「…幸せ?」
「教え子が出来て、一年間教えて、卒業する。めちゃくちゃ幸せじゃない?」
「…そう、ですか」
「そうなんだよ」
教師でも、そんな気分になるんだ。親がならないわけがない。
「さあ、土日のどっちか開けとけよ?家庭訪問だからな?」
「え、今週ですか?」
「もちろん」
「わ、分かりました」
自然な笑顔に心打たれる18時50分だった。
「ふう、終了」
「じゃあ、お疲れさまでした」
「お疲れ」
「先生」
「ん?」
「お疲れ様です、色々と」
「…お互い様だよ」
まだ、春の日差しが差し込まないのは、きっとまだ解決していないあれこれがあるからなのだろう。少なくとも、茶畑いろは関連のあれこれが終われば、春の訪れは自然と来るように思えた夜だった。




