すずかぜクラス 3月のあれこれ・part1
桜舞い散る3月。と言いたい所だったが、残念ながらこの町に、この時期に、春の訪れと思しき音色や景色は見受けられなかった。せいぜい言うとするなら、融けた雪が氷とならず、川の流れに沿って海へと流れていくようになったことくらいだ。
海へと流れ、世間を知った元雪の塊は、どのようなことを考え、何を思うのだろうか。
そんなくだらないことを考えつつ、私は卒業式の準備へと向かった。
幸いにも、私にはそこまでの仕事は要求されず、椅子を人数分出すことや卒業式の式次第のプリントアウトなどの雑務に追われていた。
ほんと、印刷機って理解不能な動きするよな…
「はあ、ようやく一クラス分だよ」
誰か手伝ってほしいものではあったが―それこそ、猫の手も借りたいという状況だ―、その他の先生は他の重要任務を任されており、私のような雑務担当に構っている余裕などなさそうだ。12月は師走とも呼ばれるが、本当に師が走るほど忙しいのは、卒業式を控える3月なんじゃなかろうか。
そんなわけで、今印刷室に一人なのである。
「いやいや、先生!わ、私のこともカウントしてください!」
正確を期すなら、今印刷室に教師一人と卒業生一人である。
「ていうか、卒業する側なのに、手伝っていていいの?結局進学じゃないんでしょ?」
「そ、そうですね。私は、神怪になる身ですので、進学とかは別に」
「一応言っておくけど、というか今更だろうけど、進学してもよかったんだからね?」
「え、そうなんですか?」
「この学校での記憶がなくなるというだけだから」
「それが、嫌なんですよ」
「そうかい。お冷なのかい」
「どういう聞き間違えなんですか、それ!」
「お土産なのかい?」
「もみあげじゃありませんよ!」
「誰もそんなこと言っていないんだけど」
どうやら、私もそうだが、茶畑もまた疲れているようである。
「まあ、とりあえずあと二クラスで終わるんで、頑張りましょう」
「そうだな。親に連絡しとけよ。たぶん18時過ぎるだろうから」
校則で、生徒は18時までに下校しなければならないが、先生と一緒という条件なら19時まで拘束しても構わないのだ。
「いや、大丈夫です。親はどうせ、気にも留めていません」
「え、そうなの?」
高速な対応に焦り、変な声が出てしまった。
「でも、弟はいるんでしょ?」
「ええ、弟はまだ小さいんで。つきっきりです」
「そうなのか…」
「最悪、卒業式に来ないんじゃないですかね。まあ、あくまでも万が一という話ですけれど」
「すごいな」
その徹底ぶりに。徹頭徹尾、干渉しないという志に、思わず嘆息が漏れた。
「お父さんの方は、まだ優しいんですけれどね。私と母の会話にいつも緊張感を持ち、どちらかの肩を持ちつつ、ことが起きぬように慎重に会話している感じです。申し訳なくは思っていますが」
「ということは、お母さんをおとせばいけるのか…」
「え、何の話ですか?」
「卒業式だよ。どうせ、答辞は茶畑なんだろう?じゃあ、聞いてもらわないわけにはいかない」
「まあ、そうですけれど…」
「大丈夫、心配するな。まだ2週間ある」
「……そうですね。先生を、信じます」
「よし!そうと決まれば、今日の仕事光速で終わらせるぞ!」
「え、光の速さで?!」
「いや、できればのぞみくらいの速さで」
「誰が分かるんですか、昔、日本が作り上げた乗りものなんて!」
「いやいや、そんなことないよ?社会系の入試なら、出るよ?」
「マジですか⁈」
「大マジですよ」
「そうだったんだ…」
「知らないこともあるんだね、茶畑いろはにも」
「私はシルバーコレクターですから。完璧は求めないんですよ」
「開き直るな」
「すみません」
瀬戸際会議に
「先生、井戸端会議です」
失礼。井戸端会議に花が咲いたと思い、これでは早く終わらない、最悪一人だ…なんて思っていると、意外や意外、手はめちゃめちゃ動いていたようで、もう二クラス目も終了を迎えていた。
「いよいよ、ラストですね」
「そうだな」
「…でも、製本する間って、暇ですよね」
「まあ、そうだな」
印刷作業に関しては、まだ印刷物が飛んでくるというようなイベントがあるのでまだ楽しもうと思えば楽しめるのだが、製本作業に関してはひたすらホッチキスで止めるだけという単純作業なので、とてつもなくやる気が起きなくなるのだ。
「はあ、でもやらなきゃなあ」
「じゃあ、先生の昔話でも聞かせてくださいよ」




